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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.95 灰より出でて黒きもの④

 魔王城ジューデスの闘技場にて、私は大の字になって寝転がり、天を仰いでいた。投げ出した腕から力が抜け、苦悶の表情を浮かべながらあがった息を整えていく。


「くっそ……」


 ランとネームレスが戦っている地面の鼓動を感じながら、私はそう呟き上体を起こす。目を細めながら二人の動きを見つめる。先程まで目に入っていた太陽よりも眩しいほどの魔力を放ちながら凄まじい連撃を繰り出すランに対し、ネームレスからは何の魔力の反応も感じなかった。


「なんっで!当たらねえんだ!!」

「ほう……当たればいいのか?」


 ランがそう悪態をつきながら力任せに振り回した刀を、ネームレスは片手であっさり受け止める。


「うっ!?」

「魔力の発散が起きているよ。君たち二人はなまじ魔力の扱いの感覚がいいもんだから、身体中の魔力を余分に発散させても結果が出てしまっていたんだ。」

「魔力の発散……だと?」

「ルリに尋ねてみるといい。魔力が見えているんだろう?」


 ネームレスの言葉を聞いたランがこちらに目をやった。私はゆっくりと立ち上がりながらランに向けて言った。


「私にも発散というのはよく分からないけど、確かに身体から放たれている魔力はランの方が強かった。眩しくて直視できないくらい。」

「……」

「むしろ……全く魔力を感じない魔王の方がおかしいって思ったわ。さっきまでのランの状態が発散だというなら、魔力は発散させるのが普通なんじゃないのかしら。」


 ネームレスは私の言葉を聞き、少し微笑んだ。そのまま黙ったまま私を暫く見つめていた。


「な、何よ。何かあるなら喋ってちょうだいよ。」

「そうね……その通り。既存の魔法体系の殆どが魔力の発散を伴うものよ。でも、だからといってそれを"普通"だなんて表現するのは危なくないかしら?」

「……つまりアンタは、魔力の発散を伴わない魔法体系を扱っていると。そんなのが存在するの?」


 私の疑問に、ネームレスはニヤリと口角を上げ肯定の意思を示す。その姿に異様な圧を感じ押し黙った私を見ながら、ネームレスはため息をつきながら言った。


「本当なら、じっくり座学をする時間を取りたいのだけれどねぇ……時間がない以上、殴られて覚えるしかないわ。」

「ふぐぅ」


 言い終わらぬうちに、ネームレスがランの懐へと間合いを詰め、下腹部へと当身を打ち込んだ。たった一撃でランは沈み、前方へと崩れ落ちた。ある程度ダメージの蓄積があったとはいえあのタフなランが一撃で沈んだこと、そしてその攻撃の一切を目で追うことができなかったことへ私は恐怖し、呆然と立ち尽くしていた。


「でも、一日で気がつけたのだからそれは評価してあげる。だから、ご褒美兼課題を与えるわね。」


 呆気にとられた私を気にすることもなく、ネームレスはそれだけ言うと再び私の前から姿を消す。その直後、私は右の側頭部に強い衝撃を受け、地面に倒れ伏してしまった。


「死なない程度に本気で殴ったわ。かなり強引な方法だけど、貴方達なら直接触れることですぐに本質を掴むでしょうから。」


 薄れゆく意識の中、ネームレスがそう言ったのが聞こえた。



「ハッ!?」


 次に私が目を覚ましたのは、屋内のベッドの上であった。私は辺りをぐるりと見回し、目に付いた窓の前までふらふらと歩いた。もう既に日は落ちたようで、窓の外は真っ暗な闇が広がっている。


「痛っ……」


 まだズキズキと痛む頭を押さえながら私はベッドに戻る。そして、


「ああ、これ……」


 私はベッドの傍らのサイドテーブルに置かれた本を拾い上げ、表紙を見つめる。すると部屋の扉がガチャリと音を立てて開いた。


「誰!?」

「うわぁ」


 警戒のあまり、私は扉を開けた女性を睨みつける。召使いのようなエプロンを身につけた、桃色の髪をしたその女性は腰を抜かし、入口で尻もちをついていた。


「す、すみませぇん!もう起きているとは思わなくてぇ……すみませぇん!」


 女性は腰を抜かしたまま、泣きそうな顔で後ずさりしながら部屋の外へと出ようとする。私は思わず、


「い、いやいや、私の方こそ驚かせちゃって……ごめんなさいね?」


 と、罪悪感のあまり彼女を引き止めるべくベッドから起き上がり入口の方へと向かった。そのまま手を貸しながら室内の横長のソファに彼女を座らせ、私はL字になるように椅子を持ってきて座る。


「ごめんなさぁい、ゆ、夕食ができているんで起こしに来たんですぅ。許してくださぁい。」

「怒ってないわよ……夕食ね、伝えてくれてありがとう。」


 私は慰め諭すように女性にそう言った。目の前の女性は私よりも大きな身体で、自分より大柄な人を落ち着かせるのはなんとなく不思議な気分だな……なんてことを考えてながら、私は立ち上がり女性の肩をポンポンと叩いた。やがて女性はだんだん笑顔になっていき、ソファから立ち上がって言った。


「ありがとうございまぁす!このクニシロ、おかげさまで元気満点ですぅ!」

「クニシロ……って、アンタもしかして、魔王に作られたっていう……」


 私はぎょっとしながらクニシロに質問する。クニシロはとぼけたような様子で笑顔で答えた。


「はぁい。私は人型結界刻印装置2型46-9で、クニシロと言いまぁす。よろしくお願いしますねぇ、お客様ぁ。」


 クニシロはそういうと、勢いよくお辞儀をした。

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