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第36話:世界の真実、アルスの『アップデート』で書き換わる

月面のチョコレート城。女神アフロディアがピンク色のニットを着てココアを啜り、平和なピクニックが再開されようとしていたその時、次元の隙間から一人の男が静かに歩み寄ってきた。


漆黒のコートを纏い、片目にモノクルを嵌めたその男、ゼノンは、かつてアルスの父グランツの旧友を自称していた謎の人物である。


「……素晴らしい。女神の権能をマシュマロに変え、宇宙の管理者をキャンプに誘う。……アルス・ルーフェウス。君の『バグ』としての性能は、もはや開発者の想定を数万光年超えているよ」


ゼノンの言葉に、アスタロトが瞬時に反応し、マスターの前に立ちはだかった。


「……ゼノン。……貴様、何をしにここへ来た。……主の安らぎを邪魔するなら、その魂を宇宙の塵に書き換えてやる」


アスタロトの放つ漆黒の殺気が月面を揺らすが、ゼノンは不敵に笑い、空中に巨大な『半透明のソースコード』を投影した。


「怒るな。私はただ、真実を告げに来ただけだ。……アルス、君が『世界のリフォーム』と呼んでいる行為。……それは、この世界の『基本プログラム』を壊しているのと同じなんだよ。……この世界はね、ある高次元の存在が楽しんでいる『乙女ゲー×建国シミュレーション』という名の箱庭ゲームなんだ」


「げーむ……? おじさん、これ、おもちゃなの?」


アルスはクッキーを齧りながら、不思議そうに空中に流れる複雑な文字列を見上げた。


「そうだ。……本来、君は『無能として追放され、非業の死を遂げる』という脇役モブのバグ・フラグだった。……だが、君が管理者権限(ルート権限)を握ってしまったせいで、シナリオは崩壊した。……今、開発者は怒っている。……世界を丸ごと『デリート』して、最初からやり直そうとしているんだよ」


ゼノンの言葉と共に、空の向こうから、巨大な「削除(Delete)」の文字が、世界を飲み込もうと迫ってくる。


イザベラやエドワード王子は、その「世界のメタ構造」という圧倒的な絶望を前に、もはや言葉を失い、膝をついた。


「いやだわ……。……私たちが必死に生きてきたこの日々が、ただの『データ』だというの……? ……師匠、もうおしまいですわ……。……消去デリートには、どんな魔法も通じない……!!」


イザベラが涙を流して崩れ落ちる。


だが、アルスは「うーん」としばらく考えた後、パッと顔を輝かせた。


「おじさん。……これ、ゲームなんだね! ……じゃあ、もっと楽しく『アップデート』しちゃえばいいんだよね! ……今のままじゃ、みんな泣いちゃうし、バグばっかりで使いにくいもん!」


「……な、何を言っている? アップデートだと……?」


ゼノンが呆然とする中、アルスは空中に広がる膨大なソースコードに、直接小さな手を突っ込んだ。


【万物創造(管理者権限)】が、世界を消そうとする「削除命令」を、単なる「古いバージョンの整理」として再定義する。


(えーと、この『デリート』っていう怖いボタン。……全部、『みんながもっと強くて幸せになれる追加パッチ』に変えて。……『悲しい結末バッドエンド』っていう設定は、全部削除して……代わりに『ずっとみんなで遊べる無限モード』をインストール……えいっ!)


パシュゥゥゥ……ッ!


光が爆発した。


アルスの指先から放たれた虹色のノイズが、世界を消去しようとしていた「削除(Delete)」の文字を、猛烈な勢いで書き換えていく。


【システムメッセージ:バージョンアップを開始します。……Ver 1.0(絶望シナリオ)を破棄。……Ver 99.9『アルスのワクワク冒険記・完結後の世界』へアップデートを適用。……全キャラクターの生存フラグを「永続」に固定。……開発者の介入を「閲覧専用(観客)」に制限します】


「……な、ななな……ッ!! 物理エンジンが……『遊び心』という新パラメータによって完全にハックされた!? ……消去コマンドが、全自動の『お掃除と幸せ供給パッチ』に書き換わったわ!!」


イザベラが、自身の魔導板に流れ込む「神の領域のアプデ情報」を見て、歓喜のあまり白目を剥いた。


空を覆っていた「削除」の文字は、一瞬にして、世界中の人々にお菓子を配り、壊れた建物を直す『全自動・リフォーム妖精』の群れへと姿を変えた。


「わあ、お空がピカピカになったね! ……おじさん、これでもう大丈夫。……みんなで、もっと楽しいゲームにしちゃおうよ!」


アルスは笑いながら、呆然と立ち尽くすゼノンのモノクルを、一瞬で「おもちゃの万華鏡」に作り替えた。


「……バカな。……世界の設定そのものを、一人の『キャラクター』が書き換えるなんて……。……君は、神を超えて、もはや『プレイヤー(操作主)』になったというのか……」


ゼノンは、万華鏡の中に映る「お花畑だらけの平和な銀河」を見て、ガックリと肩を落とした。


もはや、彼が告げに来た「世界の真実」という絶望は、アルスの「アプデ(遊び心)」によって、ただの『古い仕様』として処理されてしまったのである。


「あはは! アスタくん、おじさんにも美味しいケーキを出してあげてね。……世界が新しくなったから、お祝いだよ!」


「畏まりました、我が主(管理者)。……全次元のログインボーナスとして、全人類に『特製メロンパン』を配布しておきました。……さて、新しいパッチの目玉として、次はどの銀河を『遊園地』にリフォームいたしましょうか?」


アスタロトが不敵に微笑み、アルスから譲渡された「宇宙の鍵」を使って、銀河系の果てに巨大な『観覧車(星間移動装置)』を建設し始めた。


アルス・ルーフェウス、15歳。


彼の「無自覚なアプデ」は、ついに世界のメタ構造さえも掌握し、過酷な運命を「終わらないハッピーエンド」という名の最強のバグで上書きしてしまったのである。


……だが、世界の「外側」で、自分のゲームを勝手に改造された『本物の開発者』が、真っ赤な顔をしてモニターを叩いていた。


「……誰だ、私のゲームをこんな『ヌルゲー』に変えたのは!! ……許さん、最強の『デバッグ・モンスター(お掃除キャラ)』を投入してやる!!」

次回明日12時更新

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