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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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77.神様と狼

連れてきてもらった空き家は他の家に比べてかなりボロボロではあったが、野宿を思えば大豪邸だと感じられた

天井に雨漏りの染みもなく、床を踏んでもビクともしない

屋根と床があるというだけでこんなにも心強くなるものなんだなぁとアグライアは心の中でほほ笑んだ



「あのね!この部屋以外は床?がダメだから使わないでって!」

「そうなんだ、わかったよパットちゃん ありがとう」


部屋まで案内したパットが村長からの言づてであろう注意事項を元気いっぱいに教えてくれる

その元気につられて思わずリンファの頬が緩む



「えとね!ご飯はね!パットがね!持ってくるからね!」

「それは嬉しいね! なんだろう、楽しみ!」

「えっとね、芋の蔓! お芋の味はしないけどおいしいよ!」

「そっか!すごくおいしそう!」



食事に関しては野宿の時の方が豪勢かもな……と思ったがアグライアは口には出さない

食べさせていただけるだけで感謝と言うものだ


「パットちゃんは今夜の神事は楽しみにしてる?」

「しんじ……? あ、あぁ!うん!すごく楽しみ! パットのお家には絶対神様が来てくれるの!狼とかこないの!」

「神様が来る?狼?」


パットはその言葉を言ってしまった後、慌てて口を自分で塞ぐ

そして泣きそうな……というか力いっぱい泣き出してしまう


「あ、あああー! いっちゃダメなのにー! お父さんのそんちょさんに内緒って言われてたのにー!ええーーん」

全力の子どもの鳴き声とはこんなにも大きいのかと二人が仰天する

リンファに至っては

「トランクさんの技より鼓膜に響いたなぁ……」

と考えてしまうほどだった



「だ、大丈夫だよ!お姉さんたちは何にも聞いてない! わかんないから!大丈夫!」

「ぐす……本当……?」

「本当本当!なんにもわかんなかったよ、な! ファリン!」

「え? あ、うん! 何か言ったかな? 撲何にも聞こえてなかったよ!」


二人が慌ててそういうと、パットは二人の顔を恐る恐る見上げてニコっと笑った

「よかった!内緒なの! 大事なの!」


頬に涙の跡を残しながらも満面の笑みに変わったパットに二人は安堵する

なんというか、子どもとはこんなにもかわいく、こんなにも疲れるものなのか……!

二人はパットに見えないように小さくため息をついた



「あのね、お父さんがいつも言ってるの! 神様が助けてくれるって! だから楽しみなの!」

「そ、それは内緒じゃない?」

「……うん!内緒って言われてない! 大丈夫!」



内緒じゃないから安心と言った感じでパットは楽しそうに話す

話すというよりも一方的に思う言葉を口にすると言った感じで次々と言葉をまくしたてる


「あのね!神様は今居ないの! でも神様助けに来てくれるの! だから大丈夫なの! お父さん言ってたの!」


目をキラキラ輝かせながら喋る言葉にニコニコとしながら、アグライアは少しだけ複雑な気持ちになる

『この子が口にしている言葉はきっと家で日常的に話されている内容なのだろうな……』



うすうす感じてはいたが。王都直轄にしてはあまりにお粗末なこの環境

そして『神はいない』という言葉

まがりなりにも神を崇めることを政治の根幹にしている王都の直轄でそんな発言が出るという事は

『直轄地してしての運用はほとんどされていないという事か……』


そう考えればさびれ具合については納得がいく、だがそれでも納得できない部分があまりに多い

色々と考えてはみるが、明確な答えなどでるわけもなくアグライアは頭をポリポリと掻く




「おい、毛布と食事を持ってきたから部屋の前のテーブルに置いておく、お客人に渡してくれ」

「お父さんだ!お父さんこっちの部屋だよー!」

「パットのお父さんですか?よろしければお部屋にどうぞ」


アグライアが扉越しに来訪をうながすが扉は開かず沈黙が訪れる

ほどなくして開かなかった扉の向こうからボソボソと小さな声が発せられた


「申し訳ない……今夜の神事の為手が離せないので失礼する さぁ、一緒に帰ろう」

「えー!やだー!お姉ちゃんとファリンちゃんともっとお話するー!」

「ダメだ、すぐに来なさい 悪い子には狼が来るよ」

「や、やだー! 帰る! まっておとうさあああああん 」


狼と言う単語がよほど怖いのか、パットは半べそをかきながら扉に走っていく

そして扉を開け走り去ろうとしたが何かを思い出したようにアグライアとリンファの方に顔を向けた


「また遊ぼうね! お姉ちゃん! ファリンちゃん!」

ニコっと太陽の様なまっすぐかわいい笑顔をパットは向けて、大きく力いっぱい手を振ってくれた


「うん! また遊ぼうね!」

その笑顔につられたようにリンファも元気いっぱいに手を振り返す



二人は見送ろうと外扉を開けるが、父親は顔を見せる事すらせずに背中を丸めて歩いていく

パットはそんな父親の手を握りながら一生懸命父親に向かって何かを楽しそうに話しかけていた


「なんというか……パットちゃんのお父さん、元気がない感じでしたね」

「そうだな…… 元からあんな性格の人かどうかはわからないがな……」



二人はパットの元気さに癒されながらも、その父親の少し不審な態度に疑問を持つ

『顔すらも見せられないくらい忙しい……そうだとしても少し不躾ではないか?』


考えても仕方がない、どうぜ一晩だけの宿だ

アグライアは湧いてくる疑問を頭からかき消す


「さ、とにかくゆっくり休もう 明日からまた長い旅が続くからな」

「そ、そうですね! 差し入れてもらったご飯をいただいてゆっくり休みましょう」


二人は異常に静かになった部屋に戻り、差し入れられた食事をいただく

パットが言う通り芋の蔓の煮物で、正直美味しくはなかったが

丁寧にアクを処理され、少しでも食べやすくなるようにとキチンと作られたのがわかる料理になっていた











リンファがその音に気付いたのは眠りについてから数時間後の深夜だった

そのあまりに不釣り合いな音に、アグライアを揺り起こす


「……どうした? リンファ」

完全に眠っていなかったのであろうアグライアが、しっかりとした口調で声をかける


「アグライアさん、馬の蹄の音です……それも人が乗ってるであろう馬が5、6頭」

「馬……こんな深夜にか?」


リンファがもう一度耳を澄ます

ゴブリンハーフであるリンファはゴブリンほどではないがそれでも鋭い五感を駆使し辺りを伺った


「多分ですけど何か武器を携帯してます……金属音も一緒にします」

「これが夜中の神事というやつなのか…… 気にはなるが約束があるから見るわけにもいかんな」


アグライアはそう言いながら部屋の窓の傍にたち、耳を澄ます

リンファほど鮮明ではないが、確かに馬の蹄が聴こえてくる気がした


「アグライアさん、撲お祭りとか神事とかに参加したことがないのですけど…… こういう催事ってこんなにも静かな物なんですか?」

「土地ごとでなんともいえないな……音をだしてはいけない神事がないわけでもないし」


そういいながらもアグライアもずっと気にはなっていた

土地ごととは言ったが、曲がりなりにもここは直轄の村だぞ?

王都の人間が定期的に来ている筈の管理地に、そんな独自色の強い神事が根付くものか?



そんな時、リンファの耳に信じがたい音が飛び込む



それは声、それも絹を裂くような甲高い声

泣き叫ぶような音で響くその声は、はっきりとこう叫んだ


「狼やだ!狼嫌だよー!」





その声にリンファの目が大きく開き、背中が強く震える

「アグライアさん、パットちゃんの声だ! すごくおびえて泣いてる!」

「なんだと……!?」




パットの鳴き声がやがて何かに口をふさがれるようにくぐもり、やがて聞こえなくなる

リンファは居てもたってもいられなくなり、アグライアに慌てて声をかける


「明らかに何か異常です!パットちゃんが危ないかもしれない!」

「し、しかしそれは神事の一環の可能性がないか……?」

「そうかもしれないけど、でももしそうじゃなかったら……!」



その時、今度はリンファの嗅覚が強く反応した!

「アグライアさん、窓から離れて!」

「何!?」






「油と燃え盛る炎の臭いだ!」

リンファが叫んだ瞬間、窓の木板が何か鈍器を用いたような力で外側から破壊されて轟轟と燃える松明が投げ込まれる!







対処する間もなく大量の松明と油が燃え盛り、リンファとアグライアは炎の海に囲まれた―――





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