奔走!救世主タチ!2日目
田中さんと共に新名物誕生を知らせるビラを作っていると、新井さんと黒田さんが事務所にやってきた。
「船場くんと田中さん、こんにちは。そっちは順調?」
事務所の隅で作業をしている僕らを見つけて、黒田さんが話しかけてきた。
「こんにちは。順調ですよ!」
田中さんは“はつらつ”とした声で応えた。
「黒田さんたちは何をやっていらっしゃるのですか?」
僕は黒田さんたちの任務を訊いた。
「藤浪さんの件で来たんだよ。それより、もう食べたの?」
黒田さんが尋ねる。味が気になるらしい。
「八重さんが幸せそうな表情で頬張ってたみたいよ。私もコロッケの試作品を頂いたけど、おいしかったわ!」
田中さんが興奮気味に答えた。
「そう、それはよかった。……あ、邪魔したね。それじゃ頑張って」
黒田さんは嬉しそうな顔をして話を終えた。
黒田さんは見世さんのところへ報告をしに向かったが、その場に新井さんだけ留まった。
そして、意を決したように話を切り出した。
「あ、あの……チーズケーキは、どこに行けば食べられるんだ?」
その声はか細く、震えていた。
「チーズケーキなら、和田さんのカフェとかで食べられるけど……」
田中さんが答える。
「そうか……ありがとう。じゃあ……」
ぎこちない返事をして、去って行った。
「なんだろ?……もしかして……興味あるのかな?」
意外そうな顔をして、僕に問いかけた。
「そうかもしれませんね……」
主張をせず、会話もあまり交わさない新井さん。イメージというイメージがなく、謎が多いことが彼のイメージである。ただ唯一、クールな人っぽいという一方的な思い込みがあるため、スイーツ好きと言われれば意外だ。
「そういえば、藤浪さんの所どうするんだろうね?」
作業をしながら田中さんが訊いてきた。
「わかりません……けど、どうにかしてあげたいですよね……」
僕は世話焼きなのかもしれないと思いながら答えた。
「それはみんなが思ってることだけどねぇ……。そういえば、同い年だっけ?」
ふと、年齢を思い出したように訊く。
「ひとつ下です」
「そっかぁ。君たち若いねぇ」
感慨深げに言う。
「田中さんだって、若いじゃないですか」と、とりあえず彼女を持ち上げておく。
「まぁねぇ。でも、二十六なんてもう三十と一緒だから。社会人になって四、五年経ったら、時の流れがだんだん早く感じてね。そこから老けや衰えに気づき始めるの。若い若いなんて言ってられるのは今のうちなんだからね!」
さらっと僕の発言を受け入れて、変な経験談を語り始めた。
「はぁ……それにしても、あの子大丈夫かな……。花屋のお姉さんが教えてくれたんだけど、海外の人を相手にした業種で働きたいらしくって、外国語の勉強を学校の勉強とは別口でやってるらしいよ」
藤浪さんについて知っている情報を教えてくれる。
「そうなんですか」
「この分だと、あの本屋さんは後継者不在で店を畳むことになりそうね……それを分かってるから、彼女は意地でも店番をしたいんだろうねぇ…」
それを聞いた僕はふと思いついた。
「本当は、他の人に店番を頼みたくないのかもしれませんね」
意地でも自分の力で存続させたいと思っているのではないかと思った。背に腹は代えられず、仕方なく相談したのではないかと推測した。
だが、田中さんはそれを否定する。
「いや、彼女自身、お店を少しでも長く続けたいと思っているらしくて、当分は就職せずに手伝うつもりなんだって。今の状況を脱さない限り、卒業までお店を続けられないだろうから、是が非でも誰かの手を借りたいんじゃないかな?」
「そうですか……」
「さぁ、私たちはこっちを頑張らないとね!あっちは黒田さんと新井さんに任せて、自分の仕事に集中しなきゃっ」
気合いを入れ直すかのように、僕の肩をポンッと叩いた。
「そうですね!」
改めて、自分のやるべきことを確認した。少しだけ聞こえる黒田さんたちの会話に耳を澄ませつつ、作業に戻った。
その後、完成したばかりのビラを各商店に配った。事務所を出る際に見かけた黒田さんたちは、何やら話し合いをしていた。
15分ほどで配り終わり、事務所に帰ってきた。田中さんは予定があるらしく、ひとりで報告するはめになった。
話し合う黒田さんと新井さんの姿に変化はなかった。
とても話しかけられる雰囲気ではないので、報告がてら、見世さんに藤浪さんの件について訊くことにした。
「見世さん、今日の予定は全部終わりました。報告書を届けに参りました」
「はい。オッケーよ。ご苦労様でした。何か変わったことは?」
「特にないんですけど…あの、ひとつお伺いしたいことがあるんですが……」
「ん?何かしら?」
「藤波さんの件は、どうなりましたか?」
「黒田と新井が担当してるけど……ふーん、そんなに気になるのかしら?」
ニヤリとしながら訊いてきた。
「まぁ、ちょっと……」
「まぁ、教えてあげてもいいけど……でもなぁ……あっ、そうだ。どうせ、来週打ち合わせがあるし、そこでもいいんじゃない?」
「そこを何とか。仲間の進捗状況が気になるんですっ」
勿体ぶって誤魔化そうとする見世さんに、少し意地になっていた。
「じゃ~伝えておこうかな。あっ、これは秘密にしといてね~」
と言いながら、書類を引っ張り出してきた。
「ありがとうございます」
実行委員というひとつのチームではあるが、山積する課題になるべく早く対応するため、それぞれ担当者を定めることになっている。
自分の担当案件以外に首を突っ込んではいけないのだろうが、状況を聞くくらいなら良いだろう。
「今日の報告によると、彼女は少しでも店番の負担を減らしたいと思っているみたいよ。だけど、店番をしてくれる近しい人は見つからなかったそうよ」
書類を見せながら説明する、
「そうなんですか……じゃあ、誰か募集するとかしかないですね……」
「でも、誰かを雇おうにもお金の余裕がないのが現状よ。船場くんたちみたいにタダ同然で働いてくれる人はそんなにいないから」
「そうですよね……」
どうにもこうにもいかないようだ。
「今はその会議中よ。……それにしても、森本さんじゃなく、藤浪さんのほうだったのね~。青春ね~」
勘違いとかではなく、からかっているのだろう。
「いや、だから違いますからっ」
「え?そうなの……?まぁ、気になったらまた訊いてちょうだい。報告された情報なら、こっそり教えてあげるから」
意外そうな顔をしつつ、継続的な情報提供を約束してくれた。
「わかりました。それでは失礼します」
「はい。またお願いね~」
そうして、一日の活動が終わった。
何故か藤浪さんのことが気になって仕方がなかった。親がしていたものを引き継ぐことの重要性を祖父や父から聞かされているからだろうか。
見世さんが言うような恋愛の感情は一切無い。そもそも関わりが無い。
とりあえず、こちらのことに集中しなければならないと言い聞かせて、名物メニューの作り方や販売方法などがまとめられた企画書を読み込んだ。




