第40話:重力王さん、アルスの『トランポリン』で跳ね回る
銀河系をチョコ工場にリフォームし、機械皇帝を巨大な泡立て器へとジョブチェンジさせたアルス。
だが、その「甘くて軽い」平和を打ち砕くように、宇宙の時空が歪み、全方位から目に見えない「巨大な力」が押し寄せてきた。
現れたのは、全身が黒い重力波の衣で包まれ、周囲の光さえも足元に跪かせる、宇宙の重さを統べる超越者――『重力王・グラビティ』である。
『……不届き者、アルス・ルーフェウス。……汝、宇宙の質量バランスを糖分で塗り潰し、軽々しき遊戯の場に変えた。……万物に宿る「重み」こそが宇宙の理。……その身、一京倍の重力で粉砕してくれるわ』
重力王が指を下へ向けると、アルスたちが乗る「銀河系キャンピングカー」全体に、想像を絶する圧力がかかった。
「……ぐっ、体が……! 床に吸い込まれる……!!」
父グランツが、鍛え抜かれた肉体をもってしても一歩も動けず、四つん這いになって呻いた。イザベラもエドワード王子も、自分の骨が軋む音を聞きながら、文字通り地面に「圧着」されていく。
「……師匠。……あれは、魔法じゃありませんわ。……存在そのものを『重く』する、宇宙の根本的な呪い……!!」
イザベラが、自身の魔導板が圧力でペシャンコになるのを見て、涙ながらに叫んだ。
だが、アルスは「うーん、おじさん、なんだかギュウギュウ押してきて……ちょっと苦しいよ」と、顔を真っ赤にしながらも、その重力の中心へと一歩、また一歩と歩み寄った。
彼にとって、世界の重みは「窮屈すぎる満員電車」のような不快な設定に過ぎない。
「ねえ、重たいおじさん。……そんなにみんなを地面に押し付けたら、お空を見上げられなくなっちゃよ。……あ、そうだ! この『重たい力』を、全部『ふわふわのトランポリン』に変えちゃおう!」
アルスが、足元の床にそっと手を触れた。
【万物創造(管理者権限)】が、宇宙の重力定数を、根底から「弾力性のパラメーター」へと書き換える。
(えーと、この地面に押し付ける力。……全部、跳ね返る『ゴムの力』に変えて。……床は最高級の『マシュマロ・スポンジ』にして……えいっ!)
パシュゥゥゥ……ッ!
光が爆発した。
一瞬にして、銀河系キャンピングカーの全フロア、さらには重力王が支配する周囲数光年の時空そのものが、虹色の輝きを放つ「宇宙一巨大なアスレチック・トランポリン」へとリフォームされた。
『……な、何だと!? 我が絶対重力が……「反発係数99.9%」の弾力に書き換えられただと!? ……演算不能、我の体が、勝手に浮き上がるぅぅ!!』
重力王が絶叫した。しかし、彼の叫びもむなしく、かつて威厳たっぷりに立っていたその体は、アルスが作ったトランポリンの上で、ポーン、ポーンと無様に跳ね始めた。
「わあ、楽しい! おじさんも一緒に跳ぼうよ! ほら、一番高く跳べた人が勝ちだよ!」
アルスは軽やかに宙を舞い、重力王の頭の上で「よしよし」と手を叩いた。
【万物創造】の権限が、重力王の「厳格なプライド」を、一瞬にして「子供のような好奇心」へとデバッグしてしまう。
『……あ……ああああ……ッ!! 浮遊……!? 我は数億年、地面を見下ろすことばかり考えていたが……。……お空へ跳ね上がるのが、こんなに……こんなに自由で、気持ちいいことだったなんて……!!』
重力王は、黒い重力の衣を脱ぎ捨て(アルスが勝手にカラフルな体操服に変えた)、その場で見事な三回転ジャンプを決め始めた。
「……楽しい。……楽しいぞ! 宇宙を重くするより、みんなで跳ね回る方が、ずっと、ずっとクリエイティブではないか!!」
「あはは! おじさん、跳ぶの上手だね! ……あ、アスタくん。おじさんのために、宇宙の果てまで届く『巨大な滑り台』も作ってあげてね!」
「畏まりました、我が主。……全銀河の重力を『アトラクション・モード』に設定いたしました。……重力王殿には、本日より『銀河遊園地の安全責任者』として、跳ね回る子供たちのクッションになっていただきましょう」
アスタロトが不敵に微笑み、重力王の権限を「落下ダメージの完全無効化」というシステム・バグに置換してしまった。
こうして、宇宙を押し潰そうとした「重さの恐怖」は、アルスの「トランポリン」一つで、全人類が空を飛んで遊べる「究極のレジャー」へと昇華されたのである。
「……師匠。……ついに『物理の基本法則』まで、お遊具になさいましたか」
イザベラが、宙に浮かびながら震える手でその反発力の数式を魔導板(Ver. 20.0)に刻む。
「……アルス様。……これで、この宇宙から『重い空気』は消え、代わりに『弾むような笑顔』だけが溢れるようになりましたね」
エドワード王子が、涙を拭いて、楽しそうに宇宙の果てまでジャンプする重力王の勇姿を眺めた。
アルス・ルーフェウス、15歳。
彼の「遊び心」は、ついに宇宙の質量さえも「おもちゃ」へと書き換え、銀河全体を一つの巨大な「アスレチック会場」に変えてしまった。
……だが。
宇宙が「ふわふわ」になったその時。
宇宙の「境界線」を管理する『次元の壁の番人』たちが、この「物理的な緩み」を検知して色めき立った。
「……壁が、弾んでいる。……境界が、マシュマロ化しているだと……!? ……直ちに、次元の『釘打ち』を開始せよ」
アルスの銀河ドライブは、ついに「世界の枠組み(フレーム)」そのものを固定しようとする、最も頑固な番人たちとの戦いへと向かおうとしていた。
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