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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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400/414

400.冴えたやり方なんて

突然の命乞いの叫びに驚いたアグライアは思わず足を止め振り返った

その一瞬の隙をついて、グリフはひったくるようにアグライアの手を掴んで迫る群衆に向かって走る


そして先ほど同じように情けなく、そして大声で叫び続けた


「助けてくれ! 殺される! ゴブリンハーフに襲われてるんだぁぁ!!」


「な!? 何を言っているグリフ! 黙れ!止まれ! とま……!」


アグライアがその声に逆らうように足を止まろうとするが、グリフは止まらない

その手に抵抗しようともがくアグライア


その時、アグライアの進行方向から襲い掛かってきたフロードが吹き飛ばされる

そして、アグライア達の逆の方向に向かって風が吹く


その風を纏うは……リンファ



リンファはリーフの体を片手で抑え込むとそのまま風の様に迫る群衆に向かって背中を向けて逃げ去っていく!


「り、リンファ! 待って! 私も……私も行く!!離せ、離せグリフ!離してくれ!」





アグライアの叫びにリンファは振り返り、唇を少しだけ動かして……笑顔を見せた



そしてすぐさま前を向き、漆黒の闇に消える

駆ける脚はあまりに速く、まるで底なし沼に沈む様にリンファはその闇に溶けていった





アグライアがリンファの名前を叫び、手を伸ばす


「この手を……この手を離せぇ! 離せぇぇぇ!」


怒りの形相でその手を引き離そうとするアグライアの頬に衝撃が走る

群衆の騒音を切り裂くような乾いた破裂音が響き、その美しい頬に熱い痛みが響いた



グリフの平手がアグライアの頬を捉え、美しい金髪を大きく揺らす


一瞬呆気にとられたアグライアが即座に怒りの顔に変わろうとしたが、グリフの目を見てそれは霧散する



グリフは見せたこともない怒りと覚悟の目でアグライアを睨みつけていた

その顔を見て足を停めてしまったアグライアの傍を村人たちが駆け抜けていく



殺気とはまるで違う、まるで台風の様な粗暴で敵意に溢れた風がアグライア達の傍を抜けていき、その殺意はリンファの足跡を追っていった




「なんで……なんでだ!?グリフ! 私はアイツの傍に……!」


その言葉を遮るようにグリフがアグライアの口を手で塞ぐ

アグライアの顔に触れるグリフの手は熱く、そして震えていた


「リンファの仲間だってバレたらお終いなんだよ! なんでわかんないんだよ……アグライアさん……!」


グリフがその口を塞いだまま、群衆の後続に手を振り声をかける



「おぉーい! 助かったよ! 王都から命からがら逃げてる最中にあの不気味な顔のゴブリンハーフもどきに襲われちまって……ありがとう!」


わざとらしく情けない声を上げるグリフに、群衆の後方を走ってきた村の男たちが手を振って答えてくれた





アグライアはグリフの手を振りほどき何かを言おうとするが、グリフがそうはさせじとアグライアの頬をもう一度平手で殴りつける

何の手加減もない、力の籠った平手にアグライアはよろけて倒れた



「リンファはオイラ達を助けるために囮になったんだよ……! 自分が狙われてるのがわかってるから! オイラやアグライアさんやロベリーが巻き込まれないように! わかってんだろ! わかれよ!」


「そんなの……そんなのダメだ……ダメなんだ! リンファが殺されてしまう……!あの子は人間なんて殺せない……!」


殴られた頬を押さえながらアグライアが瞳を揺らす

理解しているけど、理解したくない



「アイツは自分のせいでオイラ達が殺される方が何倍も辛いんだよ……!」


「他に……他にもっといい方法があったはずだ……!」


「それが見つからなかったから……アイツは一番危ない方法を取ってくれたんだよ! そういう奴だって……わかってんだろ!」


グリフはアグライアから視線を背け、ロベリーを見る

そして怯えきって震えるしかなかったロベリーの手を強く握り、その頭を優しく撫でてやった



けれど優しく撫でようとするその手は止めることができないほどに震え、グリフの目から大粒の涙が零れだす



「オイラには今のやり方以外に冴えたやり方なんて思い浮かばなかったんだよ……! ごめんよ……!」




誰に憚ることもなく涙を流すグリフを前にロベリーが不思議な顔をして見つめる

何が起こったのかはわからなかったけど、グリフの助けの呼ぶ声がただ事でないことは何となく理解できた




幼子が見てわかるほどにグリフの顔は悲しみでグシャグシャになっていた



アグライアはそんなグリフに何も言えなくなり、ただ茫然と頭を抱えて立ち尽くす

グリフと違って涙は出ていない……というよりも涙の流し方すら忘れてしまった様な顔だった



アグライアはもう一度リンファが駆けていった方角に目をやり、わずかに体を震わせる

その先は真っ暗な森、はるか先に村人たちの松明らしき灯りがボンヤリはるか遠くにと浮かぶだけで、リンファ姿はもう見えない


わずかに動く足、けれどその足を何かが引っ張る幻覚が襲う


振り返るアグライアの視界にはグリフの手を握ったまま不安そうに立ち尽くすロベリーの姿が映る

そしてその傍に、リンファの影が見える





リンファが腕を失う大けがを負ってまで命がけで守った少女がそこにいる

そこまでして守った少女と自分達を守る為に、一番危険な選択肢をリンファは選んだのだ




アグライアは目を強く結び、血がにじむほどに歯をくいしばった

そしてわずか数秒ほど沈黙した後



「グリフ、ありがとう 村人にロベリーちゃんをまずは保護してもらおう」


「アグライアさん……」


「村に着いたらなんとかして飛翔島に連絡を取ろう、できなければエタノー領だ……とにかくなんとか状況を確認するんだ」




アグライアはそっとロベリ―の前にしゃがみこみ、視線をあわせる

キョトンとしたその少女は体中をすり傷だらけにして、ボロボロの首だけのウサギの人形を握りしめていた


「直してあげないと……いけないな、服も用意しなきゃ」


「え……?」


優しい声で語り掛けてくるアグライアの顔を少女が見つめる



「ウサギ君……そのままだと痛いだろうからさ、ちゃんと直してあげようね」


「う……うん!」


「ロベリーちゃんも傷を治せる暖かい場所に連れてってあげるから、そこでゆっくり休ませてあげるからね」



その言葉に今まで見せたことないわずかな笑顔を浮かべるロベリー

その顔を見たアグライアは下を向き、ロベリーに見せないように涙を流した





『必ず助けに行く……! 待ってろリンファ!』


アグライアは地面を睨みつけたまま拳を固く握りしめる

夜の森に人間の怒号と叫びが響き、闇にその音は吸い込まれていく


アグライアはその声をただ聞くことしか……できなかった







リンファはアグライア達を信じて、深い闇の先へただ必死に走り続ける――――





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