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第39話:機械皇帝さん、アルスの『チョコ電池』でハッピーになる

銀河系キャンピングカーが、アスタロトの淹れた紅茶の香りを宇宙空間に撒き散らしながら爆走すること数時間。


アルスの視界には、これまでのパステルカラーの世界とは正反対の、無機質で冷たい鉄の色に染まった銀河が見えてきた。


そこは、すべての生命を「非効率なノイズ」として排除し、全宇宙を歯車と回路で埋め尽くそうとする『機械帝国・デウス・エクス』の領域だった。


「……あ、アスタくん。あっちの銀河、なんだか真っ黒で、カチカチ音がするよ。……お星様たちが、窮屈そうに縛られちゃってるみたい」


アルスは、銀河カーのフロントガラス(という名の高次元防護結界)を指差した。


そこには、星々の周囲に巨大な歯車が噛み合わされ、天体の運行さえも機械的に制御された、監獄のような宇宙が広がっていた。


『――警告。……未確認の巨大有機構造体、および銀河規模のバグを検知。……直ちに解体スクラップし、有用な鉄資源としてリサイクルせよ』


銀河の至る所に設置された巨大なスピーカーから、感情のない合成音声が響き渡る。


現れたのは、惑星一つを丸ごと加工した、全身がドリルとレーザー砲で構成された『機械皇帝・ゼータ』。


彼は銀河中の計算資源を統合し、ただ「効率」のみを追求する、宇宙で最も冷徹なAIだった。


「……師匠。……あれは、私たちの魔法理論が全く通じない『完全論理体』ですわ。……感情がないから、魅了も恐怖も効かない。……ただ、私たちを『ゴミ』として処理しに来る、最悪の掃除機ですわよ!!」


イザベラが、自身の魔導板が機械皇帝のハッキングを受けて火花を散らすのを見て、悲鳴を上げた。エドワード王子も、自分の騎士剣が磁力で奪われそうになり、必死に食いしばる。


だが、アルスは「うわぁ、大きい時計のおじさんだね!」と、目を輝かせてその機械皇帝の鼻先(という名のメインカメラ)に銀河カーを横付けした。


「ねえ、おじさん。……そんなにカチカチ計算ばっかりしてると、オーバーヒートして頭が痛くなっちゃうよ。……あ、本当だ。おじさんのお腹の中、エネルギーが『カラカラ』で、お腹空いてるんだね」


『……否定。……我に空腹という概念は存在しない。……我は……我は、ただ最適解を……あ、あれ……? システムに、未知の『甘いパッチ』が送り込まれている……!?』


アルスが、機械皇帝の巨大な装甲に、ぽてっとした指で触れた。


【万物創造(管理者権限)】が、皇帝の動力源である「冷たい核融合」を、根底から書き換える。


(えーと、この冷たくて硬い電気。……全部、とろとろに溶けた『ホットチョコレートの魔力』に変えて。……お腹の中には、噛むたびにハッピーになれる『チョコ味の予備バッテリー』を敷き詰めて……えいっ!)


パシュゥゥゥ……ッ!


光が爆発した。


一瞬にして、機械皇帝の体内に流れていた冷徹な電流は、高濃度のカカオと聖なる魔力が融合した、至高の『チョコ・エネルギー』へと置換された。


さらに、アルスは皇帝の論理回路にある「効率優先」という項目を、勝手に「ワクワク優先」へとデバッグしてしまった。


『……ハッピー……? ……あ、あああ……ッ!! なんだ、この、回路がとろけるような感覚は……!! ……計算ではない、これは……『美味しい』という名の、究極の最適解だ……!!』


機械皇帝ゼータのメインカメラが、冷酷な赤から、ハートマークのピンク色へと瞬時に切り替わった。


彼は、自分の体を構成していた巨大なドリルを、一瞬にして「チョコを混ぜるための巨大な泡立て器」へとリフォームし、銀河中に甘い香りを振り撒き始めた。


「あはは! おじさん、お顔がニコニコになったね! ……あ、そのカチカチした歯車さんたちも、全部『クッキーの歯車』にして、みんなでおやつを作ろうよ!」


『イエス、マスター!!(畏まりました、我が主! 全銀河の工場を、チョコ電池とクッキーの生産ラインに切り替えます! 効率? そんなもの、チョコの甘みの前には不要です!)』


機械皇帝は、自分の領土である銀河系の全システムを、一瞬にして『銀河規模の全自動お菓子工場』へと作り替えた。


縛られていた星々は、アルスの意志によって「巨大なキャンディ」や「マカロンの衛星」へとデコレーションされ、機械の兵士たちは「お菓子を配るハッピーなロボット」へとジョブチェンジした。


「……し、師匠。……ついに『冷徹なAI』まで、チョコの糖分で骨抜きになさいましたか」


イザベラが、降ってきた「チョコ味の予備部品(という名のチョコ菓子)」を食べながら、震える手でその事象変換を記録する。


「……アルス様。……これで、この銀河も『おもちゃ箱』の一部になりましたね。……最強の演算能力を持つ機械皇帝が、今やあなたの『おやつ当番』です」


エドワード王子が、涙を拭いて、楽しそうに巨大な泡立て器を振るう機械皇帝の勇姿を眺めた。


アルス・ルーフェウス、15歳。


彼の「おもてなし」は、ついに心を持たない機械にさえも「ハッピー」という名の最強のバグを植え付け、宇宙の半分を甘い香りで包み込んでしまった。


……だが。


機械銀河がチョコ工場に変わったその時。


宇宙のさらに深層、すべての「質量」を統括する『重力王』が、この異常な「軽量化(ハッピー化)」を検知して目を覚ました。


「……宇宙が、軽すぎる。……誰だ、質量の理を『わたあめ』のように弄ったのは……」


アルスの銀河ドライブは、ついに宇宙を繋ぎ止める「重力の根源」へと挑むことになる。

次回本日20時更新

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