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お月様はいつも雨降り  作者: みみつきうさぎ
20/55

第二従零体目

<登場人物>


静寂秋津 (しじまあきつ)

 小学五年生のどこにでもいる男子


小泉 廉 (こいずみれん)

 アキツの小学校の同級生 


大椛マサハル (おおなぎまさはる)

 アキツの小学校の同級生


上野カエデ (うえのかえで)

 アキツの小学校の同級生


播磨ヒロト (はりまひろと)

 アキツの小学校の同級生


佐橋ユキオ (さはしゆきお)

 アキツの小学校の同級生


大熊サユミ (おおくまさゆみ)

 アキツの小学校の同級生


森脇イツキ (もりわきいつき)

 アキツの小学校の同級生


モリワキルナ

 イツキの双子の姉でアキツの小学校の同級生



「スケベ森の木が全部切られてたって」


「ユッキ、もう前から工事が始まってたよ、マンションが建つんだって」


 中休み、ユキオが大ニュースとばかりに隣のクラスから飛び込み話し出したのを、レンは驚くことなく軽い返事でその会話を断ち切った。


「えっ、知ってたの?」


「ザリ沼も埋め立てられてデパートになるってよ」


「デパート?」


「ショッピングモールって言うんだよ」


 ヒロトの言葉だけじゃなく、たいがいレンは誰かの言葉よりも新しい情報を上乗せする。それが、原因でマサハルはよく怒り出すが、別に嫌われてはいない。どちらかというとレンから聞いた言葉をマサハルは他のまだ知らないやつに聞かせて自慢げに話す方が多い。


 ボロボロになった裸の女の人が載っていた本があったのがスケベ森、アメリカザリガニが採れたどぶがザリ沼、どちらも僕たちが一年生の頃から遊んでいた場所だ。


 僕が住んでいるところは、そんなに都会でも田舎でもないと思う。電車だって十分待てばすぐに来るし、高速道路だって通っている。それでも雑木林がなくなって、うるさい婆がいた駄菓子屋さんもなくなって、多くなったのは人と車だけ、学校の横の道路は二倍ぐらいに広くなって歩道橋ができたくらいだ。


 今日は朝から雨。体育館が使えるのは他の学年だから、ぼくたち五年生はグラウンドで遊ぶこともできなくて、だらだらとした話で時間をつぶしている。


「それよりもさ、ほら、組長の家あるじゃん」


 親分の家とは、レンの家の近くにある高い塀に囲まれた家だった。うちの学校の卒業生が、あそこにはやくざの組長が住んでいるという噂を流してから、僕たちの中では、その大きな門と家のある場所は『組長の家』と呼ばれていた。


「トラックが何台もとまっててさ、前を通ったら見たことのない僕と同じくらいの子たちが出てきたんで会って話したんだ」


「ええっ、話しかけたの?」


「向こうから、学校の場所を聞いてきたんだ、その子たち、転校してくるんだってさ」


 そばで違う話をしていた女子も興味をもったらしく、すぐにレンの周りに集まってきた。


「ねぇ、その子たちって男の子、女の子、兄弟なの?」


 カエデはマサハルを押しのけてレンの正面に座った。


「どれだと思う?」


「男と男!」


「レンだったらすぐに誰でも話すことができるから女の子二人」


 早速、クイズの時間となった。


「男と女と男」


「それ三人だろ」


「男と男と犬」


「犬は余計だよ」


「ねぇねぇ、男の子だったらカッコいい人?」


 サユミが変な質問した頃には、もう僕たちの周りは人だかりになっていた。


「早く、正解を言えよ!」


 マサハルが我慢できずにレンの机を両手でガタガタと揺らした。


「じゃぁ、言うよ……」


 チャイムが鳴ると同時に担任の先生が教室に入ってきた。いつもだったら五分経っても来ない時があるのに、こんな楽しい話をしている時に限って早いのが不思議だった。


「おぅい、早く座れ!」


 いつも決まったスポーツメーカーのジャージしか着ない担任は、持ってきた教科書を教卓の上に置き、僕たちに席に着くよう促した。


「今日から転校生がうちのクラスに入るぞ、それも二人だ」


 学級から驚きと喜びの声が上がった。


「入れ」


 担任の声に教室の扉が開き、女子が二名入ってきた。ただ、それは僕が間違っていた。


 一人は腰まである長い黒髪を白いリボンで二つに結んだ笑顔がかわいい女の子。

 もう一人は、顔の似た男子の僕から見ても少しカッコよく見える男。


「静かにしろよ」


 クラスの女子からの黄色い声をマサハルはわざとらしく注意した。


「自己紹介はそれぞれでしてもらおうか、それじゃ……」


「私から話します。モリワキルナと言います、よろしくお願いします、みなさんと早く仲良くなりたいです」


 その子の何気ない表情や仕草に胸が少し締め付けられたような気がしたのは僕だけではないはずだ。


「森脇イツキ」


 男の方はそれだけ言って不機嫌そうにしている。ただ、さっきの女の子と違い、その仕草はクラスの全員の女子の心を見事に射止めたようだった。


この時のどこにでもある出会いが僕の……僕らの未来を大きく変えたことに僕はまだ気付いていない。



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