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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.94 灰より出でて黒きもの③

 魔王城に到着して一夜が明けた。保留していた部隊の振り分けは予想に反し1時間ほどで終わり、ついさっきザイリェンに帰る班を見送ったところであった。そして私は今、魔王ネームレスに連れられ魔王城4階の巨大な図書室に連れてこられた。


「これは……これら全てが、魔導書……?」

「すっげえ……」


 私と同じように連れてこられた、魔王城の守備を担当する部隊――ラン、リッサ、レイズはその壮観な光景に息を呑む。ネームレスは微笑みを浮かべながら図書室に足を踏み入れ、近くにあった書棚から魔導書を一冊取り出し、中をパラパラとめくる。


「全部が全部魔導書ってわけじゃないさ……そうだね、これじゃなくて、こっちかな……」


 ネームレスはそう言いながら本を仕舞ったり、取り出したりを繰り返している。そしてある本を見つけると、それを持ったまま私へと歩みを進める。


「貴女にはこれね。それで……アンタはこれ。」


 ネームレスは一人一人に違う本を渡していく。私は受け取った本の表紙を見る。そこには『水鏡術の極み』と書かれているようであった。


「水鏡術……?」

「貴女、ろくな防御手段ないでしょう?これ読んで2週間で使えるようになりなさい。」

「え、えぇ……。」

「おい……こんな貴重な本、ほんとにいいのかよ!?」


 ランが目を輝かせながらネームレスに尋ねる。ネームレスはきょとんとした目で彼を見つめ、その後大きな声で笑った。


「アッハッハ!誰もあげるなんて言ってないわよ。2週間後まで貸すだけよ。」

「あ、ああいや、すまねえ……だけどこれさえあれば、俺は魔道具士として……もう、読んでいいのか!?」

「まあ待ちなさい。まだ案内しなきゃいけないところがあるわ。それ持ってついてきなさい。」


 ネームレスはそう言って図書室を出る。私たちは急いで彼女の後を追う。廊下を進み、下り階段を暫く降りていくと、ネームレスの足が止まったその眼前に大きな扉が佇んでいた。ネームレスは扉に手をかけ、ゆっくりと前に押して開いた。


「ふぅ……もう何十年も開けてないから、くたびれたわね。」


 一行の前に広がったのは、大きな円形の闘技場だった。野晒しにされところどころ風化している石造りの舞台に、それをぐるりと囲うように建てられた客席が目を引く。まるで古代ローマのコロッセオのような……私はそれを見ながら、ネームレスに尋ねる。


「ここで何をするつもりかしら?」

「決まっているでしょう。組手よ。」

「えぇ!?」


 私は思わず、ネームレスの方へと向き直る。


「今日から2週間、私がここでルリとランをしごきます。太陽が登っている間はね。」

「ちょ、ちょっと待て!俺らは読書すればいいってさっき……」

「読書だけすればいいだなんて、誰が言ったかしら?」

「うぐっ……」

「そもそもアンタたち、ネオワイズ盗賊団に喧嘩売るには弱すぎるもの。武力も知力も、今のレベルじゃ戦いにすらならないわ。」

「だから、本も渡して……」

「ええ。日没までは組手をして、それからはずっと読書。そして次の朝の日の出からまた組手。食事と寝る場所は用意してあげるわよ。」

「なっ……」


 ランは青い顔を引き攣らせ、思わず一歩後ずさる。そしてそのまま私の肩を掴み、顔を突き合わせながら言った。


「や、やってられるかよ!!そんな生活なんかできるかぁ!なあルリ、お前もそう思うだろ!?」

「……」


 私は顎に手を当てながら考える。確かになかなかハードなスケジュールなんだろうが……まあ正直な話、ずっと続くもんじゃないしやろうと思えば乗り切れる気がする。それに、天秤に乗せられているのが他ならぬ私と友達の命なんだから、やらなきゃいけないんだなって思っている。だから私はランの手をそっと下ろし、ネームレスに向かって言った。


「私はやれるわ……やらないといけないんでしょう?」

「いい答えね……アルマストやガステイル達が貴女にこだわる理由、少し分かるかも。」

「え……それって?」


 引っかかることを言うネームレスに思わず問いかけを返すものの、彼女は答えることはなかった。その様子を見たランは苦々しく歯ぎしりをしながらも、私たちの方へと歩みを進めながら、


「わかったよ!俺もやればいいんだろ!!全く……どんなメンタルしてんだよ、イカれきってやがる!」


 そう吐き捨てる。


「イカれてるって……ランの気持ちはわかるけど、思っても口に出すのは流石に失礼よ?いくら相手が魔王だって言ったって……。」

「イカれてるって……まあ確かに私もノータイムで返事が来るなんて思わなかったし。それでもか弱い女の子に言うのは失礼だと思うわ……。」

「「え?」」


 私とネームレスは同時に弁明を始め、同時に目を合わせる。いやいや、明らかにイカれているのはネームレスの方だし……私にもかかってるなんてこと、ないわよね?

 暫く場に沈黙が流れる。そこでレイズがそっと手を挙げ、口を開いた。


「あの、ボク達は日中何をしていれば……」

「その本に全て書いてあるわ。それを読んで何をするべきか考えなさい。心配しなくてもいいわ……貴方達にとって難しいことは何一つないはずよ。」

「え、あ、ああ。わかりました……」


 レイズとリッサはその場で本を開き読み始める。私とランは準備運動をしながら舞台に上がった。

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