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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.97 灰より出でて黒きもの⑥

「思ったより早く起きたみたいね。」


 クニシロが開けた扉の先の部屋で、魔王ネームレスはそう言った。彼女は細長い長方形の食堂にて、既に食事を始めていた。その傍らには、レイズとリッサもいた。


「あ、ルリ!おーい!」


 レイズは私の姿を見ると、頬張っていた何かの肉を無理やり飲み込み、手を大きく振って私に呼びかけた。私は隣に立つクニシロに目線だけを送り、様子を窺う。クニシロは私の目線に気付くとキョロキョロと辺りを見回した上で、苦笑いを浮かべて首を傾げた。私はその様子を見届けてから、レイズの隣へいき椅子に座る。


「ルリはいつ見てもボロボロねぇ。」

「あんたねぇ……私が一番気にしてるんだけど。」


 こちらの世界に来て1ヶ月あまりが経った。改めて振り返ると確かにレイズの言う通り、健康体でいられた日数よりも何かしら怪我をしていた日数の方がどう考えても多い。とはいえ、こっちの世界の住人にそのことを指摘されるのは少し不愉快であった。


「まあ無理もないわ。相手が悪すぎるもの。」

「……流石に、ボロボロにした当事者には言われたくないわね。」


 割って入ったネームレスに、私は悪態をつく。ネームレスはそれ以上何も言わず、食事に集中し始める。私は改めてレイズの方へ目線を送り、話しかける。


「それで、アンタ達は今まで何してたのよ。」

「魔王城の捜索だよ。リッサとボクで二手に分かれて探索してたんだ。そんで夕方になった頃くらいにクニシロさんに呼ばれて……」


 レイズはそう言って、入口のクニシロを見る。クニシロは微笑んだまま何も言わずに立っていた。


「それじゃ、リッサとはずっと別行動だったんだね。」

「うん。ボクが地下を見てリッサが上の階を見て行ったんだ。」

「ふぅん……」


 私は生返事をしながら、黙々と食事をするリッサへと目を向ける。心做しか眉を顰めているようにも見えるその真剣な表情は、食事の場には随分と似つかわしくない不協和音を奏でている。


「レイズ」

「何?」

「アンタ、なんかしたの?」

「な、なんでボクが!?」


 私の問いかけを、レイズはあからさまなくらいに否定する。あからさますぎて、逆に信ぴょう性を感じるくらいだ……私は頬杖をつきながら、そんなことを思案していた。


「早く食べなさいよ。」

「待って、今それどころじゃないのよ。」

「……私一応、ここの主なんだけど。蔑ろにしすぎではないかしら?」


 ネームレスはそう言い、ステーキを一切れ口に含みながら不貞腐れる。私は敢えて彼女を無視し、レイズに話しかける。


「それで、城の地下には……」

「あ……ルリ、ごめん。今は言えない。」


 レイズは私の言葉を遮りながらそう言った。その予想外の反応に、私は驚きを示す。


「え?」

「私が禁じたの。探索で見たものを話すときは必ず、相手と2人きりのときだけってね。もちろん、そっちの子にも同じことを伝えているわ。」


 疑問に答えたのは、ネームレスであった。私はネームレスとリッサを交互に見つめ、じっくりと思案する。


「なんで、二人きりならいいのかしら?」

「……」


 私の質問に対し、ネームレスはあからさまに無視をする。さっきの扱いが余程不服だったのかと考えた私は正面を向き直し、ゆっくりと肉を口に含む。ネームレスはため息をつきながら呆れたように言った。


「それも、全員の前では言えないわ。全く……私がそんなこと気にしてるわけないでしょ。」

「……なるほど。」


 ネームレスから発せられる威圧感が増大する。私はそう答えを発することしかできず、黙らされてしまう。とはいえ彼女が何を警戒し何を排除しようとしているのか……うっすらと見えてきたのも事実であった。ネームレスはそんな私の魂胆を見透かしたように言う。


「残念だけど、私が警戒しているのはあなた達四人全員よ。全員を等しく警戒するためにこんなことをしているのだから。」

「……」


 ゴクリ、と私が息を呑んだその音が、部屋中に反響するような感覚。ネームレスの強烈な警戒心が伝播したかのような緊張が場に走る。そんな中、リッサが椅子を引いて立ち上がり言った。


「ごちそうさま。美味しかった。」

「も、もういいのかい?」


 レイズが驚いた様子でリッサに尋ねた。それもそのはず、リッサの皿にはまだ肉の塊が残っていたのである。そしてそれは、リッサが食事を途中で切り上げるところを初めて見た私からも異様な光景に映っていた。


「うん……私、先に戻ってるね。」

「ちょ、ちょっと!」


 レイズが立ち上がって止めるのも聞かず、リッサは食堂から出て行ってしまった。私は唖然としてその後ろ姿を見ることしかできなかった。


「……」


 カチン……カチン……と、ネームレスの食器が皿を打つ音が響く。私は辺りを見回す――ふと何気なく目に留まった時計には、私が目を覚ましてから40分ほどあとの時が刻まれていた。

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