第29話:次元の狩人さん、アルスの『ハンモック』で強制お昼寝
お肉で作った惑星に夢中な宇宙怪獣ポチを、アルスが「よしよし」と撫でていたその時。
銀河の境界線が、巨大なジッパーを開くように裂け、そこから黄金の船体に無数の棘を持つ、禍々しい「狩猟船」が姿を現した。
『……ターゲット確認。……我らの猟犬を汚染し、銀河のバランスを乱すイレギュラー、アルス・ルーフェウス。……汝を、宇宙の標本に加えてやろう』
船から降り立ったのは、全身を強化外骨格で固めた、感情を捨てた狩人たち。
彼らは数多の神や魔王を「網」で捕らえ、剥製にしてきた次元の覇者である。
「……辺境伯、あれは……『概念の網』ですわ。……触れた瞬間に、存在そのものを『物体』として固定化し、身動きを封じる……!!」
イザベラが、震える手で魔導板(アルス作)の緊急アラートを眺めた。
リーダーの狩人が、虚空から「目に見えないほど細く、しかし太陽よりも強靭な鎖」を放った。
それは銀河系を丸ごと縛り上げ、次元の牢獄へ引きずり込む『次元捕獲網』。
「……ふん。……あ、お空に大きい『虫取り網』が出てるね! ……でも、おじさん。その網、なんだかトゲトゲしてて、お肌に悪そうだよ」
アルスは、自分を縛り上げようとする「絶対の拘束」を、単なる「質の悪い日用品」として認識していた。
【万物創造(管理者権限)】が、銀河を締め付ける鎖を、一瞬にして再定義する。
(えーと、このチクチクした紐。……全部、最高級の『カシミアの糸』に変えて。……編み目を大きく、すっごく柔らかくして……えいっ!)
パシュゥゥゥ……ッ!
光が爆発した。
一瞬にして、銀河を圧殺しようとしていた『次元捕獲網』は、銀河の星々の間にゆったりと掛けられた、「巨大でフカフカな七色のハンモック」へとリフォームされた。
材質は、神の指先でも千切れない強靭さを持ちながら、赤ん坊の産着よりも柔らかい、究極の繊維。
「……な、何だと!? 我らの『絶対拘束』が……『寝具』に書き換えられただと!? ……馬鹿な、物理エンジンが……リラックス・モードに固定されている……!!」
狩人たちのリーダーが絶叫した。しかし、アルスの追撃は止まらない。
彼は指をパチンと鳴らし、ハンモックに「心地よい微風」と「子守唄のメロディ」を付与した。
「はい、おじさんたち! 一生懸命追いかけっこして、疲れちゃったでしょ? ……このハンモック、すっごく気持ちいいから、みんなでお昼寝しようよ!」
アルスが手をひらひらさせると、宇宙船に乗っていた数百人の狩人たちが、抗いがたい「睡魔の波動(全肯定魔力)」によって、次々とハンモックの上へと吸い寄せられた。
「……あ……ああ……。……なんだ、この……この包容力は……。……我らは、ずっと獲物を追うことだけに……人生を捧げてきたが……。……寝るのって……こんなに、幸せなことだったのか……」
冷酷なハンターたちは、ハンモックの柔らかさに触れた瞬間、数万年分の疲労が爆発。
重厚な鎧を脱ぎ捨て(アルスが勝手にパジャマに変えた)、その場でスヤスヤと寝息を立て始めた。
リーダーの狩人に至っては、アルスが作った『特大の抱き枕』に縋り付き、「……母上……」と呟きながら、赤ん坊のような笑顔で眠りに落ちた。
「わあ、みんなぐっすりだね! ……よしよし、いい子たちだね。……あ、アスタくん。おじさんたちが起きたら、お礼に美味しい『宇宙の朝ごはん』を作ってあげてね!」
「畏まりました、我が主。……次元の狩人を『お昼寝同好会』に再編いたしました。……さて、次はどの銀河を『寝室』にリフォームいたしましょうか?」
アスタロトが不敵に微笑み、眠っている狩人たちの宇宙船を、一瞬で「移動式のキッチンカー」へと作り替えた。
「……し、師匠。……ついに『全次元の敵』まで、安眠グッズで骨抜きになさいましたか」
イザベラが、震える手でそのハンモックの編み方をメモする。
「……アルス様。……これで、宇宙から『争い』の概念が消え、代わりに『お昼寝の質』を競う平和な世界になりましたね」
エドワード王子が、涙を拭いて銀河に浮かぶ巨大なハンモックを眺めた。
アルス・ルーフェウス、12歳。
彼の「リフォーム」は、宇宙のあらゆる悪意を「眠気」へと変換し、銀河全体を一つの巨大な「お昼寝ルーム」に変えてしまったのである。
……だが。
狩人たちが沈黙したその時。
「眠らない次元」の最深部で、全ての「概念」を定義する『宇宙の辞書』が、アルスの無邪気な書き換えに、ついに最後の審判を下そうとしていた。
『……遊びは終わりだ。……世界の定義、そのものを抹消する』
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