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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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398/415

398.心ある者にとって最悪の敵

襲い掛かるフロードは不気味だった


「何が目的なんだ……! 何だというのだこいつらは!?」


アグライアが迫るフロードを必死に払いながら思わず叫ぶ

リンファの顔をした存在が感情もなくただ危害を加えようと向かってくることに辟易していたが、それ以上の不気味さを感じずにはいられなかったからだ


フロードの手を振り払い、剣の峰で打つ

相手がモンスターやゴブリンであれば何の痛痒の与えられないような軽い一撃


だがそんな一撃でフロードは地面に転がり、無表情にうめき声をあげる

死ぬことはない、だがその苦痛に喘ぐ声はアグライアの罪悪感を締め付けた



「なんで……なんで襲い掛かってくるんだ! その姿で……その力で!」


構える事も忘れて叫ぶアグライアの眼前にフロードが飛び掛かる

その一瞬の隙をつかれたアグライアの喉元に鋭い爪が突き刺さろうとするが


その瞬間、まるで蒸発でもしたかのようにフロードが明後日の方向に急激に吹き飛ばされ地面に激突した


「だ、大丈夫ですか!? アグライアさん!?」


間一髪でリンファがアグライアの前に割って入り、フロードの顔面に拳にて撃ち抜いた

アグライアは一瞬何が起こったのかわからない表情を浮かべた後



「り、リンファ……リンファだよな……!? すまない……たすかった……」


それがリンファだと理解できたアグライアは、小さく安堵のため息を漏らしながら礼の言葉を口にした





フロードは決して強くなかった



人間ほど知性が高いわけでもなく、ゴブリンほど身体能力が高いわけでもない

それぞれが連携を取ってくるでもなく、魔法や特殊能力を持っているわけでもない


その鋭い爪や牙は確かに人間の皮膚を裂き肉を貫くが、それを生かした動きを得意としているわけでもない



その殺意を伴う行動に躊躇がないだけの一般人程度の力


感情は一部を除き見せることはない

だが、その一部が最悪だった



傷や痛みを伴う時だけ、感情の籠ったうめき声を漏らす

その声はとても被虐的で、心あるものであれば耳を背けたくなるような悲鳴……




アグライアなどはその声が耳にへばりつき、剣を構えるのも苦痛に変わっていた



「アグライアさん……グリフさんと固まってロベリーちゃんを守ってください、敵の目的は僕だ」


「そ、そんなわけに行くか……! お前はもうボロボロなんだ! ここは私が……」




そういいかける耳にフロードの悲鳴が飛び込み、アグライアは思わず肩を震わせる

その叫ぶ声はあまりにリンファと同じ声で、わかっていても反応せずにはいられなかった






「あの女はお前の苦しむ顔を見る為ならこういう小細工に労を惜しまないのさ……!」


リーフはフロードの顔面を殴った拳についた緑の血を地面に振り払う

殴られた地面に倒れ込んだフロードは情けなく涙声を出しながら肩を震わせる


その姿があまりにリンファと瓜二つで、リーフは眉を潜め唇を噛んだ




「魔法に弱いのはわかってるんだけど、使えねぇ……! つかえるわけねぇよ……!」


フロードを前にグリフが半泣きで訴える


そういうグリフの視界にはついさっき魔法を使ってしまった結果、木炭の様に黒焦げになってしまったフロードが横たわり心を抉る

その黒焦げの体はわずかに痙攣し、小さなうめき声まであげるから始末に悪い



その魔法耐性の弱さは下手をすればリンファより低く、アグライアのセイクリッドチェーンが絡むだけでその身を激しく痙攣させながら醜く肌を焼く

魔法での拘束すら敵わないその脆弱性が、今のアグライア達にとっては何よりも厄介な障壁となっていた




「アグライアさん、グリフさん……下がって だから僕がやる 僕なら大丈夫だから」


リンファはふらつく足を隠すように進み、フロードの前に立つ

自分の同じ顔が無表情で自分を見つめる姿に吐き気すら感じてしまう


その目は丸く輝き、あまりにイノセントな青さを秘めていた




鎧袖一触で討ち払える程度の強さ

殺意はあるが、敵意の感情はほぼ見せない


魔法にも弱く、身体能力も低い

だが痛みと苦しみには過剰に反応を示す




そしてその顔は、大事な存在の顔と瓜二つ



心があれば、優しくあればあるほど倒すことが困難な相手


これまでにない最悪の相手とリンファ達は対峙していた



だが……





「辛ければ目を伏せろ、耳を塞げ」


その言葉と同時にフロードの首がねじ切れ吹き飛ぶ

地面に転がってもなお口をパクつかせながら泣き顔を向けようとする頭部を緑の足が踏み潰した



そのあまりの残酷な光景にグリフはロベリーを体全てで隠すように覆いながら、自らも目を伏せた




緑の血に染まったその足で敢え残骸ごと地面を踏みしめるリーフは言った



「こいつらは私とリンファで相手をするから、君等は早くここから離れるんだ」


「ど、どういうことだ!? 私たちも戦う! リンファを置いていけるわけがないだろう!」


「わからないのか!? こいつらがいるという事は君等人間にとってもっとまずいものを引き寄せるんだぞ!」



アグライアの言葉に思わずリーフが声を荒げる

リーフは汗を浮かべながら辺りを伺う


そして何かに気付いたリーフが慌てて全員に叫んだ


「まずい……! みんな森の奥に逃げろ! ここは私が引き受けるから!早く!」


「な、なんだというんだ!? 援軍が来ているとでもいうのか!?」




「ち、違う……! リーフの言う通りだ、アグライアさん!グリフさん! ロベリーちゃんを連れて逃げて! この状況を見つかるのはまずい!」


リーフの言葉に続く様にリンファが何かに気付き、慌ててアグライアに叫ぶ


リンファとリーフは気づいてしまった

フロードが襲い掛かってきた本当の目的を……



そしてそれに気づいた時、リンファは母親への嫌悪を感じずにはいられなかった




フロードという撒き餌に気付いた集団が、篝火を上げて足音を踏み鳴らす


ゴッデスが演出し観覧する悪夢の喜劇は、ここからが本番だった―――――――




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