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緑の拳士~ゴブリンハーフは魔法が使えない~  作者: ハンドレットエレファント


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18.狼と森の王

暖かい霧が包む大木のそば


リンファは息を弾ませながら型稽古を繰り返す


腰を落とし、地面を滑るように足を進め、よどみなく技を繰り出す意識を忘れずに


肘、頭、肩、膝、足裏、胸、そして拳――


全身を攻撃として、防御として使えるように意識しながら、けれど意識しすぎないように


そのとき最も効果的に体が動くよう、動きを細胞に覚えさせるつもりでリンファは型稽古を繰り返す



「体の軸がぶれないように注意するんだよぉ、でもいい稽古になってきたねぇ」


先生が大木の陰からゆっくり歩いてくる


リンファはその言葉を聞きつつも気を散らさないように型稽古を収め大きくゆっくり息を吐く


「攻防の意識が丁寧だったねぇ」

先生はリンファの動きを見ながら嬉しそうにほほ笑む


「ありがとうございます、先生!」

「先日は大変だったねぇ、君が息災でなによりだよぉ」

リンファはパタパタと先生の元にかけよると、大きく頭を下げる


「この前、ここでみた先生の動きを思い出しながらゾンビと戦ったらうまくいきました!」

「見ていたよぉ、稽古の成果がとてもよく出ていたねぇ 八極剛拳を何年も練ってきたリンファならできると思っていたけど実に見事だったぁ」

先生の誉め言葉に照れくさそうに笑うリンファ


「魔導発勁は君だけしかできない技だけど、それをどう使うかが重要だからねぇ」

「はい、まさか魔導発勁が効かない相手がいるだなんて思わなかったです……魔法や魔力についてもまだ知らないことが多いと痛感しました」

うんうんとうなづきながら愛弟子の成長に目を細める先生


「知ることで動きに精彩は生まれるし、動きで疑問が知識に変わるよぉ、いいことだ、焦らずにね」

「はい!頑張ります それにしても、なんで先生のことを目覚めても覚えていたんだろう 今までそんなことなかったのに」

「……それはとても不思議だねぇ、でもそれが君の危機を救ったのならよかったよぉ」


先生は何も知らない顔をしてリンファに応える

けれど先生はその原因がミアズマの呪殺により死に近づき、魂が離れかかったことが原因だと理解していた

『無事だったから良かったものを……許さないからねぇあの外道が……』

表情に出さず怒りに燃やす先生


「先生?どうかされましたか?」

「いやぁ、なんでもないよぉ そろそろ時間かな?」

「あ、霧が……じゃあ行ってきます先生!」

「ちゃんと適度に柔軟をするんだよぉ、山道は怪我をしやすいからねぇ」


リンファが霧の奥に走っていくとその霧はその深さを増していく

先生はその後ろ姿を笑顔で見送った


霧が全てを真っ白にする寸前、ポツリとつぶやく

「ゴブリンクイーンと10年前の真実を、いつか話してあげないとねぇ……」

そう口にする先生から笑顔は消えていた






二人は日が登るわずか前、薄暗い早朝の森を進んでいた

道なき道を、草木をかきわけながら少しずつ進んでいく


神聖騎士団ご自慢の魔玉剣や制服は泥で汚れ草木の汁に染まる

「アグライアさん、僕が道を拓きますよ 代わってください」

「これくらいはするさ、君こそあまり無理をするなよ」

「傷に障りますよぉ!」

「はは、ありがとう ではもう少ししたら交代してもらおうかな」


今のところ追手の気配は感じられないが、この奥深い山の中

人が歩けるようになど当然できていないので、その歩みは遅々たるもの

アグライアはリンファに気づかれないように気を付けてはいるが実際のところかなり焦っていた


絡みつく草木がうっとおしい、魔法で焼き払ってしまいたい

だがそれで山火事などにしてはいけないし、派手な魔法を使えばあっという間に感知されかねない

一刻も早く進みたいが、早く進むための方法の全てが選択できない


そうこうしているとアグライアの傷口がジワリと血でにじむ

焦る気持ちをどうにか抑え込んで、剣を鞘に戻しリンファに差し出す


「すまない、交代をお願いしていいだろうか?」

「はい!頑張ります」

待ってましたと言わんばかりに嬉々として剣を受け取り先頭に立ってくれるリンファ

その手にはアグライアが以前に渡したグローブをしっかりと身に着けている


『今はリンファのこの素直な明るさだけが救いだな』

とアグライアは気持ちを切り替えてリンファの後につく


その二人の足跡を1キロ程度後ろからゆっくりとついてくる影が多数

獲物に臭いを気取られぬよう、距離を保つ狼の群れ


その群れの中央に巨大で美しい白狼が悠々と歩く

白銀の毛皮が朝日に輝き、神話の生物であるかのように荘厳な空気を纏う

それは人々よりステラーハウルと呼ばれ恐れられた森の王


森の王は家族であり配下である狼たちに目配せをする

狼たちがそれを承知すると、全速力で駆けていく

その背中を見ながら、ステラーハウルが天を仰ぎ、美しい咆哮を響かせた






「――!? アグライアさん!走って!」

その咆哮に先に気づいたのはリンファだった

音を聞いたわけではない、その空気の変化をリンファは敏感に感じ取った

アグライアに言うや否やその手を取って走り出す


「どうした!? ……狼の鳴き声!?」

その手に驚くアグライアの耳に少し遅れて狼の咆哮が轟く


その咆哮はまるで荘厳な金管楽器の様に美しいが、この森全てを包み込まんばかりの勢いでその木々を大きく揺らしている


その咆哮を合図にしたかのように多数の狼が二人を追いかけ包囲しようとしてくる

「早い……全然躊躇してない、ずっと前から狙われていた?」


リンファは狼の動きに疑問を抱きながらアグライアの手を引き必死に走る

狼が前から狙っていたとして、何故襲い掛かることをこちらに知らせるような真似をしたのか?

「獲物として狙っているにしてはやることがちょっと変だ……!」

「どういうことだ!?」

「僕らは狼に気づいていなかった!もし獲物として狙っているなら鳴き声なんて聞かせるはずがないんです!」


獲物を狩った後で鳴くならともかく、野生動物が「今から襲いますよ」と教えてくるわけがない

しかも狼は逃げるこちらを追いかけては来ているけど、速度を合わせているように思う

しかしその包囲は少しづつ縮まり、進行方向を制限していく


「もしかして……」

必死に走る二人はやがてその顔に強い風を浴び、まぶしい光をその目に浴びる

草木の群れが途切れ、その光の先にある巨大でなにもない草原にたどり着く

その草原を囲むように数十匹の狼が待ち構えている


「誘いこまれた……!」「そういうことか……!?」

リンファは手に持った剣をアグライアに渡しながらお互い背中合わせになり周囲を警戒する

「できれば動物とかに危害は加えたくないんですけど、そうも言ってられないですね……」

「そのようだな……下手すればこちらがやられてしまう」


狼の唸り声の合奏が響く

リンファが腰を落とし構えを練ろうとするとその時、群れの中央から何者かが現れる


それはあまりに巨大な狼、白銀の姿に真っ赤な宝玉の様な瞳

群れがその道をあけるとその狼は悠々と歩を進め、二人の前に森の王が立つ


「お、大きい……それに凄く綺麗だ」

あまりの荘厳さに、見とれてしまうリンファ

その身をかばうようにアグライアが立ち、構える


その二人を見ながら、森の王ステラーハウルが美しい声を発する



「我が子を破壊せし緑の戦士よ、私と戦いなさい」



森の王の白銀が風にそよぎ大きく揺らぐ―――


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