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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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26.二人

アグライアとファルネウスが話をしていた頃、リンファはルカに連れられて交易区にやってきていた

「す、すごい……どこからこんなに人が来たの……!?」

リンファはその膨大な人の数に思わず眩暈を覚える

人の川、人の森、人人人―――

石畳の道の先が霞んでいそうな錯覚を受けるほどの長い拾い通りに、大小さまざまな屋台などが所せましとぎっしりと展開されている



「ここが飛翔島の市場のメインストリート、天空市場でございます 人が多いですのでお気を付けて」

「あの、顔を何かで隠したほうがいいのでは……?」

「いえ、問題ございません 辺りをごらんください」

その往来にはリンファが見たこともない人々が行きかっている

角を生やした人や、ファルネウスの様な獣人、肌の色も白かったり赤かったり、緑の人もいた

「す、すごい……!」

「ここは世界のあらゆる人が交わる街、天空宰相が定めし決まり事を守っていただけるなら全てがお客様でございます」



そういうと、ルカはスッとリンファに手を差し出す

「差し出がましい申し出で恐縮ですが、よろしければお手を引かせてください」

「あ、はい! ありがとうございます」

差し出された手を少しだけつまむように持つリンファの手を確認し、ゆっくりとルカは歩き出した


「この市場では食品、装飾、衣類、武器防具、そして魔具など様々なものの取扱いが許可されています」

屋台から鼻腔をくすぐる甘いやガツンと殴りつけるような香辛料の匂いがそこら中から漂う

「すごく美味しそうな匂いがする……!美味しそうなんだけど知らない匂いばかりです」

「この辺りは砂漠の民の屋台が多いからその影響でしょうね、彼らは元々有毒な砂漠の獣の肉を食用にするため薬効のある香辛料を用いる民でしたから」


「へぇ……あ!あれすごい!雲が棒に刺さってます!あれも食べものなんですか?」

「あれは飴畑の民の名産、雲菓子ですね、私も詳しくは存じ上げませんが甘味の砂を熱するのだとか」


色々なところをきょろきょろとせわしなく口を開けて視線を向けるリンファの手を握りながら、ルカが屋台から何かを買ってリンファに渡す

「おぉ……でっかいお肉だ……!」

「この辺りで飼育されている家畜猪と穀物の串焼きです、いきなり他国の物を口にしてお体に合わなかったらいけませんので」

「ありがとうございます!いただきます!」

無邪気にほおばるリンファを少しだけ楽しそうに見つめるルカ

『こうしてみてると普通の子どもなのですが、人というのは残酷なものですね』

と、声に出さずに呟いた



その時往来の向こうから怒号と悲鳴が響きわたる


「ご、ごめんなさい……そんなつもりじゃなかったんです ただそのお菓子を売ってほしくて……」

「ふざけんなよ!その汚い毛だらけの手で食い物触られたら商品がダメになっちまうだろうが!」


屋台を挟んで巨大な角を生やした大男と、リンファを一回り小さくしたくらいの両手に長い毛皮を持つ緑の肌の子どもが言い合っている

いや、言い合っているというよりも大男が一方的にその緑の肌の子どもに怒鳴り倒しているようだ


「そんな……ただ商品を手に取っただけじゃないですか!」

「うるせぇぞ緑人が! 鉱石採掘の帰りでどこ触ったかわからねぇ汚いお前らに売る菓子なんてねぇんだよ!」

「なんだと!そんな言い方ないじゃないか!こっちはお客だぞ!」


その騒ぎを聞きつけてやじ馬が集まり、更に騒ぎが大きくなっていく

そのやじ馬の後ろで何があったのかとリンファとルカも近づく


「何があったんだろう……あの小さい子すごく怒られている……」

「どうやら商品のやりとりについてのトラブルのようですね、自警団が間もなく到着するはずなので巻き込まれないようにしましょう」

「助けてあげちゃダメですか?」

「そのお優しい気持ちは素晴らしいと思いますが、この場合どちらに非があるのかを自警団を通して審らかにしないとかえって騒ぎが深刻化します」

「そ、そういうものなんですね……」


その言い合いはヒートアップしてしまい、角を生やした大男の仲間がその緑の肌の子どもの前に仁王立ちし、睨みつけるように見下ろし始めた

緑の肌の子は兄弟であろう小さな子の手を強く握り、その子の前にかばうように立っている


「お、おれは弟が今日誕生日だったから雲菓子を買ってやりたかっただけなんだ!ちゃんとお金も持ってきてる!」

「こんなボロボロで薄汚ぇ小銭で売るわけねぇだろうが! てめぇらの区域で売ってるカビたパンがせいぜいお似合いだぜ!」

大男が腹から大きな声を荒げると、弟がその小さな手で兄の手を強く握り、わんわんと泣き出す



「あんな言い方……ひどい!」

「手をだされませんように、ここはあらゆる人が交わる街……その諍いがどんな種族同志の争いを呼ぶかわかりません」

ルカは少しだけ強くリンファの手を握り返す

「この争いとて、根っこを探ればかつての種族同士の禍根が発端になっていることなど、よくあること…だからここでは自警団以外の第三者の争いの介入を禁じております」

「う、うぅ……」





「わかったよ!もうそんな菓子なんているもんか!」

「なんだぁその言い方は?こちとらてめぇら薄汚ぇ緑の肌に商品ダメにされてんだ! 頭ついて謝るのがスジだろうが!」

「なんでだよ!」

「てめぇら緑の肌の連中は存在がおぞましいんだよ!ゴブリンみてぇな風体しやがって!」



「どうせお前らも他の種族の女攫ってんだろうが! お前の母ちゃんには尻尾でも生えてんだろ?あぁん!?」




その一言に奥歯がきしみ、リンファの目が鋭くなる

「ごめんなさい、ルカさん 行ってきます」

「なりません!」

ルカの言葉とリンファが走り出す瞬間はほぼ同時だった






「お、おれらの母ちゃんは俺らと同じだったって聞いてるぞ!きいて・・るもん……!」

「なんだ?母親の顔も見たことないのか!やっぱりゴブリンと一緒じゃねぇか!」

大男がその子の肩を強く握りこむ

「い、いたいいい……」

「さっさと謝れ、このクソガキがぁ!」


怒りに身を任せた角がついた大男が拳を振りかざす!

身を強張らせる兄弟!


その間に二人の影が割って入り、一人は大男の拳を払い、もう一人は長い刃の切っ先を大男の眉間にぴたりと付けた


「やめろぉ!」

「やめていただこう」


その二人が大男をほぼ同時に制し、ほぼ同時に口をひらく


「だ、だれだてめぇら!?」大男が動きを止められたまま情けなく叫ぶ

「僕は」「私は」

またも同じタイミングでしゃべろうとして言葉がバッティングしてしまい、お互い目を合わせてしまう


「……お、お先にどうぞ」掌を向けて促すリンファ

「これはどうもご丁寧に」刃物の切っ先を一切揺らさず頭を下げるその人物


「リーフ兄ちゃん!」兄弟がその人物が何者か気づき、歓喜の声を上げる


「角牙の民の方、同胞に不躾な点があったことはこの者の身内の一人として詫びよう、だが今の言いようとこの暴力は看過できない」

「なんだぁてめぇら!こいつらの仲間か!?」

「できれば穏便に済ませたい、争いはごめん被る」

「人に刃を向けといていうセリフじゃねえなぁ……!あぁコラァ!?」


大男が肩から手を離すとその刃物を腕に張り付いた鱗の様な皮膚で払いながら殴り掛かる!

その拳をリンファはいなし、大男を足元からひっくり返した


「いってぇ……!てめぇ……!」

「僕はリンファ!通りすがりだ! でも今のいい方は許せない、その子に謝ってください!」

「赤の他人がしゃしゃってんじゃねぇぞ!……って、てめぇもよく見たらうすぎたねぇ緑色の肌してるじゃねぇか!」




角牙の民と呼ばれた種族がその騒ぎを聞きつけてさらにゾロゾロと集まってくる

その手には角材、調理用のナタみたいな包丁、ハンマーなど……

全員が血気盛んに怒りの表情を向けてくる

「なんだぁこのガキども……俺らをなめやがって……!」



「君たち、人ごみに紛れて逃げるんだ!怪我しないようにね」

リンファはその兄弟の前に立つと、逃げるように促す


「緑肌風情が調子に乗りやがって……ぶっ殺してやる……」

殺気をはらんだ空気が、二人を囲んでいく



「すいません、あとは僕がやりますからあなたも逃げてください!」

「その様な訳にはいかない、これはもともと身内が引き起こしたトラブルだ 君こそ逃げるがいい」

「いえ!自分で蒔いた種です!」


リンファがそういいながら拳を固め、腰を低く構える


「では、一緒に戦わせていただいてもよいかな」


その男も長い刃を正眼に構える


「ありがとうございます、僕はリンファと言います」

「なるほど、良い名前だ 私は……」



「私はリーフ、リーフ=オルネストと言う」



その名乗りに一瞬虚を突かれ、戦闘が始まる寸前にも関わらずリンファはリーフの横顔を見つめる


長い髪、緑の皮膚、尖った爪と牙、鋭い眼光、長い耳


なによりその首元には、見慣れた青いバンダナが颯爽と巻かれていた――





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