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SAVE A MALL ―セーブ ア モール―  作者: 福山直木
三幕 “彼女”のために……
20/21

奔走!救世主タチ!7日目

後日、田中さんとともに店を回ることになった。名物グルメの売れ行きを確認しつつ、困ったことなどがないか聞いて回る。


高橋ベーカリーを訪れる。店に足を踏み入れた途端にパンの香りが漂う。

「いらっしゃい」

由伸さんが迎えてくれる。

「藤浪さんのところは話が付いたようで何よりだ。彩ちゃんが明るい表情で伝えにきたよ」

「そうなんですか~。お力になれて、本当によかったです」

田中さんも嬉しそうに言う。


「それで、今日はどんな用件で?」

田中さんが用件を伝える。

「店の方は皆さんが使ってくれるから、助かってはいるんだけど状況は変わらないよ。商店街については、特に困ったことはないよ」と答えて、何かを思い出したように続けた。

「…そういえば、ブルーベリーを育てる話はどうなったんだい?」

待ち望むような風に訊いてきた。

「これからやりますよ」

田中さんがそう答えると、その訳を教えてくれた。

「ブルーベリーパイでも作ろうかと思ってるんだ。楽しみにしてるよ」

「そうですか。そんな風に言ってくれると嬉しいです。あっでも、まだ何も打ち合わせをしてないので、話がまとまったらご報告しますね~」

「私たちにできることがあれば、遠慮なく言ってくれていいからね」

「はい。ありがとうございました」

「二人ともがんばってね~」と見送られた。


店を後にして、少しドキドキしながら次の店へ行く。


それは八重の食堂だった。

「いらっしゃ……あっ……どうも……」

入るなり、そんな反応をされては気まずい。

「やぁ、どう調子は?」と田中さんが明るく話しかける。

「うん……順調。リピートしてくれるお客さんもいるから……」

順調には思えないトーンで答えてくれた。


田中さんは降参とばかりに、僕に八重のことを託された。おやじさんにそれとなく聞いてみるからと、カウンターの方へ行ってしまった。

「…そういえば、高橋ベーカリーさんが、ブルーベリーの栽培が始まったらパイ作るって言ってたぞ」

「……そう」

彼女が好きそうな話題だが、反応は薄い。めげずに続けた。

「このところどうなんだ?店のほうは」

「店は何も変わってない」

「そうか……」

そこから沈黙が始まりそうだったため、なんとか話を続けた。

「…その……何でそんなに気負うんだよ?」

「気負ってなんかないから……」と少し語気を強めて言った。

「じゃあなんだよ?その態度は」

僕もつられて語気が強くなってしまう。


彼女は自身のない小さな声で話し始めた。

「よく分からないんだよ……みんなが話を進めてくれるけど、私はどうしたらいいのか、何をしたらいいのか分からないんだよ……」

それをカウンターのほうで聞いていた田中さんが言う。

「八重ちゃんはここで売ってくれれば、それでいいんだよっ」

「でも……私が言い出しっぺなのに、売り込むことも出来てない。余ったケーキを見る度に、提案するんじゃなかったって……。コロッケだって、思ったより売れないし……」と、フォローも虚しく、ずっと俯いたままだ。


「そんなこと言わないで!売れ残るのは周知不足だからだよ。八重ちゃんだけが悩むことじゃないよ」

田中さんがフォローする。

「今はこれだけしか売れないかもだけど、みんな、この名物グルメのために色んなことをしてくれてるんだよ。八重ちゃん一人で売ってるわけじゃない。だから、そんなに抱え込まないで」

「八重が居なければ無かった話だけど、八重一人じゃ、実現すらしないんだ。みんながいるから、こうして今実際に食べられる。売るのだって一緒だ」

「うん……」

僕と田中さんの言葉を素直に聞き入れ、一応返事をした。


「あまり、抱え込まないでね。それじゃ、まだ仕事が残ってるからいくね。船場くん、いくよ」

田中さんに手を引かれ、店を後にした。


少し離れたところまで歩き、話し始めた。

「八重ちゃん、このグルメを絶対成功させるんだって意気込んでたみたいなの。だから、今の状況に落ち込んでるんじゃないかっておやじさんは言ってたよ。自分が発案者だから、責任も感じるだろうし、かといって何をしていいかも分からないんだと思う」

「そうですか……」

「ねぇねぇ、ブルーベリーの栽培準備に誘ってみない?最近、元気がないから困ってるみたいだよ。どうにかしてあげよ?」と彼女から提案される。


気分転換にはなるかもしれない。もし、田中さんの言うとおりであれば、商店街との接点も生まれる。しかし、二つ返事をしてくれるとは考えにくい。


「そうですね……分かりました。取りあえず、誘ってみます」

「高橋さんの件もあるし、早速遙さんのところ行こっか」

「はい」


「あら、いらっしゃい」

「いらっしゃい」

お店に入ると智徳さんも迎えてくれた。

「ブルーベリーの件でお邪魔したんですが、今、大丈夫ですか?」

「いいわよ~。待ってて。苗を持ってくるから」


待つ間、智徳さんが話をしてくれた。店の状況などを聞いておいた。

「本当にありがとう。二人とも。いろいろしてもらって助かってるよ」

「はじめまして、ですよね?委員会の田中とこっちが船場です。まだまだ何もできていませんが、お力になれるよう頑張ります。よろしくお願いします」

「こちらこそ。店主の智徳です。普段は配送とか裏方の仕事をやっているのであまり顔は出せませんが、よろしくお願いしますね」

と話しているうちに遥さんが戻ってきた。

「はい。これがブルーベリーの苗よ」と小さな木のようなブルーベリーの苗木を並べた。

いろいろな話を聞きつつ、今後のスケジュールを立てていく。


「そういえば、食堂の森本八重のことなんですが…」と田中さんが八重をこの活動に参加させたいということを伝える。

「あまり売れてないから落ち込んでるみたいね~」

さすが、商店街内の事には詳しいだけあって、状況を把握していた。

「はい……。元気を出してほしいので、気分転換に育てるのを手伝ってもらおうかと思ってるんですが……」

「彼女がやりたいと思ってくれるなら、大歓迎よ。人数は多い方がいいわ。丁度、こちらからも他のお店にお願いをしようと思っていたところよ」

「そうでしたか。ありがとうございます。またよろしくお願いしますね」

「わかったわ。こちらこそ、よろしくね~」


事務所で報告を終えて、僕だけで食堂に戻ることにした。用件を伝えるためであるが、彼女の胸の内を探るという目的もあった。

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