表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/42

第37話:デバッグ・モンスターさん、アルスの『お絵かき』で飼い慣らされる

アルスが世界のソースコードを『ワクワク冒険記』にアップデートし、王都全体にメロンパンをログインボーナスとして配布した直後、空が不自然なほど「平坦な灰色」に染まった。


それは、どんな魔法の光も反射しない、世界のテクスチャが剥がれ落ちたような無機質な空間だった。


空に開いた漆黒の穴から、一兆文字を超える「0」と「1」の羅列を纏い、巨大な『白い直方体』が音もなく降りてきた。


全次元の不要なデータを物理的に粉砕し、ゴミ箱へ放り込む、運営直属の最終掃除兵器――『デバッグ・モンスター・コード:ZERO』である。


『……不適切なオブジェクト、アルス・ルーフェウス。……汝の存在、および汝の改変したパッチを、根源から抹消パージします。……演算開始』


デバッグ・モンスターから放たれたのは、眩い「白いグリッド状の光」。


それに触れた城壁や木々は、枯れる暇もなく、最初から存在しなかったかのように『透明なポリゴン』に変わって消えていく。


「……ひ、ひぃぃ……ッ!! あれは……あれは『概念の消しゴム』よ!! 私たちの存在理由アイデンティティそのものを、システムから削り取ろうとしているわ!!」


イザベラが、自身の魔導板が次々と「File Not Found」に書き換わっていくのを見て、発狂しそうになりながら叫んだ。エドワード王子も、自分の体が足先から薄くなっていくのを感じ、初めて「存在の恐怖」に震えた。


だが、アルスは「うわぁ、大きい豆腐だね!」と、楽しそうに手を叩いてその白い立方体に駆け寄った。


「ねえ、お豆腐さん。……そんなにお空を真っ白にしちゃったら、お絵かきする場所がなくなっちゃうよ。……お顔がないのも、寂しそうで可哀想だね」


『……理解不能。……対象をデリート……あ、ああっ!? 書き込めない……!? 我が消去コードが、なぜか「パステルの色鉛筆」に変換されている……!!』


アルスが、デバッグ・モンスターの真っ白な側面に、ぽてっとした指で触れた。


【万物創造(管理者権限)】が、世界を消そうとする「消去の意志」を、単なる「大きな白い画用紙」として再定義する。


(えーと、この真っ白なおばけ。……お顔がないから怒ってるんだね。……よしよし、僕がすっごく可愛い『わんちゃん』の顔を描いてあげるね! ……えいっ!)


パシュゥゥゥ……ッ!


アルスの指先から放たれた虹色のインクが、無機質な立方体の表面を豪快に塗り潰し始めた。


彼にとって、運営の最終兵器は、ただの「落書きしがいのある真っ白なキャンバス」に過ぎなかった。


一瞬だった。


世界を消去するはずだった巨大な立方体は、アルスのお絵かきによって、一瞬にして、巨大なつぶらな瞳と、ピンク色のベロを出した、「世界一巨大な柴犬の姿(お豆腐型)」へとリフォームされた。


さらに、アルスはモンスターの深層プログラムにある『削除命令』を、勝手に『汚れの自動お掃除モード(ただし、ゴミは金平糖に変える)』へとデバッグしてしまった。


『……キュ、キュゥゥン……?(我は……消去するはずの……あ、この主様、大好き……。……ペロペロして、世界の汚れを全部金平糖にしてあげたい……!)』


デバッグ・モンスター・ZERO改め、巨大柴犬の『ゼロくん』は、アルスの足元にゴロンと横たわり、巨大な尻尾(という名の情報の奔流)をブンブンと振って喜びを表した。


ゼロくんが一舐めするごとに、消えかかっていたイザベラの魔導板やエドワード王子の足は、以前よりも頑強な「高解像度の神話級データ」に修復されていった。


「あはは! ゼロくん、お利口さんだね! ……あ、お空の白いところも、全部お掃除して、元の『青空』に戻してね!」


『ワンッ!!(畏まりました、我が主! 空にあるバグも、不気味な削除コマンドも、全部パクパク食べて金平糖にします!)』


ゼロくんが空へ向かって吠えると、灰色の空は一瞬にして澄み渡り、代わりに空からは数億個の「イチゴ味の金平糖」が雪のように降り注いだ。


「……し、師匠。……ついに運営の『削除ツール』まで、自分専用の『お掃除わんちゃん』になさいましたか」


イザベラが、降ってきた金平糖を食べながら、震える手でその事象改変のログを魔導板(Ver. 12.0に勝手にアプデされたもの)に刻む。


「……アルス様。……これで、この世界から『消去』という概念が消え、代わりに『美味しい金平糖による自動修復』という、最強のセキュリティが完成しましたね」


エドワード王子が、涙を拭いて、空に浮かぶ巨大な柴犬の勇姿を眺めた。


アルス・ルーフェウス、15歳。


彼の「お絵かき」は、ついに運営の放った刺客さえも「愛玩動物」へと変え、世界のソースコードを、もはや開発者でも手出しできない「完璧なハッピーエンド」へと固定してしまったのである。


……だが、世界の「外側」。


真っ白になったモニターの前で、開発者が完全に精神を崩壊させていた。


「……消しゴムが……私の消しゴムが……犬になった……。……もうダメだ、このゲーム、勝手に遊んでろ!!」


開発者はヘッドセットを叩きつけ、ついにこの世界を「完全に放置(不干渉)」することを決意した。

しかし。


「放置」された世界は、アルスの無自覚な創造によって、ついに『ゲーム』という枠組みさえも突き破り、本物の宇宙へと羽ばたこうとしていた。

次回本日20時更新

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ