第38話:銀河系さん、アルスの『キャンピングカー』にリフォームされる
開発者が「もう勝手にしろ!」とモニターを叩きつけ、世界の運営権が事実上アルスの手中に完全に移り変わってから数日。王立セント・ルミナス魔導学院の屋上は、もはや教育の場ではなく、全宇宙の運命を左右する「作戦会議室(おままごと場)」と化していた。
15歳になり、その立ち居振る舞いに神々しい色気さえ漂わせ始めたアルス・ルーフェウスは、手にした「虹色の万華鏡」を覗き込みながら、夜空のさらに先、光さえ届かない暗黒の領域を見つめていた。
そこには、開発者が「未実装」として放置した、何も存在しないはずの真っ暗な「虚無の海」が広がっている。
「……ねえ、アスタくん。あっちのお空、なんだか真っ暗で、色の塗られていないキャンバスみたい。……誰も住んでいないなら、僕たちが遊びに行ってもいいかな? あそこにお絵かきしたら、きっと楽しいと思うんだ」
「左様でございますか、我が主。……あれは未実装の暗黒領域。……本来、このゲームの舞台外として、何も配置されていない『虚無』の空間。……ですが、主が望まれるのであれば、この銀河系そのものを『移動用ビークル』に書き換え、あちらへ遊びに行くことは造作もございません。……ちょうど、ピクニックの季節ですしね」
執事アスタロトが、主の横顔を見て、不敵に微笑んだ。彼の眼鏡の奥には、もはや魔神のそれではなく、宇宙の全定数を書き換える「チート・エンジニア」としての狂気が宿っている。
「わあ、いいネ! じゃあ、このお星様たちの集まり(銀河)を、全部まとめて『キャンピングカー』にしちゃおう! ……中には美味しいお菓子がいっぱいで、みんなでお泊まりできる、すっごく大きいおうちにするんだ!」
アルスが、銀河の渦の中心――巨大なブラックホールが鎮座する『いて座Aスター』に向けて、しなやかな指先をかざした。
【万物創造(管理者権限)】が、一千億の星々を抱える銀河系そのものの物理エンジンを、根底から書き換える。
(えーと、このぐるぐる回ってるお星様たち。……全部まとめて『虹色のタイヤ』をつけて。……真ん中には、みんなが住める『ふわふわのクッションの星』を敷き詰めて。……エンジンは、アスタロトくんの『おいしい紅茶の香り』で動くようにして……えいっ!)
パシュゥゥゥ……ッ!
銀河系全体が、見たこともないような七色の光に包まれた。
王都の空が、昼間だというのに万華鏡のように激しく色彩を変え、重力の概念が一時的に「綿あめ」のように軽くなる。
一瞬だった。
渦を巻いていた銀河の構造は、一瞬にして、宇宙空間を優雅に滑走する「超巨大な、うさぎさんの形をしたキャンピングカー(銀河サイズ)」へとリフォームされた。
恒星はヘッドライトに、星間ガスは高級なフカフカのソファに、そして恐るべきブラックホールは「周囲のゴミを吸引して純粋なエネルギーパウダーに変える全自動の掃除機」へと、あまりにも平和的なデバッグを施された。
「……な、ななな……ッ!! 銀河系の公転周期が……時速十万光年の『快適なドライブ速度』に置換されたわ!! 師匠、これでは一晩で隣の宇宙まで届いてしまいますわよ!!」
宮廷魔導師長イザベラが、自身の魔導板に流れ込む「銀河規模のナビゲーション情報」を見て、鼻血を出しながら絶叫した。彼女の足元の地面は、既に「走行中の微振動を吸収する最高級の絨毯」へと質感が変わっている。
「アルス様、出発の準備は整いました。……王都の住民全員、および隣国の皆様も、すでにこの『銀河カー』の中の特等席へご案内しております。……さあ、未知の宇宙へ、ドライブに出かけましょう!」
エドワード王子が、涙を拭いて、銀河の窓(大気圏)から見える、美しく流れる星々の景色を眺めた。王立学院の校舎そのものが、今や「銀河カーの運転席」の一部として機能していた。
「あはは! ポチくん、シロちゃん、キラくんも、みんな乗ったかな? ……出発進行ー!」
アルスが指を鳴らすと、銀河系キャンピングカーは、アスタロトが淹れた紅茶の芳醇な香りを「排気ガス(アロマ)」として撒き散らしながら、宇宙の暗黒領域へと一気に加速した。
彼らにとって、それはただの「楽しい家族旅行」に過ぎなかったが、その進路上にある「真面目な文明」の星々にとっては、たまったものではなかった。
数百万光年先、隣の銀河を支配していた『機械文明・鋼鉄の帝国』の監視網が、異常な反応を捉えた。
「……緊急事態。……未確認の巨大物体が、光速の数千倍で接近中。……外見をスキャン。……う、うさぎ……? 全長十万光年の、光輝く『うさぎ』が、笑いながらこちらへ突進してくる……!!」
帝国のAIが演算不能に陥り、火花を散らしてショートした。
「わあ、あっちにピカピカしたお城があるよ! ……あそこに寄って、みんなでバーベキューしよう!」
アルスの「ドライブ」は、ついに銀河同士を物理的にドッキングさせ、宇宙の地図を「巨大な遊び場の設計図」へと書き換え始めたのである。
もはや、アルスの辞書に「不可能」の文字はない。
彼は、宇宙の端っこを「お絵かき」で埋め尽くすために、銀河を駆ける最強の5歳児……ではなく、15歳の全能者として、アクセルを思い切り踏み込んだ。
「アスタロトくん、おなかが空いたから、お月様で焼いた『銀河ステーキ』を出してよ!」
「畏まりました、我が主。……走行中のエネルギーを利用して、ちょうど今、最高の焼き加減に仕上げたところでございます」
銀河系を丸ごと包み込む香ばしい肉の匂いと共に、アルス一行の「宇宙リフォーム・ツアー」は、誰も見たことのない未知の次元へと突き進んでいく。
次回明日12時更新




