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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.93 灰より出でて黒きもの②

 応接間を出た私たちは、シイナに連れられて廊下を歩いていた。前方にアルマスト、レイズ、リッサが並び、そこから少し遅れてガステイルとラズベリィが続く。そして殿……というには少し離れすぎているようなくらいの距離を隔て、ランが足取り重く歩いていた。


「あんた、どうしたのよ?」


 私はランの背中を軽く叩きながらそう声をかける。応接間での話の中、"敗黒"という単語が出て以来、ランは明らかにおかしい様子を見せている。姉弟子――ギルドの訓練場での話を聞く限りだと恐らく、ファプレのことだろう――を殺したとされる敗黒が関わっていると聞いて、動揺しないわけがない。とはいえルガル救出には必要な戦力である以上、落ち込んだままなのも困るので声をかけた次第だ。しかしランは何かぶつぶつと呟きながら、私の方へ一瞥もせず通り抜ける。


「おうこら、無視とはいい度胸じゃないのよ無視とは。」

「いっ、いでででで!何しやがる!!」


 私はランの腕を思いっきりつねりあげた。ランは腕を押さえながら私の方を睨みつける。


「何って、()()()よ、気付け。あんた、部屋で話を聞いてるときから様子がおかしいもの。」

「ほっといてくれよ……」

「別に、ほっとけばあんたがあんたの仕事をしてくれるっていうんならほっとくわよ。でも今のあんた、そうは見えないもんでさ。」

「……」


 ランは苦々しく歯を食いしばり、その場に立ち止まる。私は目だけで前方の様子を窺いつつ、ランの目の前で彼を見上げる。そしてランは、私から逃げるように目を逸らしながら言う。


「……やめろよ、かっこ悪いだろ。」

「別に?」


 私は真顔で答えた。だいたい、背中と結果で語る俺かっこいいみたいな価値観なんてクソ喰らえと私は思っているので、ランのような男の見栄と体裁を整えることを美徳とする考えが理解できない。全部言え、言わな伝わらねえよと。まあ、言いたくないことまで言えとは言わんが。


「十二年前、ファプレは敗黒で死んだ……さっき魔王はそう言ったよな?」

「ええ。それがどうかしたの?」

「厳密には違う……厳密には、敗黒に感染したファプレを、ミラ・ケイトス……つまり、魔法少女ホワイトステラが殺したのだ。」

「え……」


 私は絶句し、目を見開いた。ランはゆっくり私に背を向けながら言葉を続ける。


「依頼先のツミグロという村での出来事だ。そこで発見された敗黒の調査で……ファプレが敗黒に感染した。」

「……なるほど、敗黒は水と見分けがつかない以上、感染拡大を防ぐために感染者は殺すしかないわけね。」

「ああ……」


 ランは悔しさを声色に滲ませながら呟いた。

 今の話を聞いて浮かんだ疑問点がいくつかある。それだけの手段を取るということは、敗黒とはそれほどまでに感染力が強く、根絶が困難なのか。そして、それだけ感染リスクの高い病原体に対し……


「敗黒の調査って、何ができるのよ。そんなの、ろくに知識のない冒険者が感染している現地に行ったって自滅するだけじゃないのよ。」

「話は終わってない。ミラ・ケイトスはファプレを殺し、その旨を記した手紙を俺に送った。そして奴は姿を消し、12年後変わり果てた姿でお前たちの前に現れた。敗黒を使って聖女を人質に暴れ回る犯罪集団の一人として。」

「……」

「それじゃあ、核心の話をしよう。ツミグロにいた村人……小さい村だ、100人にも満たないだろう。そいつらのうち、何人が敗黒感染者だったか……わかるか?」


 ランの問いかけに私は思わず考え込む。半分どころか、3分の1でも罹れば全滅だろうとそう考えた私が口を開いた。


「30人くらいかしら。」

「全員だ。」

「は……?」

「全員、敗黒感染者だったんだ。連中は感染していながら真っ当に日常生活を送ってやがったんだ……今思えばそいつは、()()()()()()()()、ただただ感染の拡大だけを目的としたリィワンの罠……あの村全てが、広大な敗黒の実験場として使われてやがったんだ。」


 私は言葉を失い、無言でランを見上げていた。ランの拳にこもる力が徐々に強くなり、小刻みに震え始める。


「そしてザイリェン冒険者ギルドへ調査依頼を出したのだ。目的はミラ・ケイトスの捕縛。敗黒事案ならば必ずギルドはジョーカーである彼女を使うと……そして、その依頼をランクアップ試験として引き受けたのがっ……」

「そうか……ごめんね、話させちゃって。」


 私はそう言い、頭を下げた。ランは暫く難しい表情で俯いていたが、やがて立ち止まっていた足を動かし始める。


「別に。アンタに喋ったら少し落ち着いた。なんなら……ファプレの死に関わった連中を叩けるんだ。落ち込んでる場合じゃねえよな、やっぱ。」


 ランはそう言い、前方のメンバーに追いつくべく早足で進んでいく。私は慌てて彼について行くのであった。

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