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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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401/413

401.追い詰められていく兄弟

夜目が効くゴブリンハーフと言っても、その力はゴブリンには及ばない


リーフの目には真昼の如く見える道も、リンファの目には夕闇の黄昏時の様

ましてや血を失いすぎたリンファの目には、走りながら進むその道の凹凸を視るなど到底困難な状態であった



リーフが易々と超えた枝葉に足を取られ、リンファは激しく転倒する

全速力のまま転がったリンファの体中には緑の血が至る所に滲み、皮膚には擦過傷が刻まれた



「リンファ! 大丈夫か!」


倒れたリンファに手を差し伸べるリーフの耳に人間の足音が響く


「先行してる奴に追いつかれる……! させるか!」


リーフは手に持っていた石を振りかぶり、暗闇の奥から近づく松明の光に向かって一直線に投げ放つ

だがその石はリーフの手から離れた瞬間に何かに弾かれ、砕け散った



「ダメだ……! 人間を傷付けるんじゃあ……ない……!」


体中をすり傷だらけにしながら即座に立ち上がり、リーフの投げた石を左拳にて弾き飛ばした

弾いた瞬間鈍い音が響き、リンファの拳から血が流れる


だがリンファはそんな拳にたじろぎもせずにすぐに体を傾け一気に走り出す

傍を駆け抜けていくリンファと迫る人間の方にわずかの間視線を向けると険しい顔でリーフもまた走り出した





「何も殺すわけじゃない! 数人怪我をさせて足止めをするだけだ!」


「リーフの狙いが正確でも……人間がどう動くかわからない……こんな状況で骨折でもしたら怪我した人が生きてここから帰れなくなるかもしれないだろ……」


「ば、馬鹿野郎! お前の命を狙ってる奴の心配なんてしてる場合か!」



怒るリーフにリンファは少し困った顔で笑い、言った


「ゴブリンや人の命を心配しなくていい場合なんて……多分ないよ」


「お、お前……!」



こんな状況でも他者の命を思いやるリンファの所作にリーフは言葉にならない苛立ちを感じずにはいられなかった

それを言葉にしてリンファにどう伝えていいか必死に考えたが、それを形にはできない


その考えをかき消すように迫る人間の怒号に押されるように、リーフは走る事に集中せざるを得なくなった



「人間の癖に速い……! この辺りの地形を熟知しているようだな……振り切れん!」


「ま、参ったな……、どこかに隠れる場所があればいいんだけど」


「見つからない場所があれば隠れるのもいいが……闇夜でゴブリンを追い立てられるくらいこの場所を把握している連中にそれは難しいかもしれん……!」


「じゃあ……」


「二手に分かれるというのなしだ、絶対に許さん」



喋りだそうとするリンファの機先を制するようにリーフが言葉を重ねる


「で、でもこの状況なら……」


「お前は二手に分かれたらさっきのように自分を囮にして私を逃がすつもりだろう? お前の体力と怪我の状況で足止めしたうえで逃げるなど絶対に無理だ させるわけにはいかんな」


「ま、参ったな……お見通しか…… さすが……」



さすが兄さん、そう言いかけてリンファは言葉を止めた

なんだか今はそれを口にしたくはなかったから……


それが気後れなのか気恥しさからなのかは、リンファには正直分からなかった





「……ま、待て!まずい! 川の音だ……!」



リーフが突如目を見開きリンファを止める

立ち止ると共に爪先に当たった石が前方に転がり、そのまま漆黒の闇の谷底に消えていった



「走る音と人間の声に気を取られて気づかなかった……! なんてミスだ……!」


「け、結構深いな……川自体も結構大きそうだ……」


4,5メートルはありそうな崖の底には、暗くて正確には測れないが大きな川が流れている

水音はそれほどでもないから勢いはそこまでなさそうではあったが、それ故に気づくのが二人は遅れてしまったのだ



「いたぞ!ゴブリンハーフだ! ゴブリンもいやがる! 皆急げ!」


立ち止り逡巡するわずかな時間すらも叶わず、村人がリンファ達を発見し仲間を呼び始める

その声に気付いた村人たちは慌てた様子で次々と追い詰められたリンファを囲み始めた




「このままじゃ逃げ場がなくなる! ここは僕が足止めするから!」


「足止めなどできるような状況か! 諦めろリンファ……人間は私が撃退する、可能な限りは命は取らん」


「可能な限りじゃ……ダメなんだよ!」



「諦めろ! 全て望み通りになどできるわけがないんだ!」







「ゴブリンハーフを囲め! 逃げ場をなくすんだ!!」



「く、クソッタレ……! 手際が良すぎる……!」





リンファとリーフは瞬く間に囲まれ、逃げ場をなくす


十数人はいるであろう人間の手には使い込まれた農具や古びた槍や弓矢が装備され、使い込まれた様子が見て取れる

その武器には緑の血の跡が夥しく残っており、これまでどれだけのフロード……リンファと同じ顔をした存在を殺してきたのか想像もつかなかった





「みんな、いつも通りだ……一気に行くぞ!」


まとめ役とみられる男が全員に短く号令を発し、他の人間は迷うことなくその指示を理解する


多くの犠牲を出して身に着けたであろう熟練のフロード狩りは、容赦なくリンファ達を追い詰めた





わずかに後ずさるが、リンファの背中に冷たく噴き上がる風が無情に当たる

わずかでも下がれば奈落にまで続いていそうな崖があるのが振り向かなくてもわかるほどにその肌に感じられた




「中央少し右の弓矢をつがえてる奴を無力化する、私の後に続け」


「だ、ダメだ! 絶対にダメだ……!」


「悪いがお前の願いは聞いてやれん、私もお前も死ぬわけには行かないだろう……!」



リーフが狙いを定め、わずかにその肩を向ける

弓を引き絞る男に気取られぬよう、足先に力を込めていつでも踏み出す準備を固めた





お互いがジリジリとにらみ合いながら、その間合いを狭めていく

そしてそんな無言の緊張がわずかに続き……



「未だ! 殺せー!」


しびれを切らせたまとめ役の村人が号令を発し、一気に攻撃を仕掛ける

リーフはその瞬間を見切って狙いを仕留める為に踏み込もうとしたが……



「リーフ……ごめん!」


その瞬間、リンファがリーフに体当たりをしてその踏み込みを制する



「ば、馬鹿野郎!!!」


リーフが叫び、村人が襲い掛かってくる


リンファは体当たりの勢いを殺さず加速をかけて……





リーフと共に、先すらも見えない深い崖下の川に転落していった――――




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