表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お月様はいつも雨降り  作者: みみつきうさぎ
21/55

第二従一体目

<登場人物>


静寂秋津 (しじまあきつ)

 就活中の大学生、謎の企業から少女の姿をした人型端末『シャン』を贈られる。


小泉 廉 (こいずみれん)

 アキツの小学校の同級生 シャンと同型の『月影人形』と共に行動している


大椛マサハル (おおなぎまさはる)

 アキツの小学校の同級生 レンと活動を共にする


上野カエデ (うえのかえで)

 アキツの小学校の同級生 シャンと同型の男性タイプの『月影人形』と共に行動している


播磨ヒロト (はりまひろと)

 アキツの小学校の同級生


佐橋ユキオ (さはしゆきお)

 アキツの小学校の同級生


大熊サユミ (おおくまさゆみ)

 アキツの小学校の同級生


名栗ワカナ (なぐりわかな)

 アキツの小学校の同級生


湯岐ジュン (ゆじまたじゅん)

 アキツの小学校の同級生


諏訪山マモル (すわやままもる)

 アキツの小学校の同級生


森脇イツキ (もりわきいつき)

 アキツの小学校の同級生


モリワキルナ

 イツキの双子の姉でアキツの小学校の同級生



(そう、僕の横にはいつもあの子が笑っていた)


 モリワキルナさんの席は僕の隣になった。そして、まだ新しい教科書が届いていないので、僕の教科書を見せるように先生に言われた。


「ありがとう」


「別にいいよ」


 今まで僕は女子に何を言われても何とも思わなかったけれど、転校生ということで少し緊張していたのかもしれない。


「あっ」


 彼女は国語の教科書に僕が落書きしているパラパラ漫画に気付いたようだった。丸に線だけの身体が空を飛んだり、歩いたりするだけの自分でも単純すぎると思うほどのものだ。


「これ見せてもらってもいい」


 彼女は遠慮なしに僕の教科書を引き寄せ、最初のページからサラサラと開いていった。


「面白い、ね、名前なんていうの」


ぼう人間」


「棒くんね、棒君の漫画ってとても面白いね」


 僕はてっきり、その漫画のタイトルのことを言っているのかと思っていたが、彼女は違っていて僕の名前だと思ったそうだ。こんな小さな出来事から僕のあだ名はそれから「ボウ」になった。


(そうだ、僕が『ボウ』と呼ばれたのはその時からだ)


 休み時間になると、ルナさんの周りに女子がいっぱい集まって質問攻めにしていた。僕は気にしない風を装いながらルナさんの答えることが少しだけ気になった。


「ボウくん、犬と猫、どっちが好き?」


「カモノハシ」


「変わった動物が好きなんだ、でも、質問は犬と猫なんだけど、まっ、いいか、次の質問、ボウくんが好きな色は何色?」


「透明」


「透明って色なの?」


「わ、分からないよ」


「ねぇ、ボウくんから私に質問はない?」


「何でそんなにいろんな質問してくるの?」


「気になるから……」


「ぬぉ?」


「あっ、勘違いしないでね、好きとかじゃなくてそういう意味じゃないから」


 彼女は顔を赤くしながら否定する。

 こんな不毛とも言える会話を毎日ルナさんとするようになった。彼女も早くこのクラスの中に溶け込みたいという気持ちがあったんじゃないかと思う。


 一週間も過ぎると、はじめは嫌な奴だと思っていたイツキも実はそれほどでもなく、明るく冗談を言いあったり、みんなと打ち解けるとなんでも話したり、誰もがとても楽しいクラスメートができたと思っている。後で聞くと、自己紹介の時はとても緊張していたらしい。


「来週の体育は隣のクラスとドッヂボール対抗戦だってよ」


 放課後の教室掃除をしていると、職員室から連絡係のヒロトが戻ってきた。掃除当番で残っていたのは八人。僕とルナさん、マサハルとカエデ、レンとジュンとワカナ、そしてイツキだった。


「えぇっ最悪!」


 ヒロトとマサハルは喜んでいたけど、最初に声を上げたカエデは一年生の頃から運動が好きではない。


「やる前からそんな気持ちじゃダメだな!」


「マサハルさぁ、そんなこと言ったって、うちのクラスいつも負けてるじゃない」


「それは……やってみなきゃ分からないだろ」


「だって、本当のことじゃない」


「それは女子がすぐにぶつけられるからだろ、なぁヒロト」


「そうだよ」


「だって、男子が自分勝手なんだもん」


 マサハルとレン、ヒロト連合に対し、カエデの応援にはジュンやワカナも入る。掃除をしているのは僕とルナさん、イツキの三人になった。


「ボウ!お前はどう思うんだよ」


僕は、正直どっちでもいい。僕は夕方から見たいテレビの再放送があるので、早く掃除を終わらせて帰りたかったのがその時の気持ちだった。


「え?何のこと」


「聞いてなかったのかよ、ボウ!」


「お前、肝心な時にいつもいなくなるよな」


「そうよ」


(いなくなっているつもりはないのだが、タイミングが悪いのは分かっている)


「ねぇ、みんなちょっと話を聞いてくれる、私にいい考えがあるんだ、でもその前に掃除早く終わらせてさ、グラウンドに集まってよ」


 男子と女子両方からの圧がかかるという気まずい雰囲気をなくしてくれたのはルナさんの一言だった。


 掃除が終わると彼女は微笑みながら僕に近付きそっとささやいた。


「さっきの貸しにしておくね、でも、わたし、マイペースなボウくん、嫌いじゃないな」


 放課後、グラウンドの隅の方にさっきのメンバーが集まっている。


「いい考えを早く説明しろよ」


 腕を組んだマサハルがふんぞり返っている。


「それは、私の弟に説明してもらいます、イツキくんお願いします」


 事前に二人は打ち合わせをしていたのだろう。彼はよく通る声で作戦の説明を始めた。


「話を聞くと、マサハルの気持ちも分かるよ、マサハルはこれまでずっと一人で頑張っていたんだ」


 彼の初めの短い一言でマサハルの表情が急に柔らかくなった。


「そして、カエデ、君は本当はみんなで勝ちたいと思っている、だけど、自分には力がないとあきらめちゃっている、でも、本当に一番、勝ちたいと思っているのはカエデだよ」


 彼は一人一人、まるでその本心が分かっているかのように、淡々と語り続ける。


「最後にボウ、さっき、君はボールを僕に返した時、とてもコントロールが良かったね、インターナショナルスクール時代の友達と比較してもそこまで上手い子はいなかったよ、あとスピードさえつけば言うことないよね」


 僕はそう言われて少しうれしくなった。


「みんな、それぞれ力を持っているけど、ここにいるちょっとの人数でもそれを上手に組み合わせることができなかったんだ、みんな僕を信じてみてくれる、みんなが力を合わせるとどんなものにだって負けないよ」


 その時の練習は多分一時間もやっていない、でも、みんなが驚くほど僕たちは上達したような気がした。次の日は、クラス中にその出来事が伝わり、というかマサハルやカエデが伝えまくって、休み時間は全員参加の練習時間となった。


 いよいよ試合の日


 外野に動作の機敏なヒロトやレンが左右に付いた。前面にはボールを受けるのが得意なマモルやユキオやワカナ、中央にはマサハルとルナさん、そして僕がいた。イツキやそのほかの子たちは一番後ろにいる。僕たちは最高の布陣でそのゲームに臨んだ。


 四組との一回戦は三組の僕らが全勝した。僕たちは信じられなくて、女子の中には一回戦で買っただけなのに涙ぐんでいる子もいた。カエデもその一人だった。


 二組にも勝ち、三組の僕たちは一組との決勝戦となった。


 はじめは僕たちのクラスがリードしていた。

 僕たちはこれまでの結果に段々と有頂天となった。しっかりとパス回しに時間をかけて相手チームを翻弄し、パスを後方のイツキがカットし(イツキは何をやらせてもとても上手い)、マサハルやレンがシュートする基本がだんだんと崩れ、そのうちにみんなが好き勝手に動き出し始めた。


 案の定、リードは軽くくつがえされた。

 今回の特別ルールは、最後の一人になった時から一分でゲーム終了になる。


「うぉっ!」


 無理をして相手のパスを取ろうとした守護神マサハルにボールが当たった。それは山なりに投げられたボールで決してぶつかるようなスピードではなかった。


「俺としたことがぁー!」


 先生がコートから出るように強く指導するまで、マサハルは地面を悔しそうに何度も叩いていた。


 僕のチームは僕とルナさんとイツキだけになった。


「結局、こうなってしまうんだね、ルナ」


「それでもよくやった方だと思うわ、さすがイツキ、でもそれ以上にボウくんはすごいね」


「僕もそう思うよ、多分、僕たちのことを一番理解してくれている、ねぇ、ボウくん」


「?」


 イツキとルナさんがシュートを決めるたびに女子の黄色い声が上がった。その後の逆転劇はあっと言うまで六対三が三対一になった。二人はクラスのみんなを引き立てるために持っている力を今まで半分もだしていなかったのかもしれない。


「ボウくん、はい!」


 外野から戻ってきたボールをキャッチしたルナさんが僕に渡す。すぐにイツキが僕の後ろに回り話し掛けてきた。


「ボウ、僕の言う通りにして、レンにパスするふりをしながら、相手の一メートルくらい左のところにボールを投げて、こっちから見て左だよ、君ならやれるよ」


「分かった」


 僕は右にいるレンにボールをパスするそぶりをした後、イツキの教えてもらったがら空きの場所にボールを思いっきり投げた。

 ボールは……遅い。

 そこで信じられないことが起こった。慌てて逃げだした敵チームの子が、僕のゆっくりしたスピードのボールに自分からぶつかっていったのだ。


 試合終了のホイッスル。


 みんなの笑顔と喜びの声。みんなとやるドッヂボールなんてただの遊びだと思っていたけれど、僕たちの学級がこのことをきっかけに本当に一つになった感じがした。


 試合が終わったその日の放課後、僕は学校の玄関の前でイツキに聞いた。


「イツキさぁ、何であの子がボールの所に走ってくるって分かったの?」


「そんなこと?だって、あの子は感が良すぎたんだよ、パスがいくレンから対角線の所に位置を変えようとしていたんだね、あの子は右側に逃げる癖があるのが分かっていた、誰だって最後だと思うからあせっちゃうし、ボウのボールのスピードは遅いからそれで油断したんだね、感が良い子ほど詰めが甘くなる、マサハルも同じタイプかもね」


「そう……」


 何だか、だまされているような、納得したような、ほめられているような、馬鹿にされているような気がした。


「でも、ボウが最後のシューターだったことは変わらないよ、ボウのコントロールがいいからその結果に繋がったんだ、本当にボウだね、拳銃より速さは遅いけれど、手軽で一番正確な武器だって僕の昔の先生が教えてくれたことがある……そうだ、内緒だけどさ、最近ね、ルナは家に帰るとボウのことばかり話しているよ、多分、ボウのことが好きだと思うよ、同じように、僕もボウをとても気に入っているよ、だって僕の言ったことを素直に信じてくれるから」


 ルナさんの顔を思い浮かべたその時の僕の顔は真っ赤になっていたと思う。


「イツキ、さがしたよ!先に行っているなら前もって言ってよね」


 校舎の中からルナさんが飛び出してきた。


「あっ、ボウくん」


 今の話を聞いたばかりなので、僕はルナさんの顔をよく見ることができなかった。

 もじもじとしている僕を見て、ルナさんは僕の両手を強く握った。


(しじまくん……あなたって……)


「ボウくん……君って……えらい!」


 ルナさんの言葉にどこかで聞いたことのある女の人の声がかぶさったような気がした。


「あ……ありがと……」


 僕たち三人がグラウンドを歩いていると、マサハルやカエデ、レン、みんなが約束していたかのように集まってきた。そして、みんながその日のことを振り返って笑った。

夕陽と反対方向にのびる僕たちの影は大きく一つになっていく。


 立ち並ぶビルの向こうに山並みが光っている。


 ああ、その日の夕焼けもとてもきれいだったな……まるで血の色のようだね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ