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第35話:恋の女神さん、アルスの『よしよし』で失恋する

月面のチョコレート城。イチゴ味のクレーターが広がる絶景のテラスに、それは突然降臨した。


空が、どぎついほどのピンク色の魔力に染まり、甘ったるい香りが月面全体を包み込む。


「……見つけた。全宇宙の因果律を乱し、私の領域さえも超える純粋な魔力……。その少年、アルス・ルーフェウス。汝を私の永遠の『コレクション(旦那様)』に指名するわ」


次元の裂け目から現れたのは、無数のバラの茨を纏い、見た者の理性を一瞬で奪う絶世の美女――多次元の愛を司る女神、アフロディア。


彼女の背後には、射抜いた相手を永続的な「愛の奴隷」に変える『黄金の愛矢』が、数万本も展開されていた。


「な、ななな……ッ!! 概念の擬人化だわ! あんなの、存在自体が『強制恋愛バグ』よ! アルス師匠、絶対に目を合わせてはダメですわ!!」


宮廷魔導師長イザベラが、自身の理性を保つために自らの太ももに魔術刻印を打ち込みながら絶叫する。エドワード王子もまた、女神の放つ「魅了チャーム」の波動に耐えきれず、膝をついて激しく震えていた。


だが、最前線でアルスの前に立ちはだかったのは、16歳になり、愛の重さが「銀河級」に到達したシャルロッテ王女だった。


「……図々しいですわね、この古臭い香水の女。アルス様のお隣は、既に私が一兆年先まで予約済み(先行独占)ですの。神だろうが概念だろうが、私の『おままごと』の邪魔をするなら、その翼ごと毟り取って差し上げますわ!!」


シャルロッテから放たれる凄まじい独占欲の魔力が、女神の愛の結界を物理的に押し返していく。


「あら? 人間の娘が私の権能に抗うなんて。……いいわ、まとめて『愛のケージ』で、私の宇宙の果てへ連れ去ってあげる」


女神が指を鳴らし、数万本の黄金の矢が、アルスを目指して一斉に放たれた。


触れた瞬間、魂はアフロディアの所有物となり、自我は消滅する。まさに「愛の死」とも呼ぶべき神罰。


しかし。


アルスは、飛来する黄金の矢の雨を「うわぁ、キラキラしてて綺麗だなぁ」と、呑気に眺めていた。


彼にとって、世界の理を壊す『愛の槍』も、単なる「お空を飛ぶ、少しチクチクしそうなキラキラしたおもちゃ」に過ぎなかった。


(えーと、この飛んでくる針さんたち。……当たったら痛そうだから、全部ふわふわの『マシュマロの矢』に変えて。……あ、お姉さん、すっごく怒ってて可哀想だから、もっと『優しい気持ち』になれるように……えいっ!)


パシュゥゥゥ……ッ!


アルスの【万物創造(管理者権限)】が、女神の神権を根底から「最適化デバッグ」する。


一瞬だった。


世界を支配するはずだった数万本の黄金の矢は、空中で一瞬にして、ピンク色の「ハート型の綿菓子」へと変質し、雪のように優しく月面に降り積もった。


さらに、アルスの魔力は女神アフロディアの本体にも到達する。


「な……ッ!? 我が権能が……お菓子に!? 嘘よ、愛は……愛は絶対的な支配の……っ、あ……あ、あああ……っ!!」


アルスが、女神の足元までトコトコと歩み寄り、その白磁のような手首を「ぽてっ」と握った。


そして、いつものように、慈愛に満ちた瞳で女神を見上げ、優しく「よしよし」と手を添えた。


「お姉さん、そんなに怒らなくていいよ。……誰かを無理やり好きにさせるのって、疲れちゃうでしょ? ……これからは、みんなで仲良く『お茶会』すればいいんだよ。……よしよし、いい子だね」


その瞬間、アフロディアの瞳から、濁った執着の光が消え去った。


アルスの「よしよし」に含まれる、全肯定の魔力。


それは、数億年の間、誰からも「愛される側」ではなかった女神の孤独な核を、一瞬で癒やしてしまったのだ。


「……あ……。……そうか。……私は……支配したかったんじゃない。……誰かに、こうして……優しくされたかっただけだったのね……」


女神アフロディアは、その場に膝をつき、子供のようにわんわんと泣きじゃくった。


彼女の纏っていた棘のドレスは、アルスの意志によって「暖かなピンク色のニット」へとリフォームされ、その手には、執事アスタロトが用意した『究極の癒やしココア』が握らされた。


「わあ、お姉さん、泣かないで。……今日からお姉さんも、僕の『お散歩仲間』だよ! アスタくん、お姉さんのためにも月面に『お花の別荘』を作ってあげてね」


「畏まりました、我が主。……恋の女神を『聖域の保育士』として再就職させましょう。……月面の環境維持担当として、彼女の愛を植物の成長エネルギーに変換(パッチ適用)いたします」


アスタロトが不敵に微笑み、女神の権能を勝手に「肥料(魔力)」としてシステムに組み込んだ。


こうして、次元を揺るがした「女神による略奪事件」は、アルスの「よしよし」一つで、新たな「家族(ペット兼住人)」の増加という結末で幕を閉じた。


「……師匠。……ついに『愛そのもの』まで、自分のファンクラブに引き入れましたか」


イザベラが、震える手でその事象変換のログを魔導板に刻む。


「……アルス様。……これで、この宇宙から『不毛な恋愛トラブル』は消滅しましたね。……すべては、あなたの慈悲によって平和に塗り替えられたのですから」


エドワード王子が、涙を拭いて、月面でココアを飲みながらアルスに頭を撫でられている女神を眺めた。


「あはは! お姉さん、元気になったね! ……さて、みんな、お腹が空いたから、今度こそ本物のバーベキューを始めようよ!」


アルス・ルーフェウス、15歳。


彼の「お昼休み」は、ついに概念神さえも「わからせ(浄化)」、宇宙をさらなる「全肯定の楽園」へと作り替えてしまった。


……だが、平和になった月面に、一人の影が立っていた。


「……アルス。……そろそろ、君の『本来の役割』を、思い出してもらう時間だ」


それは、第1章で姿を消した、あの「父上の古い友人」を自称する謎の男だった。

次回本日20時更新

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