11 「婚約破棄?ならば傷心旅行よ、行きましょう!」
「婚約破棄?ならば傷心旅行よ、行きましょう!」
「え、ええっ!?ミネルバお従姉様っ!?レイナお従姉様っ!?」
シアレーゼがアレンとの婚約を破棄した次の日。ミネルバとレイナがシアレーゼのライトオーツ家にいきなりやって来て、開口一番にそう言った。
「『時間薬』って言うでしょう?傷心を癒すのは時間の経過が一番よ。だけど、部屋に籠って『何が悪かったんだろう』なーんて考えるのはね、今することじゃあないの。まずは楽しいことを心にいっぱい詰め込みましょう!心に余裕がない時に、過去を振り返っても、悶々としてドツボにハマるだけなのよ」
「そうそう。まずは環境を変えて、キレイなものたくさん見て、美味しいもの食べるの。ドレスとかアクセサリーとか買いましょうねー」
ミネルバとレイナは勝手にシアレーゼの部屋に入り、持参したトランクにシアレーゼの下着やら着替えやらを詰めていく。
「エメラルダお従姉様の許可は取ってあるから大丈夫よ」
「と、言うことで、マリーエンデおば様、シアレーゼはしばらく預かります」
「キリーにはおみやげたくさん買ってくるわね!」
ミネルバがトランクを持ち、レイナがシアレーゼを馬車に押し込んだ。
「ちょ、ちょっと待ってお従姉様っ!」
どんっと背中を押され、シアレーゼは倒れそうになった。
きゃあ、と叫ぶ前に、馬車の中に居たクロムが慌ててシアレーゼを抱き抱える。
「おっと、大丈夫かいシアレーゼ」
「ク、クロムお従兄様っ!」
勢い余ってクロムに抱きついたシアレーゼ。
「お従兄様も?」
何故いるのかとシアレーゼが尋ねる前に、ミネルバとレイナもさっさと馬車に乗り込んできた。
「あ、クロムはお財布よ。なんでも好きなものたくさん買って貰うと良いわ」
「女の子三人で旅行なんて危ないでしょ?一応、もう一台の馬車に護衛と侍女も連れてきてるけど。同じ馬車に男一人くらい乗せておかないと、急に何かあった時に対応できないでしょ」
財布兼護衛扱いされたクロムは、苦笑しながらシアレーゼを隣に座らせた。
「……まあ、ミネルバがいる限り悪いことはあまり起こらないと思うけれどね」
「あたしの『幸運』なんて、たかが知れてるわ。だけどそうね、シアレーゼにとって良き旅になるよう、祈りましょうか」
ミネルバがにこりと笑ったのと同時に馬車は出発した。
良いのか、大丈夫なのか……と、戸惑い顔のシアレーゼの頭を、クロムが無造作に撫でる。
「エメラルダ姉上と王家の話し合いが終わるまで、悶々としているより、ミネルバたちと遊んでいたほうが楽しいだろうって、エメラルダ姉上が言ったんだ」
「話し合い……?することなんてあるの?」
「まあ、色々とね。婚約破棄を宣言してそれで終わりってわけにはいかないんだ。公的な手続きもあるし。その辺はエメラルダ姉上が上手くやるから、気にしなくていいよ」
気にしなくていいと言われれば、余計に気になってしまう。
だが、シアレーゼが何かを言う前に。ミネルバもレイナも「はいはいはいはい、そーゆー辛気臭い話は後でっ!」と押し切ってきた。
「心が傷ついた状態で、面倒な話を聞いても真っ当に判断なんて出来ないのよう。勇者アレンのことなんて、今はどうでもいいからまずは楽しいコト、心にたっくさん詰め込んで、それから考えなさいな」
「そうよ、シアレーゼ。せっかくクロムというお財布がいるのよ。散財しましょう!」
「え、ええええええっ!ちょっとお従姉様たちっ!」
「まずはドレス買って、演劇鑑賞。それから競馬も良いわね。ミネルバが居るから『幸運』の力でがっぽり稼ぎましょう!貴族用の一流の宿に泊まって、贅沢三昧。あ、海側のリーゼガルードって町にも行きたいの。巡行客船っていうのがあるんですって!昼前に湾内を出発して、船の上でのランチ!その後、洞窟とかも巡ってから港に戻って来るっていう半日コース。流行っているんですって!あ、もっと長く乗れるのもあるわよ。ホテル仕様になっている船で長期の船旅ってのも良いわよね!」
「馬上槍試合も見に行きましょうよ!騎士様方の、実戦さながらの戦いっ!唸る筋肉!良いわよねー!」
あれをしよう、これをしようと次から次へと提案してくるレイナとミネルバ。
そんな従姉たちに圧倒されたシアレーゼ。
「ええと、あの……」
としか言えないシアレーゼの頭を、苦笑したクロムが撫でていた。
婚約破棄から三週間後、シアレーゼたちはクノッヘンハウアー王国の最南端にある港町、リーゼガルードにやって来ていた。
三週間も遊びまくれば、資金が尽きると思いきや、カジノに競馬にと賭け事をしまくった上に、宝くじも買ったミネルバは、なかなかの金額を得ていた。
「僕は財布の役割だったはずなんだけどねぇ……」
大勝はしないが、ちょこちょこと勝ちを重ねるミネルバ。
塵が積もって山となり、結果、遊ぶ資金や食事代などは全てミネルバが稼いでしまった。
クロムが自分の財布から出したのは、宿泊のためのホテル代だけであった。
「さすが……ミネルバお従姉様の『幸運』……」
三週間遊びまくってもまだまだ資金は半分以上も残っていた。
「えーと次はねえ、何しよっかな……」
考えるミネルバに、レイナが言った。
「うーん、『時間薬』は十分だと思うのよね。それに、多分そろそろレオハルトからもエメラルダお従姉様の動向が伝えられる頃だと思うし……。うん、シアレーゼもこの辺でじっくりいろんなことを考えると良いわ。だから、しばらくゆっくりしましょ」
「考え事なら海が良いわね!山に篭るとどうしても内向的になるから」
「そうそう、リーゼガルードの巡航客船、まだ行ってなかったわね。大勢のお客が居たら、考えもまとまらないから、チャーターしてしまいましょう!ミネルバ、残りの資金で小さめの船なら借り切ることができる?」
「中型船でも大丈夫よ。せせこましい船は嫌だし。足りなければまた宝くじでも買うわ」
「じゃあそうしましょう」
そうして馬車に揺られること更に一日。シアレーゼたち一行は海側の町、リーゼガルードに到着した。
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