表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

405/413

405.リンファは休み、少女は帰る

ゴブリンからの追撃はなかった


五感に優れ森に詳しく連携を得意とするゴブリンが目くらましの砂煙程度で獲物を逃す……

それすらも自分の知っているゴブリンとは違う事をリンファは感じざるを得なかった




「あの子たち……ちゃんと逃げられたかな」



リンファは川の傍の森の茂みに身を潜め、横たえながら呟く

その言葉に応えるように左手に装備したグローブの魔鉱石が今にも消えそうな小さな光を明滅させる



「ごめんねピスティルさん、ちゃんとトランクさんは返してもらうからね」


魔鉱石は何度か明滅した後、眠るようにその光を沈黙させる

もうピスティルの魔鉱石は自然回復がほとんどできず、水の一滴も生むことはできない


リンファは左手の魔鉱石を見つめた後、辺りの風景を改めて見渡す


赤黒く勢いをなくしつつある樹々の葉

潤いをなくし乾いて砂と変わりつつある地面


流れる川も濁り、その水量も川底が見えるくらいに少ない

水量が減って孤立してしまった魚が腹を浮かせ、動くことを諦めていた



そして空は厚い黒い雲に覆われ、日中だというのに常に薄暗い……



「世界が……死にかけてる…… いや違う、殺されかけてるのか」



枯れつつある草木に体を倒し、リンファは休息を取る

やらなければいけない事はたくさんある、目を閉じてもそれらが頭を容赦なく巡り続ける




王都へ向かうとして、まずここがどこかがまだ正確にわからない

尋ねようにも人間に会えばほぼ戦いになる

話を聞いてくれる人が居たとして、そこをフロード……自分と同じ顔をした敵に襲われる可能性は高い



長期的な移動をするにしても、体力の問題はどうする

屋根のある場所で休むことはほぼ不可能


食料の確保どころか水の確保すらもこの森の有様では多くは望めない

下手に死んでいる魚でも摂取すれば、今の弱った自分の体では重篤な食中毒を引き起こすかもしれない


この森を出たとしてどこを目指すか?

人里を訪ねるわけにはいかないし、ゴブリンの集落だってどうなっているかわからない

そもそも人やゴブリンの里を探す術をリンファは持ち合わせていない


なんとか国が作った街道に出られれば地理を示す看板や杭などが見つかるかもしれない

そうすれば王都への方角は理解できるはずだが、人に見つかる可能性も高い



わざと捕まる? その場で殺されるのがオチだ



食べ物と水を確保しながらこの森を脱出して、人間に見つからないように街道に出て、首尾よく王都への道を見つける……

王都への道を見つけて終わりじゃない、そこからが始まりなんだ


そこから人間やゴブリンと接触しないように隠れながら何日移動することになるのか想像もつかない




こういう時、地理に明るく社会適応の高いアグライアさんならなんなく街道を見つけ移動できるだろう

グリフさんなら持ち前の人懐っこさと社交性の高さで情報を収集し、食料や水すらも手に入れてしまうだろう

ガルドなら魔力と魔法を駆使してここからでもあっという間に王都にたどり着くだろう

リーフなら空を見て位置を把握し、五感と体力、そしてその強さで森から森に移動していくだろう




閉じていた眼を開けて、小さく息を漏らす


「僕はなんにもできないな……」


そういいながらリンファは左手の拳を小さく握り込む

皆の事が心配だ、先生を失ったことが悲しい

何もできていない自分が情けない


疲れた体は動かないのに、脳味噌はフル稼働で動き続ける

思考がオーバーロードして休むことを許さない



リンファは止まらない思考を無理に抑え込むことを止めて小さく深呼吸をする


『どうせ止まらないなら、できる事を考えよう』


そう思いリンファは再び目を閉じて思考の波に心を任せる


無くした右手の痛みが少しだけ響く

残った拳は、強く握りしめることができる


先生から教えてもらった技をちゃんと覚えてる


取れるかどうかは別として、森での食料の取り方は覚えてる

人間の言葉を話せるし読める、ゴブリンの言葉も話せる



リンファはもっとシンプルに考える



歩くこともできる、考えることもできる

休むこともできる、少し休めば今よりましになる


そして……



『もう一度戦うことが、できる』



荒れる思考の波に沈みながら、リンファはやっと意識を途切れさせ


わずかな眠りにたどり着いた―――









――――――――――――――――――――――



「馬鹿ッ! なんで二人で森になんて行ったの!?」


母親が帰ってきた姉妹の首にしがみつく様に抱き着き、大きな声をあげて泣いた

妹は母親を見て安堵したのか、母親以上の大声を上げて声にならない声で喉を枯らしながら泣きじゃくった



「ご、ごめんなさい…… 木の実と……魚くらいは採れるかなって……採らなきゃって思って……!」


「そんなこと考えなくていいんだよ! 危ないことして! 馬鹿!馬鹿!うわああああ!!」


母親は姉の体を押しつぶすほどの勢いできつく抱きしめる



つい先日、謎の天災で父親と共に多くの村人が死んだ

さらにゴブリンハーフと呼ばれた不気味な生き物がひっきりなしに村を襲い、更に狂暴化したゴブリンが森を徘徊し人を襲う

こういう時頼りになるはずの王都からの援助はなく、まともに連絡すらつかない……

つい昨日まで平和だったはずの生活が、恐怖と絶望にのみこまれた



そんな時、姉妹は山に勝手に向かい行方が分からなくなっていたが、無事帰ってきてくれた

たった数日で世界が一変し不安と恐怖しかなかったその村にとって、姉妹が無事帰って来た事は数少ない吉報だったのだ




母親は我を忘れたかのように泣き続け、姉妹もそれを見て泣く

それをみた周りの村人たちは山狩りに使っていた武器や農具などを肩から降ろし、少しだけ安堵の表情を見せた



「無事でよかったなぁ…… ウチの爺さんは森に入ったまま帰ってこない、多分もう……」


「作物も枯れて商人の往来も途絶えてるからな……保存してる食糧が尽きる前に何とかしないと分かっているんだが、森は危険すぎる……」



安堵の顔はあっという間に不安に押しつぶされ、村の人間はその顔に影を落とした


誰も森に入った姉妹の事を心から叱ることはできなかった

だってそうしなければ近い将来村は餓死で全滅してしまうだろうから




「また森に食料を調達するチームを組まなきゃな……」


「前のチームは……帰ってこなかったけどな……」


話せば話すほどに村人の心が重くなり、深いため息が止まらない

長く付き合ってきた村人の安否を気遣う余裕も死を弔う暇すらもままならない



そんな状況に村人たちの心は擦り切れ、疲弊していた

だから姉妹は少しでも助けになろうと、我が身を省みず無謀な採集に赴いた


その結果は散々で、木の実の一つもまともに持ち帰れなかった



母親の泣きじゃくる声を聞きながら、姉のアルテアはぎゅっと右手を握りこむ


その手に不思議な感触が伝わる


「あっ……このグローブ……」


無我夢中に逃げ帰って来たから、今の今まで忘れていた

あの時誰かが渡してくれた魔鉱石が飾られたグローブ



ボロボロのそのグローブはなんだか優しい手触りで、どこか暖かい

魔鉱石は輝きをなくしていたが、それもとても美しかった




アルテアはそのグローブをそっとポケットにしまう


そして少しだけ思い出す


あの時見た、傷だらけの背中を

迫るゴブリンの壁となった、緑色のその背中を―――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ