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お月様はいつも雨降り  作者: みみつきうさぎ
43/55

第四従三体目

 僕たちは人形のようなものに囲まれながら、壁や天井がみえない場所に連れていかれた。歩くごとに目の前に青白い光の道がつくられていく。


「ボウくん、怖い」


「何かあっても僕が守るから」


 歩きながら僕はルナの手をずっと握っていた。


(止まれ!)


 直接、僕の頭の中に何かの意識が入ってきた。


 空中に土偶のような変な形をした人形が浮いていた。それまで、周りにいた顔のない人形は一体もいなくなっている。

 土偶のような人形は震える僕たちを見下ろしているだけだった。


「僕たちを元の世界に返してください!」


 僕がそう叫んでも人形は何も言わずただ浮いているだけであった。僕はルナの手を離し、人形の前に進み出た。


「僕はどうなってもいいから、ルナを返して!」


(あちらを依り代とする……)


 その言葉が脳裏に浮かんだ時、僕の身体が空中に引き上げられ何かに掴まれたように動けなくなった。ルナの悲鳴が聞こえた。


「やめろ!」


 僕の目の前が急に白くなり、何も見えなくなった。その時間はほんの数秒のように感じた。


(ボウ……ボウくん……)


 暗闇の中にルナの顔だけが見えた。


「ルナ!」


(ボウくん、やっと気が付いてくれた……)


 ルナは涙を頬に流しながら僕を嬉しそうに見ている。


 僕は身体を動かそうとしたけれど、まだ、身体が動かない、いつの間にか裸にさせられていた。でも恥ずかしがってなんかいられなかった。


「ルナ!今、そっちに行って助けるから!」


 僕は持っている力を全部出して動かそうとした時、何かが折れたような音が腕の方から聞こえた。すぐにこらえきれない痛みが身体中を走った。


(もう、いいの、もういいの)


「いいわけなんかないよ!すぐにそっち行くから、ルナ!」


(わたしはもう帰れないの……)


「何を言っているんだよ、みんなで帰るんだよ」


 顔だけ見えていたルナの周囲がぼんやりと浮かんだ。


「!」


 僕はルナのその変わり果てた姿を見て恥ずかしいけれど言葉がひとつもでなかった。

 本当にひとつも……。


--------------------------------------------------------------------


 金属のこすり合わさるような音が雷鳴に混じりながら辺りに響き渡る。

 シャトルの近くに突然生じた黒い穴のような渦に気付いたのは、窓から雷の様子を観察していたジュンだった。



「何か、渦が出来てるよ」


 その渦は地面と垂直の位置に浮くようにしながら巻いていた。


「イツキ、変なのが出来ているぞ」


 ノートにルナたちにあてた日記を書いていたイツキは、マサハルの呼ぶ声にはじめて外の異変に気付いた。書いていた鉛筆をそのままに、マサハルが指さす方向を窓から見た。


「いつからあったの?」


「気が付いたらあったよ」


 ジュンは渦を見ながらイツキの問いに答えた。


「イツキ、ほら、テレビでやっていた四次元人の穴のよう見えないか」


 シャトルの出口に一番近い位置にいるレンは警戒した姿勢を崩していない。


「俺もそういうふうに見える……俺たち呑み込まれてしまうんじゃないか?」


 マモルの声も緊張している。


「あっ!」


 ジュンの隣にいたワカナが何かに気付いた。


 黒い渦の奥にルナが立っていた。


「ルナがいるよ!」


「えっ!」


 ワカナの言う通り、暗い空間の中に塔に行った時のままの服装でルナが無表情で立っていた。


「ルナ!」


 彼女の姿を見た瞬間、イツキは車外へ飛び出し、渦の中へ走っていく。


「待ってよ、イツキ!」


 他の子供たちもそのようなイツキの姿を見て、渦の中へ駆け込むようにして我先に飛び込んでいった。


 渦の中は暗く長い廊下のように皆は感じていた。


 我に返ったイツキたちの前にルナの姿はなく、湾を見下ろす荒れ地にいた。

 灰色の薄い雲に隠れた太陽が頭上に円を描いている。

 ゆるやかな丘陵に樹木は残っておらず、山火事でもあったかのような炭化した木が辺りに点在していた。


「黒い渦から出たところがこんなところだなんて……地震の後、大きな火事でもあったのか」


「こんな場所、俺は来たことないよ、あれ、海だよな」


 マモルとユキオが辺りをゆっくりと見回しながら言った。イツキだけがみんなの前の方でひとり茫然と立ち尽くしている。


「波が見える……それにあの岩のようなの崩れたビルだ」


「ビル?ほんとだ、街だよ、人がいるかもしれない」


 ユキオの隣にいたヒロトの顔が明るくなった。


「イツキ!起きろ!」


 レンはずっと立ったままのイツキの肩を叩いた。イツキは起こされたように身体をビクッと大きく震わせた。


「僕はどこに」


「ルナを追って、君が穴に飛び込んだんだ、僕たちはそれを追いかけて」


 ヒロトの説明に、イツキはうなだれるようにして皆に謝った。


「ごめんなさい、みんな僕のせいで」


「気にすんな、とりあえず、あの場所じゃないところから俺たちは移ってきたんだ」


 マサハルが言った。


「ここを下りて食べ物を探しに行こう、俺が先に行くぞ」


 マサハルはわずかに残った石畳の道を早足で下って行った。


 確かにここは人が住んでいた街であった。焼けた車やトラックが道路をふさぐように停まっている。中を覗き込んだユキオは途端に黙り込んだ。


「イツキ……」


 イツキが近くにいくと焼け焦げた遺体のようなものが重なっていた。


「ただの人形だよ……」


 ヒロトはイツキの言葉を嘘だと分かっていたが、後から来る女子のためにもその意見に従った。


「あそこコンビニだ!」


 見慣れた店の看板が崩れ落ちたビルのがれきに半分うずまっているのをマサハルが見付けた。

 ガラスが割れ、倒れている表の棚には何も残っていない。


「後ろの部屋にも残っていないか見てくる」


 レンが棚の小さな隙間に上半身を入れ、奥の部屋を覗いた。


「何かあったよ」


「危なくないか?」


 ユキオが心配そうに聞いた。


「すぐ、そこにあるから、よっ、おっ!やったぞ!」


 外側が少し焦げたフルーツの缶詰が入ったケースであった。ペットボトルは見当たらなかったが、缶入りのお茶やコーヒーなどは手つかずに残っていた。


「まだ、食べられるかな?」


「大丈夫じゃないの?心配なら食うなよ」


 レンはそう言うなり、ミカンの缶詰を一つ開け、むさぼるように食べ始めた。


「これ、うめぇぞ!」


「外のみんなに知らせてくるよ」


「あ、待って」


「え?」


「何でもない」


 外に行こうとするユキオをレンは一度止めようとしたが、やめた。


「こんなにあるからな……」


 レンはそうつぶやいて、残りのフルーツを汁ごと喉の奥に流し込んだ。


 後から来た子供たちはレンの見付けた飲料や缶詰に歓喜した。


 食べている最中、遠く空から何かが飛来する音が聞こえてきた。その音はあの金属音とは異なっていた。


「あ、飛行機が飛んできた」


 戦闘機のようなシルエットをした機体が、丘の方から海の方へ飛ぶのが全員の視界に飛び込んだ。高度が低く、イツキたちからパイロットの顔が見えるかと思うような近さだった。

 すぐに空気と音の塊が子供たちのいる場所を大きく震わせた。


「すげぇ低く飛んでいるぞ、俺たちを探しに来たのかな」


 マサハルがそう言ったと同時に、戦闘機が火を噴き上げながら海上のはるか向こうに墜ちていった。


「お、俺が墜としたわけじゃないぞ」


「俺……見えた……」


「マモルは目がいいもんな、で、何が見えたんだよ」


 ユキオが言った。


「何か鳥みたいのが飛行機の前をいっぱい飛んでいたよ、エンジンの所にもくっついていた」


「何それ?虫?」


 カエデが聞いてもマモルは首を振っただけであった。


「マモル、何が見えたんだ、間違ってもいいから教えてくれる?」


 イツキが続けて聞いた。


「何か、人のような形をしたもの……あとは速くてよく見えなかった。


「四次元人の侵略……」


 食べている途中の缶詰を地面に落としたヒロトの顔は青ざめている。


「まさか、そんな怖いこというのやめてよ、虫とか鳥よ!」


 カエデは強く否定した。


「でも、もしかしたらそうかもしれない、これを見て……さっき、缶詰の下の方に挟まっていたもの」


 イツキは焼けて三分の一も残っていない新聞紙の破片をみんなに見せた。そこに、未知の物体による侵略を知らせた記事が載っていた。


「嘘よ!わたしたちが来る前にそんなことなかったじゃない!」


 カエデに続いてサユミが声を上げた。

 イツキはその記事が載る新聞の上欄を指さした。


「ここの日付……僕たちがいた十二年後の世界なんだ」


 イツキの言葉に対して、皆、何も言うことが出来なくなっていた。


「何かが歩いて来るぞ!」


 マサハルが異変を察知した。地面を何かで踏みしめる複数の音がビル街の向こうから聞こえてきた。


「救難隊だ!」


「待って、一度、みんな隠れて様子を見よう」


 イツキはショックで動けなくなったワカナをマサハルと両脇を抱えるようにして、コンビニのある建物に戻った。


「奥に入って」


「イツキ!お前、どこ行くんだよ」


「何なのか確かめてくる、マサハル、みんなを頼む」


 イツキはみんなを奥の部屋に入れると、一人で表の残骸に身を隠しながら足音の正体を確かめようとしていた。


「!」


 音の正体を目にした瞬間、どこかで救助隊が来てくれるかもしれないというわずかな望みは、あっけなく消え去った。


煙の向こうから歩いてきた者は、大人の背丈ほどある顔のない人形たちであった。



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