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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.96 灰より出でて黒きもの⑤

 魔王城の客間の一室を出て、私は廊下を歩いていた。客間で出会った人型結界刻印装置・クニシロが隣に続く。


「他のみんなは?」

「えっとぉ……魔王様と女の子2人は既にお食事されていますぅ。あとは魔王様と組手をしたおふたりだけですねぇ。」

「そうか……」


 私は部屋で見た外の景色を思い出す。すっかり夜が更けてしまったことから、少なくとも2時間は眠らされていたのだろう……それを確認しようと辺りを見回すが、周りには時計がなかった。


「えっと……今何時か、分かるかしら?」

「ちょうど20時になったくらいですねぇ。おふたりが稽古を切り上げたのが17時頃ですからぁ、3時間ほど経っていることになりますねぇ。」

「うぐっ……」


 ズキリと疼く傷を手で押さえながら、私はネームレスの最後の一撃の感覚を思い出していた。物理的な衝撃というよりはガステイルさんの魔力の弾に撃たれたときに近い感覚のような……とはいえ、あの時のネームレスからは魔力を一切感じなかったが故に、魔力の介在する余地がないのではないかと思考が渦巻いていく。それに、魔力の"発散"……分からないことが山積していく。すると、いつの間にか私よりも少し前を歩いていたクニシロが、私の顔を覗き込んでいた。


「大丈夫ぅ、ですかぁ?」

「あ、あはは、大丈夫よ、うん……ちょっと、考え事しててね。」

「今日の組手でお父様に言われたこと、ですかぁ?」

「え……う、うん。そうだけど……」


 クニシロの妙に鋭い質問に、私は思わず息を呑む。クニシロは前を向き少し首を傾げながら黙り込んだ。


「クニシロ、見てたの?」

「違いますよぉ。お父様から今日のことを聞いていただけですぅ。」

「そう……」

「うーん、お父様からはぁ、答えを教えるなぁって言われているんですがぁ……結界術は、かなり特殊な魔法なんですぅ。」

「特殊?」


 私は隣に居るクニシロを見上げながら聞き返す。クニシロは渋い表情で悩む様子を見せながら、口を開いた。


「んーとぉ……ほとんどの魔法はぁ、発動するポイントがかなり前にあるんですぅ。」

「前……身体から離れた地点、って意味で良いかしら?」

「はぁい。それでぇ、そういう普通の魔法はぁ、自分が普段から漏出させている魔力の一番遠いところを使えばいいんですぅ。」


 私はクニシロの言葉を聞きながら、今まで使った、使われた魔法をイメージする。確かに、汎用かそうでないかにかかわらず今まで見てきた魔法は、遠くの魔力から現象を発現し体内から外に魔力を送り込むような流れがあった。


「そうか……それで体の中から外へ魔力を送り出すイメージで……」

「はぁい。ですがぁ自分にかける結界術はぁ、必ず自分の発散した魔力を取り込む操作がありますぅ。」

「それじゃあ、自分に結界を使ってしまったら既存の汎用魔法が使えない、ということ?」

「……結界術はぁ、特定の情報やそれをもつものを分断するんですぅ。遮断する情報を選択すればぁ、そういうことは防げると思いますぅ。それにぃ、魔力を発散させずに扱う手段は他にもございますぅ。」

「……」


 私はクニシロの言葉を聞き、黙り込んで考える。魔力を放出させない手段としての魔法なら聞いたことがあるはずだ……そうして私は、ひとつの答えに辿り着く。


「身体強化魔法……?」


 しかし私は、妙な感覚を抱いていた。私はその魔法の存在を知っていつつも、いつなぜ何で聞いたのかまるで思い出せないからである。見たわけでもなく、使い手すら1人も思いつかない……その気味悪さに眉を顰めていると、クニシロが目の前の扉に手をかけた。


「食堂に到着しましたぁ。今日はここまでですぅ。」

「え……あ、ああ。ありがとう。」


 私は目の前の部屋の扉を見上げる。食堂と書かれた札がかかっていること以外は普通の扉だったが、先程までの妙な不快感もあってクニシロに離れて欲しくないあまり、


「いい扉ねぇ……」


 という、まるで意味の分からない話題でクニシロに話しかけてしまった。


「扉、お詳しいんですかぁ?」

「い、いやぁ!?そんなわけでは無いけど、い、いい扉だなぁなんて……あ、あはは。」

「それじゃぁ、いい扉ぁ、開けちゃいますねぇ。」

「待って!待って……えーっと、えーと」

「なんですかぁ?」


 クニシロが扉から手を離し、ぷくっと顔を膨らませる。私は必死に頭を回転させて……ようやく、かつて王都に行った時の矢文のことを思い出した。


「そうだ!クニシロ、アンタたちに……217番にあたる子、いる!?」

「217……!?」


 クニシロの顔から柔らかな微笑みが消える。クニシロは目を大きく開き、口の端を歪ませ、ゴクリと息を呑んだ。そして彼女は、目を逸らしながらゆっくりと口を開いた。


「217なら、ニーナのことですぅ。でもニーナのことはぁ、私からはほとんど言えることがないんですぅ。」

「ニーナ……」

「ニーナは私と同じ2型の人型結界刻印装置ですぅ。お父様は型ごとにテーマを設定し装置を作りましたぁ。」

「テーマって?」


 私からの質問に、クニシロは逡巡する。私は沈黙し彼女をじっと見上げる。やがてクニシロは根負けしたようにふぅと息をついて再び口を開いた。


「"心"ですぅ。最初の人型結界刻印装置での課題をまず克服するために、2型は心を扱える結界術士として作られたんですぅ。そしてぇ、ニーナはその中でも最も心が強い子でしたぁ……ですからぁ、心で扱う結界の中でも最も重要なものを、お父様は彼女に与えたんですぅ。」

「それが……まさか……」

「はい。彼女が扱う結界は忘却結界。対象の記憶に作用し特定の情報を削除する結界ですぅ。」


 クニシロはそういうと、物憂げな表情で私に背を向け扉を開いた。

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