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お月様はいつも雨降り  作者: みみつきうさぎ
24/55

第二捨死体目

<登場人物>


シャン

 『月影乙第七発展汎用型』の人型端末


市松

 『月影乙第七発展汎用型』の人型端末


大椛マサハル (おおなぎまさはる)

 アキツの小学校の同級生 カエデと活動を共にする


上野カエデ (うえのかえで)

 アキツの小学校の同級生 シャンと同型の男性タイプの『月影人形』と共に行動している


諏訪山マモル (すわやままもる)

 アキツの小学校の同級生 シャンと同型の『月影人形』市松と共に行動している


「構内に残っている乗客は?」


「駅舎外へのすべての乗客の避難誘導を終えました、転倒による軽傷者四人も自力で地上の救護施設に移動済みです」


「まだいるかもしれないな、線路に取り残されている可能性はないか、検電状況も再度確認するように?」


「検電器、非常用発電機の稼働状況も正常です」


 ホームに緊急停車した乗客の避難を終えた地下鉄駅構内の職員は、手にした管理マニュアルと照らし合わせながら安全確認チェックシートに記録している。


「上の状況はそんなにひどいんですか?」


「ああ、部長の話だと、ぐみ坂あたりの建物はめちゃめちゃらしいぞ」


「ここも仕掛けられてるんじゃないか?」


「そうなら、もう爆発してるだろ……お、おい、あれ、まだ人が残っているんじゃないか?」


「駅間停車があったとは聞いていないけど」


 確認作業のためホーム先端にいた二人の職員は、暗闇に延びる線路の照明灯が瞬いているように見えることに気付いた。


 職員の一人は、すぐに無線で管理課へ連絡を入れた。


「一、二……六名の避難者が歩いてこちらに向かってきているようです」


「分かった、全車両の運行停止は確認しているが万が一もある、急いで誘導してやってくれ」


 上司に命じられた職員は柵の扉を開錠し、線路上に降りると、大きくこちらに移動してくる人影に呼び掛けた。


「う、うわぁ!」


改札付近で作業に従事る他の職員は悲鳴を上げ階段を駆け上ってくる二人の職員の姿に気付いた。


「どうした!何があった?」


「早く逃げろ!変なのが来る!」


「変なのって何だ?まったく奴らには責任感ってものが……あ……」


 年配の職員はあきれ顔をしながらホームに通じる階段を見下ろした瞬間、身体が動かなくなった。



 崩壊した複数の建物から登る黒煙

 地下鉄駅の地上出口付近には駅構内から避難したり、屋外で負傷したりした人たちが歩道に力なく座り込み救助を待っている。

 鳴りやまぬサイレンの音とマスコミがチャーターしたヘリコプターのプロペラ音とで辺りは戦場のように騒然としていた。


 テレビ番組のワイドショーは芸能人のゴシップネタを急遽切り替え、現場の緊張する雰囲気を伝えている。


「また、大きな被害が起きた模様です、現場には川田記者が行っております、川田さん、そちらの状況を伝えてください」


「はい、こちら現場です、ここは霞が関二丁目交差点にある地下鉄出口です、普段の日であれば、官庁街ですので、多くの関係者が行きかうところですが、今日はその様子からは想像できない状況となっています、ご覧ください、負傷者がこれからどのくらい増えるのか全く想像がつきません、警察や消防からもまだ何も発表されておりませんが、関係者の話ですと一連の連続爆破テロとの関連性が疑われているとのことです」


 マスコミのカメラクルーは、疲れ切って花壇脇に横たわる人や、担架で救急車へと運ばれようとしている頭部に白い布をあてがった人を、規制する警察官に遮られるまで近付き、舐めるようにその姿を写している。


「つい先ほど、都知事の要請により政府より自衛隊の災害派遣命令が下りたようです、尚、防衛大臣は未だ所在の安否の確認ができないため、内閣総理大臣からの命令によるものです、また、初動対処部隊『ファスト・フォース』も先行して既に人命救助活動の支援にあたっているとのことです」


 現地記者が説明する背景で、人が悲鳴を上げ、逃げ惑う様子が映し出された。


「地下鉄出口付近で何か人の動きが出たもようです、何かあったのでしょうか」


 記者が後ろを振り返りながら放送を続けている。


「あ、何か出てきます、地下出口から何か……大きな人のようです、あっ!」


 記者の背後の道路上に首の骨が折れた状態の犠牲者の身体が次々と転がっていく。それは遊びに飽きた幼児が新しい玩具を拾っては捨てているような動作だった。


「ひっ!」


 警察による連続する威嚇発砲の乾いた音が中継する記者の声に混じる。


「近くの人が次々と空中に投げられています……こんなひどいことが……やばい……こっちに……逃げ……」


 記者の悲鳴とも近い声で中継が途絶え、テレビの映像は一瞬言葉に詰まるスタジオの男性司会アナウンサーの顔に切り替わった。


多局の中継もほぼ同時刻に何らかの原因により突然遮断された。



「六体……いったい、どこにこれだけの数を潜ませていたんだ」


「あそこの駅の地下空間には旧海軍省防空壕の一部がコンクリート壁越しにまだ広く残っております、いつ頃かは分かりませんが、そこに『客人』たちは用意していたのでしょう、ですから今回のこの地下からの襲撃では『天使のラッパ』が鳴らなかったのです」


「てっきり、マサハルたちがしくじったのかと思っていた」


「マサハル様もカエデ様も頭上からの『客人』はラッパが鳴る前に始末したようですが、さすがにそこまでの探索は不可能と存じます」


「あの二人は、昔から目の前のことだけで精一杯だったからな」


 国会議事堂を見下ろすように建つタワービルの屋上

無精ひげを顎に蓄え浪人のように長い髪を後ろに一本に縛った青年の手には対物ライフルが抱えられ、その横には和服姿の小さな女性型フィギアが寄り添っている。


「通信の遮断は?」


「はい、他の月影人形たちにも協力をいただいてます」


「日常の便利さゆえに、通信が遮断されると何もできなくなるのは文明社会の皮肉だな、この場所は風が強くて寒い、早く終わらせてみんなのところへ帰ろう」


「承知しました」


 青年はライフルの二脚バイポッドを屋上の床に固定した。


「これ使うと照準がぶれるんだよね」


「筋肉の微細運動による照準補正はこちらで行います、何よりそのライフルはただの狙撃銃ではありません、対客人兵器用のモノですから、計算上では衝撃を吸収しないと簡単にマモル様の肩の骨が外れてしまいます」


「わがままは言えずか」


「そうとも理解できます、それではマモル様と同期いたします」


「ああ、頼む」


 女性フィギアは両手を広げライフルを構える青年の背中にもたれかかった。


 青年のスコープには、ゆうに身長が三メートルを超えるマネキンのような人形がよりはっきりと映し出されていく。その顔には眉やまつ毛などがなく、ただ、血走った瞳だけが人間という獲物を捕らえようとギョロギョロと動いていた。


「一体目……」


 青年が引鉄を引いたその時、失神する女性の片足を掴み、今にも引き裂こうとするマネキン人形の頭部が破砕された。


「二体目……」


 青年が五体目を始末した時、最後の一体が消えた。


「死角に入られた、『市松』!どこに消えたか分かるか」


 青年はスコープを覗いたまま、植え込みや車両の後ろなど隠れていそうな場所を必死になって探した。


「ただいま補足中です……補足完了……真後ろです」


 青年がスコープからすぐに目を離し後ろを振り向くと、整然と並ぶ空調設備の機械の上にマネキン人形が立っていた。


「気付かれていたのか」


 マネキン人形が跳躍し、青年のすぐ目の前に移動してくるのに三秒もかからなかった。


「図体がでかい割には、ずいぶんと機敏な奴だ、惚れ惚れするね」


「マモル様!」


 マネキン人形が青年を掴もうとする腕が血のような赤い液体をまき散らしながら吹き飛んだ。


「目の前のことで精一杯なのはマモル、お前もだった……」


 マサハルが『レイジングブル』という愛称のベルギー製の拳銃を構えていた。マサハルは手慣れた感じで、銃弾をマネキン人形に次々と叩き込んでいく。

 マサハルはわざと四肢から破壊し、頭部を最後に残した。


「消えろ」


マサハルはコンクリートの床で動かなくなったマネキン人形の頭部を自分の足で潰した。


「ヒロトが戻ってきた……イツキが俺たちを部屋に呼んでいる」


 そう言い残してマサハルは階下へつながる非常口に消えていった。


「いいな……俺もあのハンドガンをイツキからもらうかな」


 マモルと呼ばれた青年は自分のライフルの銃口で、潰れたマネキン人形の頭部を引っ掛け、コンクリートの床をゴルフボールのように転がした。

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