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お月様はいつも雨降り  作者: みみつきうさぎ
38/55

第燦十八体目

「みんなバスから降りたらすぐに整列だぞ」


 遠足を兼ねた社会見学の日。

僕たちの学年の見学場所は、『サンゼタワー』と呼ばれるものすごく高い実験塔と海岸に沿って建てられたとても大きな工場と科学館も入ったところだった。

この場所は『トキノマチ』と呼ばれているとてもとても広いエリアだ。

マサハルやマモルの爺ちゃんや婆ちゃんが子どもの頃は、この辺り全部が潮干狩りのできる海だったらしいけれど、今は、ジャックと豆の木に出てくるような何本も建つタワーと大きな煙突、工場がびっしりと並んでいて、ここで水遊びをしていたなんて信じられないようなところだった。

先生が言うには、団地の向こうに見える神社のある丘の下からが海で、僕たちが乗ったバスや電車の走っている道路や線路は埋め立てられるまで海の上だったらしい。

 この辺り全部が発電所やきれいな白壁の研究所がいっぱい建っていて僕たちには未来都市そのもののように見えた。


「すごいなぁ」


 あの時以来、ずっと元気を落としていたヒロトさえもガラスの柱が何本にも重なるように造られた科学館に繋がる道路の入り口の門を見て目を輝かせていた。

 来月にここで世界科学博覧会が開かれると聞いていた僕たちは、その華やかな場所にただただ目を奪われた。

 今日は、事前に招待される学校だけが先に見学できたって先生から聞いている。

 ここは工場の名を借りた未来世界の遊園地のように僕には見えた。


「小型のリニアモーターカーがあっちのホールに繋がるんだって」


 そう指さすワカナは事前に配られたパンフレットを広げ、ジュンやサユミに見せている。


「あれ線路?ただのコンクリートの道だと思った」


「ジュン、ほら、ここ見てよ、そう書いているよ」


「ほんとだ!わぁっ、この華幻想館に行ってみようよ」


「ここは、まだ工事中みたい、ほら赤い線で立ち入りできないってなっている」


 まだ、全部の建物を見ることができないが、それでもほとんどの場所は入れるようになっていらしい。僕は未来技術のロボットがたくさん展示しているパビリオンを見てみたいと思っていた。


「ここからはそれぞれ十二時まで自由行動になります、集合場所は、おい、まだパンフレット出していないのがいるな、え、荷物の奥にしまった、しょうがない隣の子に見せてもらえ、パンフレットのここ、中央シアターのホールが集合場所になります、みんな分かったか、禁止区域の工事中の柵は絶対、越えてはいかんぞ」


「はぁーい!」


「特によそ見をしているマサハル!気を付けろ!」


「マサハル君ならカエデさんが見張っているので大丈夫です、昨日じゃんけんで負けて荷物持ちになりました」


 レンの軽口にみんな声を出して笑った。


 先生の話を聞いた後、僕たちはバラバラになったけれど、自然とイツキやルナ、ヒロトが僕のそばにかたまった。そこに側にいたサユミとワカナ、ジュンも合流した。


「みんな、今日は私が案内してあげるね」


「えっ、前に来たことがあるの?」


「もちろん!ずっと秘密にしていたそのわけは弟のイツキが発表しまぁす」


「ルナ、それは黙っていろって」


「何で?わたし、昨日、おじいちゃんに電話しちゃった」


 ルナは悪びれもせず笑って答えた。


「おじいちゃんって?」


 僕が問い返す前に、近くの三階建ての建物からおじいちゃんとその周りに若い人たちが並んでいた。


「待っていたよルナ」


 背広を着た白髪に眼鏡をかけたおじいちゃんが笑いかけながら僕たちの方に歩いてきた。


「おじいちゃん!久しぶり!元気だった!」


 ルナがその人に勢いよく抱きついた。


「おうおう、今日も元気だな、イツキも元気そうだな」


「うん」


 あのイツキが照れているのを僕たちは初めて見たかもしれない。


「みんな紹介します!わたしとイツキのおじいちゃんです!この研究施設全部の会長をしています!」


「えぇっ!」


 そこにいるみんなはとても驚いた。


「このパンフレットに載っている人と同じだ」


 ジュンが持っているパンフレットとルナのおじいちゃんの顔を見比べている。


「どうして内緒にしていたのよ」


 サユミがルナに驚きながら質問した。


「イツキが黙っていようって、でも、ばらしちゃいましたぁ!」


「ルナの友達だね、みんな、ようこそ、『トキノマチ』へ、君たちのような子供たちを早く案内したかったよ」


「こんにちは!」


「みんな元気な挨拶だね、おや、クラスの子はこれだけか?」


「今、自由行動なんだよ、お昼になったらみんな集まるんだ」


「そうか、その時はあらためて挨拶させてもらおうか」


「い、いいよ」


 イツキが顔を赤くしながら断った。


「そんな訳にもいくまい、お前の担任の先生にもご挨拶しなければ失礼に当たる、ヤマグチ君、連絡はとれるか」


「はい、会長、そのように手配しておきます」


 おじいさんに頼まれた傍らのきれいなお姉さんはすぐに、後ろにいたおじさんに早口で何かを伝えていた。


「まず、どこが見たいかな、イツキどこか見たいとこはあるか?」


「それならボウが見たいって言ってたロボットホールがいい」


「いい、いいよ、イツキ」


「ボウ、僕も見たいと思っていたんだよ」


「そうか、それならここから少し距離がある、特別に自動運転シャトルを手配しよう」


 そう、おじいちゃんが言ったあと、ほんの数分で真新しい小さなバスが僕たちの並んでいる前に停車した。


「ルナ、イツキ、すまんがわたしはどうしても抜けられない次の会議がある、あとでまた会おう、それではヤマグチ君、案内はまかせるよ」


「承りました、会長」


 おじいちゃんとは、その場で別れた。

「ほら、おじいちゃん忙しいって言ったじゃないか」


「だって、みんなに紹介したかったんだもん」


 後ろの方ででルナとイツキが小声で言い合っているのが聞こえた。


「あれ?運転手さんとかは誰もいないよ」


 一番初めに乗車したワカナが驚いた。


「すべて、コントロールセンターが管理しているのよ、今、みんながちゃんと座席に座ったか、前方や後方に危険な物がないかを全部センサーがチェックしてから動き出すの」


 おじいちゃんのそばにいた女の人が優しい声で説明をしてくれた。


「自動運転かぁ」


 僕は運転席のないシャトルの前面にカエルのようにへばりついて外を眺めた。


 乗っているみんなの驚きがおさまらないうちに、ロボットホールに到着した。


 先の尖った玉ねぎのような形をした屋根に渦巻のようなガラスチューブが巻かれていて、その先に三日月の形をしたものがキラキラと輝いている。


「ロボットホールの正確な名称は『カストロム・ルナレジーナ』で、アメリカの著名建築デザイナー『マヌエル・ガルシア』氏が構想から五年の歳月をかけてデザインされたものです、これから中をご案内しますから、足元に気を付けて順番にシャトルから降りてください」


「ルナという言葉が入っているんだね」


 僕よりも先にヒロトが気付いた。


「ルナって名前はラテン語で『月』って言うんだ」


「わぁ、お月様みたい!だからいつもかわいいんだ」


 イツキの説明にジュンが嬉しそうに驚いたのを見て、ルナは照れていた。


「かわいいかどうかは別にして、月の表面はクレーターでボコボコだよ」


 そう返事をしたイツキはさっそくルナに頭を叩かれていた。


「ここはルナさんのおじい様がいちばん力を入れたパビリオンになる予定です、まだ、全部は完成していないので本日は最初のエリアだけご案内いたします」


 何重にもなったガラスの扉を開けて入った最初の部屋は全面が星空の輝く宇宙空間だった。


「うわぁ、この先に進んだらどこまでも落ちていきそうだよ、ねぇ、ヒロト、私たちの前に行ってよ」


 ジュンもワカナも大はしゃぎだ。


「ご心配なく、立体映像を特殊な技術で組み合わせたものです、足を前に進めると自然に光でできた道があらわれます、目をつぶってみてください」


 僕たちは言われるまま目をつぶると頭の中に星の道の映像が浮かび上がる。


「なんなんだ!」


 僕はとても驚いた。この驚きはここに来てから何回目かもう分からなくなっていた。


「これだったら、目を開けていてもつぶっていても同じになるね」


「イツキ……きみのおじいちゃんはすごいものをつくったんだね」


「そうかなぁ」


「そうだよ!」


 僕は興奮気味に話し掛けたけれど、イツキはいつもと表情があまり変わらない。


「これなら用意された動画見ているのと同じだけだよ」


「それでは続けてご説明いたします、この技術は目の不自由な方にも直接脳にイメージできるような信号を送っています、ここに来るとみんながこの美しい世界を享受、簡単に言うと味わうことのできる場所、それが会長の目指してきたものです、この星の前庭を過ぎたら……」


 埴輪から日本のからくり人形、フランス人形、色々な人形が自分の周りを妖精のように飛び回っている。


「過去の人形の部屋、みなさんが小さいころに遊んでいた人形たちが出迎えてくれます、自分の遊んでいた人形やおもちゃもイメージで再現できますよ」


 お姉さんの後ろで、ヒロトの亡くなった妹が遊んでいた人形が楽しそうに踊っていた。


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