27.二人で
「生意気な緑肌のガキが!てめぇらやっちまえ!」
その号令を皮切りに数人の角を生やした大男が襲い掛かる
考えるもなく襲い掛かってくる連中の突進に、慌てながら戦闘態勢を整えるリンファ
殴りかかる拳を左手を払うと、リンファに想像のしていない痛みが走った!
「痛ッ! 腕に鱗!?」
「うすぎたねぇ緑肌の貧弱な腕で防げるわけねぇだろ、へし折ってやらぁ!」
刃物すら弾く頑強な鱗が生えたその腕を振り上げ、再度拳を振り上げ殴りかかる!
「肌の色と貧弱さは……!」
リンファはその殴りかかる腕の鱗が生えていない肘に自らの手首を当て軌道を逸らす
「関係ないでしょうがぁ!」
さらにその手首を起点にして脇腹に肘打ちを叩き込む!
【八極剛拳 頂肘・貫】
大ぶりで踏み込んできた大男の脇腹に、リンファの鋭い肘がねじりこまれ、たまらず男は反吐を吐く
「魔導発勁したら死んじゃうかもしれないから、手加減しときます!」
そのままぐったりする男の手を取り足を絡めてできるだけ怪我をさせないように地面に引き倒す
「ほう……! いなしを使えるのか」
戦闘中の最中にも関わらず、その手際の良さに驚きの声をあげるリーフ
それを隙だと捕らえた大男が包丁を横なぎに払ってくる
「大ぶりすぎるな」
リーフはその包丁を半歩を身を引いてよけると、大男の開いた腕の内肘を持っている刀の峰で打ち下ろす!
「ぐおぉ!」
激痛に体制を崩す男の眉間を、更に柄頭で強打し昏倒させるリーフ
その柄頭をそのまま上空に持ち上げ、後ろから振り下ろしてきた別の男の角材を切断し、振り向きながら袈裟懸けに斬り下ろす!
鈍い音がして大男の鎖骨がメコリと凹み、たまらず昏倒する
「急に来ないでくれ、峰打ちするかどうか悩んでしまった」
息一つ乱さず残心を取り、次の相手を見定めるリーフ
「すごい……あんな長い武器を自由自在な間合いで使いこなしてる……!」
「よそ見してんじゃねぇぞテメェこらぁ!」
死角から襲い掛かってくる大男だったが、リンファは焦りもせず体を入替え相手の足を引っかけてバランスを崩す
「生憎よそ見はしてません!」
慌てて立とうと背中を丸見えにしている大男の広背筋に、双掌打を叩き込む!
男はバランスを整えらずそのまま自身の経営する屋台に頭から突っ込んだ!
「あっ!ご、ごめんなさい! あとで弁償します!」
「その弁償代、私も半分出そう」
リーフがそういいながら大男を組打ちにて投げ飛ばすと
頭から突っ込んだ男の背中に、更にもう一人が吹き飛んで突っ込み屋台が全壊した!
全壊になった木材の隙間から雲菓子が本当の雲の様に空に飛んでいく
「わぁ、あのお菓子本当に雲みたいだ」
「こんな粗忽な連中が作るとは思えないくらい繊細で絶品な菓子だ、機会があればご馳走したいな」
大男が次々となぎ倒されていくその様子に、やじ馬も歓声を上げる
そのやじ馬の中に、逃げたはずの兄弟も紛れ込み一緒になって騒ぎ立てる
「いいぞー!リーフ兄ちゃん!助けてくれたお兄ちゃんー!」
しかしモクモクと立ち上る土煙の奥から、影がうごめきキラリと何かが反射する
「こ、このクソガキ共……死ねやぁ!」
屋台に突っ込んでいた大男が頭を抱えながら、手に持っていた包丁を投げようと振りかぶっていたのだ!
「あ、危ない!」
リンファは言うが早いか、箭疾歩でその大男を殴りつけるが、タイミングが間に合わず包丁は男の手を離れてしまう!
コントロールを失った勢いのついた包丁は、まっすぐ兄弟の方向に飛んでいく!
「なんで!?逃げなかったのか!?」
兄が弟をかばうように向けた背中に、包丁の軌道が重なる!
まさにその柔らかい背中に突き刺さらんとするその瞬間、その包丁はまるで時間が止まったかのように空中で固まる
チャキン と乾いた金属が重なる音と同時にその包丁が十数個の破片に切り刻まれた!
【北天一刀流 風纏】
リーフの手の内は誰も知らぬ間に包丁を捉え、誰も知らぬ間に鞘に返ったのだ
何かがあった証として一陣の風が吹き抜けるのみ
リンファはその包丁がバラバラになったのをあっけにとられながら眺めると、視線をリーフに移す
リーフの刀は鞘に収まり、何かをした気配すら感じられない
「み、見えなかった……!」
リンファはその事実に驚愕しているとき、更にもう一人の大男が破れかぶれで突進!
その自慢の鱗を十字に交差させ、体をガードさせて弾丸の様に迫ってきた
「せめてどっちかくたばれや!このうすぎたねぇ緑肌がぁ!」
兄弟に向かって突進する大男をリーフとリンファが止めに入る!
「させるかぁ!」
「止まらぬならその足斬り落とす!」
3人が交錯する瞬間、全員の動きが一瞬止まる
だが次の瞬間全員が明後日の方向に吹き飛ばされる!
「そこまで!自警団代理権限をこの宰相秘書ケア=ルカが行使します! きさんら全員動くなクラァ!」
思わず地元の言葉で怒号を放ちながら、ルカが3人全員を衝撃魔法で吹き飛ばした!
「いったぁい!」衝撃魔法の圧で皮膚を焼いて悶えるリンファ
「その魔法の影響……君はもしや……」体勢を整え着地をするリーフが呟く
何かを話しかけようとするリーフの後ろから、ドタドタと大勢の自警団の足音が響いてくる
「む……捕まるわけにはいかんな」
少しだけ残念そうな表情をすると、リーフは腰に差した刀を強く押さえその場から一気に走り去る
「ま、まって……!」
「ありがとう、リンファ殿」
そう言い残すとリーフは風の様に走り去り、人ごみに紛れ消えていく
その首元の青いバンダナがまるで流星の様に残像を作った――
それを追いかけようと膝を上げたけれども、その頬はルカに引っぱたかれて動くことができなかった
「……すごいなぁ! ちょっと宰相頭痛が痛い!」
「言葉がぶつかってます宰相、あと現実を見てください」
姿を道化に変えてやってきた宰相はその惨状を見て本当に頭が痛そうに軽口を叩く
市場で禁止事項としている乱闘、第三者介入更に市場の屋台が半壊と全壊
死人が出なかったことだけが不幸中の幸いと言った天空市場の有様に、もはやファルネウスは笑うしかなかった
その向こう側で自警団が立ち、角牙の男と数人とリンファはもれなく正座をさせられていた
「やってくれたねぇリンファ君! まぁ言ってなかった僕が悪いってことで今回は良しとするけど帰ったらすごい説教するねぇ!」
「ご、ごめんなさい……反省してます……」
「リンファ……これは随分と大暴れしたんだなぁ……その……怪我人だけで済んでよかったな、ウン」
笑いながらコメカミに血管を浮かべるファルネウスと、何と言っていいかわからないアグライア
「この場合、まずはキチンと叱るべきですアグライア様」
そんなアグライアにピシャリと言って聞かせるルカ
「ち、違うんだよ!偉そうな姉ちゃん!この人は俺たちを助けてくれたんだ!」
「存じております、というか見ております、そのうえで正座で反省を促しております」
先ほどの兄弟は逃げることなく、リンファは悪くないと必死に訴えていた
「自警団、あなた方は何をやっていたのですか? あまりに遅いので仕方なく権限を発動させてしまいましたよ」
「申し訳ありません!ですが他の市場でも数件事件が起きたら人手が足りません!」
「それは……職場改善の余地がありますね、承知しました」
ルカと自警団がそんなやりとりをしているのを眺めながら、リンファはさっきのリーフの事を思い出す
「僕に似ていた……気がする それにあの青いバンダナは絶対お母さんの形見と同じ模様だった……」
10年前のあの日の事件とゴブリンクイーン、そしてあのリーフという人物……
「きっと何か関係がある……行かなきゃ!」
そういうとリンファは駆けだしていく
「待て!どこに行くんだリンファ!」
「ごめんなさいアグライアさん!ファルネウスさん!ルカさん!」
アグライアの止める声も聞かず、リンファはいてもたってもいられず走り出してしまった
「だーかーら! この人はいい人なんだから!一緒になって正座させないでよ!」
「自警団としてはそういうわけにはいかんのだ!」
「頭硬いなぁこの唐変木!ってうわぁ!」
自警団と言い合いをしている兄弟を抱えてリンファがその場から一気に離れる
「ごめんね!僕はリンファ!さっきのリーフさんの居場所教えて!」
「わぁ!さ、さっきのすげー強い人か!俺はリオ!弟はルイ!いいぜ、あっちだ!」
その言葉を置き去りにする様に、リンファ達も人ごみに消えて行った
「リンファー!待つんだー!」
アグライアが必死に声をかけるが、その声は虚しく雑踏に消える
「あの風体は……居住区の子どもかな?」
「恐らく鉱石採掘者かと思われます、緑の民でしたので7番居住区かと」
走り去った先を眺めるファルネウスは、少しだけ悩んだ後
「アグライア、行っておあげなさい」
困り顔のアグライアに追いかけるように促すファルネウス
「あ、いえ……この件はなんとお詫びをいっていいか……申し訳ないファルネウス卿」
「いーよいーよ、ここは私がなんとかするから、ちゃーんとお説教するんだよ? 甘やかすだけが愛情じゃないからね」
「あ、あいじ……!? わかりました、ちゃんと叱って見せます!」
ペコリと頭を下げると、アグライアも走り出していく
「ファルネウス様……」
「ルカ君、心配かけたね」
自警団と大男たちが屋台を片付けるのを見ながら、大きなため息をつくファルネウス
「リンファ君には私たちが想像する以上の陰謀が渦巻いている」
「というと……」
ファルネウスは喉まで出てきた言葉を、異物の様に苦々しく吐き出す
「ゴブリンハーフ誕生には王都のトップ、神代王が絡んでいるみたいだ」
ファルネウスはそうつぶやくとそのまま言葉をなくす
声を出さないようにするのが精いっぱいで驚きを隠せないルカ
そんな二人を置き去りにする様に、その言葉は土煙と喧騒に紛れて消えた―――




