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第27話:宇宙の管理者さん、アルスの『キャンプ』に誘われる

並行世界『ヴォイド』を巨大なお菓子工場にリフォームし、暗黒皇帝を月面別荘へ隠居させてから数日。アルスが治める統合世界は、かつてない多幸感(と糖分)に包まれていた。

 

だが、その「過剰な平和」は、宇宙の因果律を監視する高次元の存在――『宇宙管理者アドミン』たちを激怒させた。

 

――ピキィィィィィン!!

 

王立学院の上空、次元の壁を無視して、四つの巨大な「幾何学的な立方体」が降臨した。

 

それは、火・水・風・土の四元素を司る宇宙の守護者であり、システムのバランスを維持する自動防衛プログラムである。


「……個体名:アルス・ルーフェウス。……汝の【万物創造】は、宇宙の複雑性エントロピーを著しく損なわせた。……全生命が幸福である状態は、魂の成長を止める致命的なバグである」

 

無機質な、機械音のような声が王都中に響き渡る。

 

管理者が指先を動かした瞬間、アルスの周囲に、光り輝く『絶対隔離のコズミック・ケージ』が展開された。

 

それは神の力でも破壊できず、概念そのものを切り離して「存在しない場所」へ閉じ込める、宇宙最強の処刑具である。


「……アスタロト殿。……あれは、私の魔力でも解析不能だ。……アルス様が、消えてしまう……!」

 

イザベラが、震える手で『宇宙の檻』に触れようとするが、指先が虚無に吸い込まれそうになり、悲鳴を上げて飛び退いた。


「……落ち着きなさい、イザベラ閣下。……あれは、マスターを『隔離』したつもりなのでしょうが……」

 

アスタロトは、眼鏡をクイッと上げ、檻の中のアルスを見て不敵に微笑んだ。

 

檻の中に閉じ込められたアルス。

 

そこは、光も音も、空気さえも存在しない、完全なる無の世界のはずだった。

 

だが、アルスは「うーん」と首を傾げた。


「このお部屋、なんだか壁が硬くて、冷たいなぁ。……お外も見えないし、これじゃ『お泊まり会』ができないよ」


「……無駄だ、アルス。……その檻は、汝の魔力も、概念も、すべてを無効化する。……汝は永遠に、その孤独の中で――」


「あ、そうだ! ここ、壁が広いから、大きな『ふわふわテント』に変えちゃおう! ……それから、おじさんたちも外で立ってて疲れちゃうでしょ? 中に呼んで、みんなで『キャンプ』しようよ!」

 

アルスが指をパチンと鳴らした。

 

【万物創造(管理者権限)】が、宇宙最強の隔離結界を、単なる「居住性の悪い内装」として再定義する。


(えーと、この真っ白な壁を、全部『星空が見える天窓』に変えて。……床は、最高級の『シープスキン・マット』を敷き詰めて。……真ん中には、絶対に消えない『虹色の焚き火』を作っちゃおう!)

 

パシュゥゥゥ……ッ!

 

宇宙管理者が絶叫した。


「……バ、バカな!? 絶対隔離のコードが……『キャンプ場の予約サイト』に書き換えられていく……!? 隔離されているはずの我々が、なぜ『招待客リスト』に入っているのだぁぁ!!」

 

光が爆発した。

 

一瞬にして、冷徹な宇宙の檻は、外から見れば「巨大な光のテント」へとリフォームされた。

 

中には、焚き火のパチパチという心地よい音が響き、どこからか「香ばしいマシュマロの焼ける匂い」が漂ってくる。

 

アルスは、宇宙管理者たちを無理やりテントの中に『召喚(招待)』した。


「はい、おじさんたち! パジャマ、貸してあげるね! ……えいっ!」

 

光が明滅し、幾何学的な無機質な姿をしていた四人の管理者は、一瞬にして「それぞれのイメージカラーの、フカフカのパジャマ」を着せられた、人間の姿へと書き換えられた。


「……あ……あれ……? ……我々の……我々の厳格な権限が……『お泊まり会の参加者』に格下げされたというのか……?」


「おじさん、難しい顔してないで、これ食べてみて! 

アスタくん特製の『魔力入りベーコン』だよ!」

 

アルスが、焚き火で焼いたばかりの、黄金色に輝くベーコンを差し出した。

 

効率と理屈だけで生きてきた管理者たちにとって、この「五感を揺さぶる圧倒的な幸福」は、あまりにも劇的なバグ……いや、システム・リセットであった。


「……う、美味い……。……なんだ、この『脂の乗り(パラメーター)』は……。……宇宙の整合性を保つよりも、このベーコンを焼く火力を調整する方が、ずっと……ずっと高度な計算が必要ではないか……!?」

 

管理者のリーダーは、ベーコンを咀嚼しながら、涙を流して焚き火を見つめた。

 

彼らの中にあった「厳しいルールを守らせる」という義務感は、アルスの作った全肯定のキャンプ空間によって、一瞬で「最高のお休み時間」へと上書きされた。


「あはは! おじさん、気に入ってくれた? 夜は、キラくん(星神竜)にお願いして、本物の流れ星をいっぱい降らせてあげるからね!」


「……きゅ、きゅぅぅ……(……主様、任せて! 銀河の星々を、花火に変えてあげる!)」

 

こうして、宇宙の規約を正しにきたはずの管理者たちは、一晩中アルスと語り合い(という名のおままごと)、翌朝には「宇宙の管理を辞めて、アルスの領地の『キャンプ場管理人』になります」と、連名で退職届(という名の誓約書)をアスタロトに提出した。


「……師匠。……ついに『宇宙の守護者』まで、野外調理で買収……いえ、教化なさいましたか」

 

イザベラが、震える手でそのキャンプ料理のレシピを魔導板に刻む。


「……アルス様。……これで、宇宙全体の規約が『アルス様のわがままを最優先する』に変更されましたね。……もはや、誰もあなたを止めることはできません」

 

エドワード王子が、清々しい顔で空を見上げた。


「あはは、キャンプ、楽しかったね! ……あ、アスタくん。おじさんたちが住むための『宇宙一大きいテント』を、月面の隣に作っておいてね!」


「畏まりました、我が主。……月面の横に『キャンプ星(惑星規模の別荘)』を錬成いたします。……さて、次はどの天体をリフォームいたしましょうか?」


アルス・ルーフェウス、12歳。

 

彼の「キャンプ」は、宇宙の冷酷なルールさえも「楽しいお泊まり会」へと書き換え、銀河全体を一つの大きな「遊び場」に変えてしまったのである。

 

……しかし。

 

宇宙の全機能が「アルス中心」に回るようになったその時。

 

銀河系の遥か彼方、別の銀河から、この「異常な輝き」を検知した「別の神話体系サーバー」が、ざわつき始めていた。


「……あの銀河、楽しそうだな。……我らも混ぜてもらおうか」

 

アルスの「遊び相手」は、ついに多銀河規模へと広がろうとしていた。

次回本日20時更新

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