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境界駅  作者:
10/11

3-4

「右京、誕生日おめでとう」

 「えっ?」

 視線を一瞬電車に向けた隙に、どこに隠し持っていたのか、左京の手にはブレスレットが一つ握り締められていた。

 そして左京はそのブレスレットを私の左腕につけた。

 「本当は誕生日に渡すつもりだったんだけどね。遅れてごめんね。」

 「あっ。」

 私は持ってきた鞄を開け、そこから腕についているブレスレットとは色の違うブレスレットをだした。

 「それは・・・。」

 「これ、私からの誕生日プレゼント。可笑しいねぇ、色違いだけど、同じ奴買うなんてさ」

 そういいながら、私は左京の右手にブレスレットをつけた。

 「もう、渡せないと思ってた。渡せて良かったよ。」

 電車が止まり、入り口が開く。

 踏みとどまりたい思いを振り切り、私はからっぽの電車の中に入った。

 私は涙を拭い、振り返った。

そして今できる最高の笑顔を左京に見せた。

 最後、これで最後だから、笑いたい。

 左京が心配しなくて済むぐらいの、とびきりの笑顔を。

 泣いてはダメだと心では分かっているが、自分の意思と反して涙がこぼれていく。

 やっぱり離れたくない、傍にいたい。

 永遠に時間が止まれば、どれだけ嬉しいだろう。

しかし、こちらの気持ちなどおかまいなしに扉は閉まった。

そして徐々に動き出す。

「右京!」

電車の動きに合わすように、電車と平行して左京が走り出した。

「右京、笑って!たくさん笑って!生きてたら嫌なこともあるけど、逃げないで!良いことも絶対あるから。」

電車はどんどん速度を上げていく。

本当の別れがもう近づいている。

「それから、私のこと、忘れないで!」

最後は笑顔で・・・。

生きることを決心したときに、そう決めたのに・・・。

我慢しきれず、私は大きな声で泣き叫んだ。

「忘れないよ、左京が生きていたこと、忘れない!左京の分まで生きるから、私。だから・・・」

最後まで言い切ることはできなかった。

言い終わる前に、ホームの終わりがきた。

 柵から身を乗り出して左京が手を振っているのが見えた。

 薄れゆき意識の中で、左京はいつまでも笑っていた。


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