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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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94/261

94.楽器は響く

ピスティルは至近距離の間合いを離そうと飛びのくが、リンファがそうはさせじと更に踏み込む

睨みあう間合いの近さがうっとおしそうにピスティルの顔が歪み舌打ちをリンファの耳が拾った


「この距離は苦手みたいですね……!」

この間合いを勝機と感じたのか。リンファがヒュっと息を吸い込み連撃の構えを作る


「舐めないでほしいわね!」

ピスティルはそんなリンファに対して苛立ちを隠そうともせず杖を振りかざす!

その瞬間ピスティルから真っ黒い瘴気が噴き出し、リンファは咄嗟に飛びのく!

その瘴気に触れた盗賊の遺体がその毒素がしみ込むようにどす黒く変色し腐り果てていく



「ちっ…… さすがに喰らってはくれないわね……」

「あの時の空気を毒に変える魔法か……!危なかった!」

「わかったところでかわしようはないでしょう? 死になさい!」


タネがわかってもなお問題ないといわんばかりに瘴気を強める

だがその瘴気はどこからともなく流れてきた風に舞い、その毒素を消滅させていく


「なっ!? どうしたというの!?」

焦るピスティルを前にリンファが何かに気づき振り返る!


「ガルド……!」

「そんな児戯をここでさせるわけがなかろう……! この薄汚いゴブリンめが!」


ガルドが解毒と風の魔法を同時に発動し、ピスティルの毒を一斉に中和させていく


「助かる!ありがとう」

「貴様の為な訳がないだろう……虚言を吐くゴブリンの眷属め!」

「嘘なんてついてないよ!」

「黙れ!信じられるか! だが……」



解毒を展開しながらガルドはちらりと上を見上げる

そこには分厚い障壁に守られ、未だ寝息を立てる幼い女の子の姿がある


「だが……ここであんな毒をふりまかれるわけにはいかんのだ!」



「邪魔ねぇ……じゃあ貴方からよ!」

ガルドが居る限り毒魔法で制圧するのが難しいと感じたのか、ピスティルが命鉱石をガルドに向けて次々と撃ち込む

命鉱石はその形をまるで杭のよう尖らせた石に変わり、ガルドに迫る!



「タネがわかればそんなもの!」

ガルドは障壁での防御が困難と即座に判断し、分厚い石の壁を眼前に展開して命鉱石の直撃を避ける

石壁に突き刺さった瞬間命鉱石は水に変わり、水圧にて石壁を細切れに破砕!


砕けた石壁の向こうでガルドは詠唱を完成させ、炎の竜巻で水に変わった命鉱石を包み込む!

「たとえ形状が戻るにしても相反する属性を受けてはタダではすむまい!」


炎の竜巻を放ちながらその結果を見ずに大きく後方に下がり距離を取ると次の詠唱を唱える

「不愉快だ……こんな不細工な立ち回りで戦わなければいかんとはな」


炎に煽られた水の魔法がその力を利用して高温の蒸気に変わり、風の魔法をまといガルドに襲い掛かる

人の肌にあたれば爛れ広範囲の熱傷は必至、しかも逃げ場を与えぬほどの範囲で迫る


「貴様の攻撃は至極読みやすいぞ!ゴブリイィン!」

ガルドは既に詠唱を完成させて解き放つ、それは氷結魔法!

高温の蒸気の周囲の温度を一気に氷点下に下げ、その蒸気を凍結!


「不本意だがしばらくこの追いかけっこに付き合ってもらおうか!」

ガルドは更に詠唱を始め、命鉱石を抑え込んだ




「やるじゃない……あの人間……殺し甲斐があるわね」

ピスティルが毒の詠唱を続けながらガルドを見る

空気が毒に変わった瞬間にガルドの魔法によって解呪と霧散が行われる

その風はピスティルの服を翻らせ、常に吹き続ける


「な、何個の魔法を同時に使いこなしているんだ……ガルド……!」

「ラチが明かないわね、じゃあ戦い方を変えなくっちゃ」



ピスティルが毒の詠唱を中断すると同時に、なんとリンファの間合いに踏み込む!

「なっ!?」

手を伸ばせば顔面を吹き飛ばせるほどの肉薄してくるピスティルの動きに虚を突かれ、リンファの動きがわずかに乱れる

その隙を逃すまいとピスティルが命鉱石を展開しながら詠唱を始める



命鉱石は氷柱に変わりリンファを貫かんと襲い掛かるが、その攻撃をリンファは必死に捌く!

掌に当たるたびに命鉱石からその礎になったであろうゴブリンの最期の面影がリンファの脳裏に襲い掛かり、戦闘中であるにも関わらずリンファは軽いめまいを起こす


あるものは眠る寸前の重い瞼であったり

あるものは何かに気づき泣き叫びドアを叩くものだったり

あるものは覚悟して床に座り込むものだったり

あるものは壁の向こうの誰かを憎しみで睨みつけたままだったり……



その一個一個の命鉱石のゴブリンの魂が刻み込まれ、その魂を糧にしてリンファに襲い掛かる

「命を武器にして戦う……だって……!」

何度も捌くうちに徐々にその面影は薄れていく

命の色がなくなり、ただの魔力の塊になり、やがてその魔力すらも消えて……



「お前らは!命を!なんだと思ってるんだぁー!」

リンファは消えゆく面影に涙し、こみ上げる怒りをこらえきれず雄たけびを上げる


「あなたを殺す為なら、私はなんだってするのよぉ!」

その雄たけびに応えるようにピスティルが叫び、その声が合図になったかのように二本の杖が浮かんだままリンファに筒先を向ける

杖にしつらえられた巨大な命鉱石がまるで砲台の様にリンファを狙い定め、魔法の展開が始まる



「炎だろうと氷だろうと捌き切って撃ち込みます!覚悟ぉぉ!」

命鉱石のラッシュを捌きながらピスティルに向けて今まさに一撃を加えんと強く踏みこんだ


「違うわね……そんな魔法じゃないわ!」

こんな時にも関わらず、ピスティルが不敵に笑う





「聞きなさい!この楽器の響きを!!!!!」






拳を打ち出そうしたリンファを鋭い何かが幾重にもその身を刻む

あまりの切れ味に噴き出す鮮血に痛みよりも何が起きたかわからないリンファの体が不意に引き込まれる

「これは……真空!?」

リンファを切り裂いた真空が空気の流れを急激にかきまわし、リンファの踏み込みの勢いを崩しその間合いを乱す!

そしてその真空が大気すら破りかねない程の咆哮が吹き飛ばし、空気の砲弾と化してリンファに激突した



真空の斬撃と咆哮の砲弾がリンファの体を襲い、一気に吹き飛ばす

血を噴き出しながら吹き飛ぶリンファを見ながらピスティルはニヤリと笑う

だが次の瞬間、仕掛けた側であるはずのピスティルの体にも無数の斬撃が刻まれ血を噴き出していた



「く、くううう……!こ、これは……!!」

壁面に激突し呻くリンファ

この力とこの痛みには覚えがある……、この力強い雄たけびをリンファは知っている



「ふ、ふふふ……あんな距離で打ち込んだのに直撃を避けるなんて……化け物ね……!」

刻まれたその身に回復魔法を当てながら息を切らせピスティルが呟く



「ご、ゴブリンの楽器……!?」

リンファはその魔法の名前を思わず口にする

真空を打ち抜き強大な一撃を放つその大技……その威力のせいで使用者のダメージも大きいまさに捨て身の大技!


それは……



「そうよ……トランクの技、あなたを殺すにこれ以上ふさわしい魔法はないでしょう?」

緑の血にまみれながら、愛おしそうにその杖を抱きしめるピスティル

塗れたような真っ赤な命鉱石に緑の血がこびりつく



直撃はかろうじて避けたものの、範囲の広さと威力の高さに甚大なダメージを背負い、血だらけになりながら足を引きずるリンファ


「穢れ! 今のはなんだ!」

命鉱石を捌きながらリンファに向けて強く叫ぶガルドだったが、リンファは声もうまく出せない程に息も絶え絶えになってしまっている


「答えられんほどにダメージが大きいということか……えぇい役に立たん!」

ガルドが問いに答えないリンファに苛立ち、攻撃の矛先を再度ピスティルに向ける


「あんな攻撃を連発されてはこちらの身が持たん……! くらえ!」

迫る命鉱石のラッシュを魔法で回避しながら巨大な火炎弾を苦し紛れに打ち込むが、ピスティルは微動だにせずその炎を杖で受け止め霧散させる


「まだそんな威力のある魔法を撃てるのね……!」

「ちぃ、やはり効かぬか……穢れ!何をボーっとしている!さっさと構えんかぁ!」




想像もしていなかったかつての強敵の大技を受け、リンファは意識を朦朧とさせながら無防備に前に進む

そんなリンファを横目に見ながら、ピスティルはなおもその杖を愛おしそうに抱きしめる



愛おしそうに抱くその目には、絶えることのない一筋の血の涙が流れ続けていることをピスティル自身は気づかぬまま―――



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