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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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76.不穏の影

「ギルドの方がこんな辺境の土地までお越しになるとは、ご苦労な事でございます」

白髪の長いひげを撫でながら村長は二人を労った


「ご覧の通りここには何もなくてのう……お二人を満足させられるような毛布一枚お貸しすることも難しくて」

「いえそんな! 我々は馬小屋でも、なんでしたらここの軒先でも構いません 一日だけこの村で休息することをお許しいただければ……もちろん代金は支払います」

「いやしかし……その……参ったのう……」



村長は心なしか二人の滞在を遠慮したい空気を出していたが、アグライアは気づかないふりをして頼み込む

面と向かって拒否をされれば立ち去らざるを得ないが、こちらとしてもわずかでも休息をとっておきたい

拠点を出発した時に多少の物資はもらってはいるが、それでも限界はある


無理を承知でアグライアは頼み続ける


しかしその様子を見て村長は何とも煮え切らない態度を続ける

あまり歓迎されていないのはわかる、だが「ここに逗留してもらうわけにはいかない」と突っぱねようともしない

なんというか、どうしていいのかわからないといった感じの返答ばかりなのだ



「つかぬことをお伺いするが、ここからどこへ向かわれるおつもりなのじゃ?」

「ギルドの命令でエタノー領へ向かいます」

「つまり北じゃな……、移動手段は徒歩かね?馬などは……?」

「お恥ずかしながらここまでも徒歩です、馬を調達する場所なども今までなくて」

「この村にも馬はおらんからな……どうしたものか……」



話ながらアグライアは村について更に違和感を深める

『馬がいない? 貸せないならともかくいないのか…… ここの人達は徒歩以外の移動手段はもってないのか?飛翔や転移の魔法が使えるわけでもないだろうに』

自らの体を移動させる系統の魔法は様々な術式を組み合わせる為、かなりの高等教育を受けて習得する必要がある


覚えたとしてもそれを使って長距離の移動をしようとすれば莫大な魔力を必要とする

魔鉱石でもあるならともかく、一般人の魔法力でこんな山間から他の人里まで移動するのは非現実な話だ


『いよいよもってこの村の営みがわからない……』

もはや不気味さすらも感じるが、とはいえここを逃せば次の補給や休息はいつになるかわからない



「このまま北に行かれると……ううむ……・」

「あ、あの……何か仰いましたか?」

「え!?あ、いやなんでもございません…… ふ、ふむ……では今夜だけでよければ村外れの空き家をお貸ししましょう」


突然の滞在許可に少し戸惑うアグライアだったが、地獄に仏とはこのことと言わんばかりに頭を下げる

「えっ あ、ありがとうございます!」

リンファもアグライアに倣って深く頭を下げる、その際布の隙間から少しだけ緑の肌が露になってしまった


「お連れの方は……珍しい肌の色をしておられますな……」

その言葉にドキっとするリンファだったが、アグライアは眉一つ動かさず口を開く


「この者は飛翔島を居所とする移民……緑の民でございます ギルドより許可を経て従者として雑事をさせております」

「み、緑の民のファリンと申します! 名乗るのが遅れてごめんなさい」


咄嗟に偽名を名乗るリンファ

肌の色を口にされて狼狽してしまったが、いつまでも全身を隠しておくこともできないので被ったフードを外す


「なんと……緑の民の事、話には聞いておりましたがこれではまるで……」

「そうなのです、知らぬものが見ればゴブリンと勘違いされてしまうためこのように全身を隠させております……不躾で申し訳ございません」

「緑の民……なるほど……それは珍しい……」



村長は少しだけ独り言を言ったかと思うと、二人に視線を戻す

「お恥ずかしながらこの村にお二人を満足させるような歓待はできませぬが、後で空き家に寝具と食事をお持ちいたします どうぞ今夜だけでもお疲れをお取りください」


さっきまで滞在を渋っていたとは思えない歓迎を見せる村長

リンファはその申し出に素直に感謝をしていたが、アグライアは違和感を拭えない


「ただし、一つだけ約束していただきたいことがございます」

「な、なんでしょう?」

「今夜は村でささやかながら神事を執り行います 村に古くから伝わる催しなのですがこれは部外者に見られてはいけない決まりがございます」

「神事……」

「神事の前に教会の鐘がなりますので、その音が聴こえたら夜明けを迎えるまで外には出ないようにお願いいたします」

「承知いたしました、村の催事を邪魔するわけにはいけませんので出歩かないようにいたします」



村長はその言葉に頷くと、外に向かって声を上げる


「パット!パットや! ちょっとこっちまでおいで」

その声に呼ばれ、ほどなくして部屋に誰かが入ってくる

それは7つか8つの小さくて利発そうな女の子だった


「はい!村長様、なんでしょうか?」

「これ、まずは挨拶をせんかパットや」

「あ、ごめんなさい! お姉さんと……お兄さん?お姉さん? かな? こんにちわ!パットです!」


突然の無邪気な来訪者にあっけにとられるが、その愛らしさに思わず二人から笑みがこぼれる

「こんにちはパットちゃん 私はアグライア、この子はファリンという、よろしくね」

「アグライアお姉さんにファリンちゃん……覚えた! よろしくです!」


力いっぱいペコリと頭を下げて挨拶をするパット

頭から転がってしまいそうでリンファは少し慌ててしまった


「パットや、このお二人を外れの家まで案内しておあげ 途中でお父さんに行って毛布を出してもらいなさい 私が言ったといえばわかるからね」

「あい! わかりました! 行こう!アグライアお姉さんファリンちゃん!」


村長から受けた大事な用事を守るべく、パットは一生懸命二人の手を引っ張る

「申し訳ないのう、本来ならワシや他の者を案内にすべきなんじゃが……今夜の催事の準備がありまして……」

「いえ、こちらこそ不躾な申し出を受け入れていただき感謝いたします、それでは今夜だけご厚意に甘えさせていただきます」


パットの引っ張る手を優しくつかみながら、アグライアは村長に礼を言う

リンファはパットの勢いにたじたじになりながらその手を引っ張られるがままになっていた


「わわわ……パットちゃん、僕こけちゃうよ!」

「早く早く!ファリンちゃん行こう!」


パットの勢いに負けるような形で二人は村長の家を後にする


そして村長の部屋に、アグライアとリンファが居なくなったことを合図にしたかのように数人の男がズカズカと入り込んでくる


「村長……まずいだろ、なんで追い出さなかったんだよ!」

「ワシだって滞在などさせたくないわ! じゃがやつらエタノー領……北に向かう気じゃ 今夜山で見られたり鉢合わせになっても困るじゃろ!」

「そ、そうか……確かに……」


全員ヒソヒソと外に絶対聞こえないように小さな声で会話をする

村長はさっきまでの表情とはまるで違う、切羽詰まった悲壮感溢れる表情をしていた

だが、その目の奥にはどす黒い感情が見え隠れする

「みんな、よく聞け…… あの連中も今夜一緒にやってしまえばええ どうせ女子供じゃ……むしろ好都合と言うもの」

「それに緑の民……他国の人間は高く売れる、ものはついでじゃよ……」


その言葉に全員が首を縦に大きく振って同意する

目を見開きはするが、全員その顔に余裕はない



「とにかく今は奴らに気づかれないように準備を進めるんじゃ…… ワシらはもうこれしか生き残る術がないんじゃから……!」









パットが元気いっぱいに引っ張る手に連れられ、二人は村を歩く

村の寂れ切った空気とは裏腹に、パットの溌溂さは留まるところを知らない


「ゆ、ゆっくり行こう!お姉さんちょっと疲れちゃってるんだ」

「早く早く!こっちこっち!」


勢いの止まらないパットにたじたじのアグライア

そんな中リンファは村の様子を見回してふと気づく


「神事……? そんな準備してる様子、どこにもないけどなぁ」

櫓を組んでいるわけでも火をおこす感じでもない


それに匂いも感じない、リンファの鼻をもってしても特段おかしな匂いは嗅ぎ取れない


目に見える神事でもなければ匂いを起こす神事でもない?



『まぁ集落で催事って違うもんだしなぁ』

と、リンファは頭に浮かんだ疑問を頭から消した




「お父さん!村長さんが毛布出してって!お父さん!お父さん!」

そうしているとパットが家の扉をガンガン叩く

その勢いで扉が結構な勢いで軋む、子どもが叩いた程度で軋むくらいには粗末な作りのドアからのそりと鼻先に傷をつけた無精ひげの男が顔を出す


「ん……毛布と村長がなんだって……?」

顔を出した男と目が合い、アグライアとリンファは頭を下げる

「村長が!お姉さんとファリンちゃんに毛布出してあげてって!」

「お、おぉ……旅の人か……!? すぐもって行くからお前はお二人を空き家に連れていけ」

「わかったー!行こ!いこー!」


父らしき男はパットと言葉をかわしたが二人にあいさつなどをすることはなく、そそくさと顔を奥に引っ込める

二人が下げた頭に声をかけることすらなく、急いで姿を隠したようにすら見えた



二人はお互いで顔を見合わせるが、パットが走り出すので慌てて追いかけた






父親はドアの隙間から、そんな二人をただ重々しく睨みつける

丹念に研がれた鋭い剣を、力の限り握りしめながら―――

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