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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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406/415

406.害獣屋

母親と共に声を上げて泣きじゃくった後、姉妹はしこたま叱られた

姉のアルテアはバツが悪そうに下を向き、妹のユニは叱られたことでまた泣いた


母親は目を真っ赤にしながら気丈に振舞い、威厳を持って叱った

だが目の前の二人が生きていることを自覚して、やはり泣いてしまった



村人たちはその光景すらも最近の地獄に忘れさせてくれる美しい光景に映ったのか、目を細め見つめる

やがて周りの大人たちはそんな光景を見つめながらその場を離れ、それぞれの生活に戻っていった



「……わかった!? もう絶対に森に行ってはいけないよ!」


「……次はユニを連れて行かない」


「バカッ!」


母親の手加減抜きの平手打ちがアルテアの頬に放たれ、乾いた音を立てる

目を伏せたまま頬を押さえるアルテアに母親眉を吊り上げて声を上げた



「もうあの森はアンタが遊んでた場所じゃないんだよ! それがわからないのかい!」


「遊んでたわけじゃない……もの……」


思わず手を振り上げる母親にビクッと肩を震わせて身構えるアルテア

母親は手を振り上げたままワナワナとアルテアを見つめ、唇を噛み締めた



「ごめんな……さい」


母親の顔を見て自分の誤りを自覚したアルテアは言葉少なに謝る

振り上げられた手はしばらく宙に所在なく上げられ、やがてアルテアの頭を撫でた



「お願いだからおとなしくしていて……貴方達までいなくなったら私は……」


さめざめと泣く母にアルテアは少し戸惑い、なんとなく母親の手を触る

母親はその手を優しく握ると、ポンと優しく触る


そして顔を上げて涙を拭い、娘たちに笑顔を向けた



「よし、お説教終わり! お腹がすいただろう? ご飯にしようね 今日は二人の大好きな羊肉のシチューを作るからね!」


「シチュー!? ユニ、お母さんのシチュー大好き!やったぁぁ!」


さっきまでの泣き顔をどこかに置き忘れたかのように妹のユニが嬉しそうな声を上げる


アルテアは一瞬顔を綻ばせたが、すぐに俯いて不安そうな顔になる



畑で作っていた作物はこの異常気象であっという間に枯れた

村で育てていた羊のほとんどは不気味なゴブリンみたいな奴にかみ殺されて焼却処分した


井戸だって覗き込んでも水面が見えないほどに水量は減っているし、雨が降るどころか地面はカサカサに乾いていっている



「お母さん……食べるもの……だいじょ……」


アルテアはその素朴な疑問を投げかけようとして慌てて言葉を飲む

ユニの頭を撫でる母親の顔が、あまりに険しい笑顔だったから


さっきまで涙を流していた時の顔とは明らかに違う、絶望漂う母の顔

子どもに現実を見せまいと笑顔を作る母の顔から過酷な現実が這い出しているように見えたアルテアは慌てて目を伏せた



そしてアルテアは幼心に理解する


『あぁ、本当にダメな状況なんだ』と


張り詰めた風船の様な母の心を刺激しないように、アルテアは自らの顔を隠す

そんな時狙っていたかのようにユニのお腹がかわいく鳴り響き、それを合図にしたようにアルテアは必死に笑った


「お、おかあさん! ユニがすごくお腹すいてるって!」


「うん! もうお腹ペコペコだよ!」


「わかった!すぐ作ろうね! アルテアもユニも手伝うのよ!」


大きな声で返事をするユニにニコっと笑う事に成功する母親

アルテアもそれに続こうとするが、そんなアルテアに母親が声をかけた



「あ、そうだ アルテアはあの人呼んできてくれる? えーっと……」


「んと……ゴブリン研究の人……?」


「そうそう、害獣屋さん! 今日はウチが食事当番だからね、早めに体を洗ってもらわないと」


「うん、わかった 行ってくる」



アルテアはそういってその場を駆けだすと母親とユニはその背中に手を振る


角を曲がった辺りでアルテアは歩き出し、小さなため息をついた



「害獣屋さん……、私あそこに行くの苦手なんだよなぁ……」



さっきまでの勢いを完全になくしたトボトボとした歩調になったアルテアが小さくため息をつく



村がこんなことになる数日前、突如その人はやってきた


神聖……騎士団? とにかく王都の騎士団の関係らしいその人は、村の近辺にいるゴブリンの研究の為に来たらしい


ゴブリンの忌避や駆除方法の指導や、生活圏の防備の方法、それと……


『なんであんなことするんだろう……すごく気持ち悪い あんなのすぐ焼き捨てちゃうか谷底に捨てればいいのに』



思い返しても気分が悪くなる

それが仕事だと害獣屋のそのお姉さんは笑うけど、アルテアには到底理解できなかった


その場所に向かう足がドンドン重くなる

でもお腹がすいているのも事実だったから、早いところ用事を済ませてしまおう


アルテアはそう必死に自分を奮い立たせた




―――――――――――――――――――――



わずかに鼻をつく死臭にアルテアは思わず顔をしかめる


その惨状にしては漂う臭いは少ないとは思うが、それでもこの臭いには慣れないし慣れたくない

その臭いを押さえる為に散布されている消毒魔法と消毒液に付与された花のような香りも、この現場を連想させて少し苦手になっていた



「こんにちは! えっと……アルテアちゃんだったかな?」


頬についた緑の血をグイッと無造作に拭いながらその女性はアルテアに声をかけた


「あ、はい……あの……えっと……」


その場所に気後れしているアルテアは思うように言葉が出ない


綺麗に並べられた緑色の物体、その足の裏には何やら番号が書き込まれている



その物体とは……ゴブリンの亡骸



目の前の女性は、村で駆除した……若しくは森で朽ちていたゴブリンの死体を集めてそれを解剖する仕事をしていた



「どうしたのかな…… あ!もうこんな時間か! ごめんね、すぐ体を洗って着替えてるからね」


そういうと女性はさっきまで検査していたであろうゴブリンの死体の腕を大事そうに胸においてやると、その場で服を脱ぎ始める


「あ!あの! 私ここにいるん……ですけど……」


「ん? あぁごめんごめん 大丈夫だよ、そっち側に組織片とかは飛ばないように気を付けてるから」


「そ、そういう問題じゃなくて……もういいです もうすぐご飯なので、来てくださいってお母さんが言ってました」



目の前で真っ裸になるその女性から視線を慌てて外しながらアルテアは矢継ぎ早に用件を伝える


『やっぱり害獣屋なんて名乗るくらいだから……変な人だなぁ』


目を伏せたままアルテアは口を尖らせて辟易とする


魔鉱石で発動させた浄化の光が部屋を照らし、床に零れた緑の血や肉片か昇華されていく


人間や家畜を襲い、女性を攫う害獣……ゴブリン

ここ数日では人間みたいな顔と泣き声を持つ奴も出てきた



村の大人はそれをゴブリンハーフと呼んだ

そしてそのゴブリンハーフは……


アルテアはあの日のことを思いだし、唇を噛む

ゴブリンハーフの名前を思い出すと、父親の最期がどうしても頭から離れない




消えていく緑の血を睨みながら、アルテアは害獣屋に聞いた




「なんでこんな事を……してるんですか?」


その質問の意味を考えていたのか、少しの沈黙が流れる

そして衣擦れの音と共に、害獣屋は言った





「後悔と……償いかな 自己満足だけどね」


その言葉はあっけらかんとはしていたけど、少しだけ悲しそうな響きを含んでいた―――




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