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【完結】『貴方』から受け取ったものは、全て『貴方』にお返しします。  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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10 「さようならアレン様」

エメラルダの回です。


「さようならアレン様」


シアレーゼにそう告げられた途端、アレンの胸に激痛が走った。

心理的なショックではなく、物理的に。

刺すような痛み……というよりも、どろりとした、粘性のある熱い液体をこぼされたような感じに近い。その熱さが、べっとりと、胸から体全体に広がっていく。


覚えのある痛み方に、唸り声をあげることすら出来ずに、アレンは足元に崩れ落ちた。


(……この痛みは、まさか魔王の呪いか?だけど何故?呪いは消え去ったはずじゃ……)


蹲るアレンにキャサリエナが寄り添おうとする。だが、そっと触れられたキャサリエナの掌の感触さえも痛みに変換する。


「ど、どうしたのアレン……?具合、悪いの……?」


慌てて『治癒』の力を行使したキャサリエナ。アレンの体が淡い光に包まれる。

はあはあ、と荒い息をアレンは吐きながら、胸を押さえた。激痛は、無くなった。だがどろりとした気持ち悪さが体に残ったままで、立ち上がることはできない。


そんな二人をエメラルダは冷めた目で見下ろす。


「我がグボーツオーツの娘、シアレーゼとアレン・フォアサードの婚約は破棄となった。もうグボーツオーツ家が勇者アレンにかけていた『加護』をかける必要はなくなった……ということですわ」


この場にいる者のうち、エメラルダの言葉の意味が分かったのは、国王と王妃だけだった。


「グボーツオーツよ。まさか、勇者アレンに『加護』をかけていたというのか?」


国王の言葉にエメラルダはにこりと微笑んだ。


「ええ、もちろん。我が一族の婿となる予定の者が魔王との戦いに赴くのですもの。無事でいるようにと一族の力を行使するのは当然でしょう?それに、我が一族の特殊な力は王族とグボーツオーツ一族のみに行使することができる。そういう取り決めでしたわね。勇者アレンも婚約を結んでいる限り、我が一族の者と見做すことができた。……今、その婚約を破棄しましたので、『加護』も取り上げさせていただきましたわ」


『加護』などエメラルダの嘘だ。

王族から離反したいエメラルダが、シアレーゼの『身代わり』の能力を告げることなく、現状を説明するために出した言葉に過ぎない。


だが、国王も王妃もエメラルダの言葉に目を見開いた。


「もしやアレン達が……わずか七年という歳月で魔王を倒せたのも……」

「それはまあ、アレン様方に勇者としての偉大なるお力があったから……というのも理由でしょうが、アレン様には我が一族の娘から婚約指輪を渡していましたからね。その指輪には我が一族の力も込められていたのですわ。例えば……『幸運』ですとかね」


これもまた嘘である。

確かにグボーツオーツの一族には『幸運』という力を持つ者はいる。だが、アレンに渡した婚約指輪はシアレーゼの父、ファイウッドが商会で買っただけのもの。『加護』など何もない、ごく普通の指輪に過ぎない。

だけれども、その七年もの間シアレーゼは毎日毎日アレンの無事を祈っていた。『幸運』がアレンに降り注いだかはともかく、シアレーゼの願いは本物だった。


「ああ、そう言えばアレン様。シアレーゼがアレン様に渡したその加護付きの婚約指輪はどうなさいました?」


アレンは胸を押さえたまま、のろのろと顔を上げた。

キャサリエナと恋人となった時に、シアレーゼから受け取った指輪は渓谷に投げ捨てた。

それは、魔王城に突入する直前のことで……。


痛みを堪えながら、指輪を捨てた時のことを思いだし、そうしてアレンは目を見開いた。


「ま、さか……、あの指輪をしていれば……『加護』を受け、こんな『呪い』を身に受けなかった……の、か……」

「かもしれませんわねえ」


エメラルダの言葉にアレンは愕然とする。


「外さなければ……俺は……呪いなど……」

「まあ、それは分かりませんわ。あくまで『幸運』といった程度の弱い『加護』ですもの。つけていても呪われたかもしませんし、つけていれば『呪い』など跳ね返したのかもしれませんし。わかりませんわねえ……。ただ、シアレーゼはこの七年間、勇者アレンの身を思い、常に祈りを欠かさなかった。それだけは覚えておくがいいわ」


エメラルダはアレンを睨みつけた。


(ふ、ふふ。あたくしの嘘に惑わされて後悔するがいいわ)


「ああ、そうそう。勇者アレンは第三王女殿下と結婚されれば王族の一員となる。本来であれば、王族入りした勇者アレンには我が一族の力を行使することも可能……。ですが、我が一族の大事な娘をこのように虚仮にしておいて、我が一族の恩恵を受けようなどと……そんな恥知らずなことは仰いませんよね。ねえ、国王陛下。よもや貴方様も、そのような命令を我がグボーツオーツに下しはしませんわよね」


話を振られて、国王はここでようやくはっと気がついた。


「待て、グボーツオーツ、その話はここですべきではない。場を改めよ」


元々、グボーツオーツの力は王家の者以外には秘されていた。なのに、王女と勇者の結婚式という、貴族が大勢集まる場でエメラルダに話されてしまった。

グボーツオーツの力が広まれば、何故王族だけにそんな力を使うのか、他の貴族たちも自分たちに使わせろと言い出すに決まっている。

ならば、これ以上この場でグボーツオーツ一族の力について話すべきではない。国王は今更ながらに慌てた。


しかしもう、遅かった。


この場にいる貴族の者たちの多くが、そわそわとし始めている。

王家だけが独占するのではなく、公平にグボーツオーツの持つ力を使わせてほしいと、申し出る者も出てくるに違いない。


エメラルダは、そうなることが分かっていて、わざとアレンに向かう形を取って告げたのだ。


(ふふっ。シアレーゼのため、というのもあるけれど。これを機に少しでも王家と距離を置きたいのよね。他家に恩を売ってグボーツオーツの勢力を強めるのもいいかもしれないし)


……と、内心ほくそ笑みながらも、エメラルダは神妙に了承する。


「ええもちろんでございます。今は勇者アレンと第三王女殿下の結婚の儀式の最中ですもの。どうぞ、続きを行ってくださいませね。あたくしはこれで下がらせていただきます。が、王家と我がグボーツオーツの契約につきましては、後日、陛下方々の都合のよろしい時にでもあたくしをお呼びくださいませ。但し、勇者アレンに我が一族の特異な力を使うことはない、と断言しておきましょう。それに、使わずとも、第三王女殿下は『聖女』様でいらっしゃいますでしょう?『魔王』の『呪い』など、我が一族の力を使わずとも、『聖女』の力で解呪は可能なのではないでしょうか?ほら、今だって、聖女様の光が、勇者の体を癒したようですし」


クロムの力とキャサリエナの力を比較すれば、キャサリエナの方が強い。

だが、勇者はもう既に魔王を討伐し、あとはもう不要。

そんな不要物にわざわざ聖女である第三王女を傍に置くのももったいない……と国王は考えるだろう。

かといって、この場でエメラルダに、勇者にかけられた魔王の呪いは聖女が解ける可能性がある……などと言われてしまえば、勇者アレンを捨て置くことも出来ない。


(まあ、キャサリエナ王女がアレンにかけられた呪いを解ければいいですけれどねえ。現状ではクロムですら何年かかるか分からない呪い……。だけど、月日が経てば経つほどアレンにかけられた魔王の呪いは強くなる。それを、キャサリエナ王女は『愛の力』で乗り切れるかしら?)


エメラルダは未来を見る。

ただし、その『未来視』は固定されたものではない。

実は、アレンとキャサリエナに関しては、エメラルダは二つの未来を見た。


一つ目は、呪いに蝕まれたアレンと結婚したキャサリエナが、その愛の力を以て、アレンにかけられた呪いを解呪するというもの。

キャサリエナ以外に、王家に『治癒』の力や『解呪』の力を持つ者は生まれなかった。だから、キャサリエナだけがアレンに『治癒』の力を注ぎ続けた。けれど、キャサリエナはある時熱病にかかる。もしも自分が死んでしまったら、アレンはどうなるのか……。そう考えたキャサリエナは自身の生命力も全てアレンに注ぎ込んで、アレンを完全に治癒した。アレンから魔王の呪いは無くなったが、代わりにキャサリエナは死んだ。


二つ目は、一つ目と真逆だった。

治癒をかけても一向に回復しないアレンに、キャサリエナは嫌気が差していく。治癒をかける間隔もしだいに開き、アレンはただ生きているだけの状態となる。魔王の呪いはアレンに苦痛を与え、尚且つ死なないというものだ。何も食べなくとも、飲まなくとも、アレンは死なない。アレンを世話する者たちも、そんな呪われたアレンを恐ろしがって、次第にアレンの病室には寄り付かなくなる。そうして、百年後の未来で、苦痛にまみれたアレンが依り代となって、魔王が復活する。魔王の呪いは、魔王を倒したアレンに対する呪詛ではなく、実はアレンを魔王復活のための苗床にするというものだったのだ。


(そうして、このクノッヘンハウアー王国はアレンという新しい魔王によって滅びました……。まあ、一つ目と二つ目、どちらを選ぶのかしらね。それともあたくしがまだ見ていない三つ目の未来があるのかもしれないわね。例えば……そうね、魔王が復活したけれど、今度こそ本物の勇者が現れて、魔王は完膚なきまでに封じられました、とかね。クノッヘンハウアー王家が滅び、我がグボーツオーツ家が自由になれるのならそれはそれで嬉しいけれど、あたくしたちの子孫が復活した魔王に害されるのもちょっと困るわね。未来を見られても、どういう選択を取れば一番良いのか……悩むわね)


まあ、焦ることはない。自分の代ですべての希望が叶わずとも、いつか、きっと。クロムもシアレーゼも幸せな一生を終えた後、その孫子の代でいい。グボーツオーツが自由になれる未来があるだろう。そうしてみせる。


エメラルダは、すっと優雅に頭を下げると、国王やアレン達に背を向けて、堂々と大聖堂から退出した。




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