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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.92 灰より出でて黒きもの①

「それで、君たちは私に何をして欲しいのかね?」


 魔王城、応接間にて。ネオワイズ盗賊団の目的と対処について協議し黙り込んで考えていた我々に、魔王ネームレスは言い放った。


「私とてジューデスの主、無闇に城を空けるわけにもいかないのでな。奴らの目的を探る前に自分たちのやるべきことを明確にしておくべきではないかね?」

「……2週間後、ダガイア土鋼要塞跡地にてルガル・ユールゲンを生贄として竜脈の解放がなされます。いえ、リィワンの手紙を信じるならば、ですが……。」

「なるほど……あそこも『楔』のひとつね。だからこそ彼らがそこを選んだとも言えるが。」


『楔』という単語に、私とラズベリィが思わず眉を顰める。先週の苦々しい接敵の記憶が蘇る。しかしアルマストとネームレスはそれを一瞥もせずさらに話を進める。


「それで、私はそこに行けと?」

「はい。そこにネオワイズ盗賊団の戦力が集中するはずです。特に団長ラルカンバラに対抗するためには……魔王ネームレス、貴女の力が必要です。」

「ふむ……」


 アルマストの要請を聞いたネームレスは顎に手を当て、しばらく考え込む素振りを見せる。そしてアルマストの顔をじっと見つめ、再び口を開いた。


「ときに……残りの『楔』はいくつか、王女様はご存知かな?」

「いえ……」

「2つだ。ひとつがそのダガイア土鋼要塞跡地のもの。」

「どうして、そこの楔が破壊されてないって分かるのかしら?」


 私は割り込んでそう質問する。奴らの本拠地により近いであろうその楔は、真っ先に破壊されこそすれ後回しにする必要性が分からない。ネームレスは私の方へ微笑みを向け言った。


「楔の破壊で竜脈を解放した場合、地面から大量の魔力が噴き出すと考えられている。堰き止められていた川に大量の水が流れ込み、決壊し氾濫を起こすようにな。」

「まさか、その魔力を利用するために……」

「そう、だから奴らはダガイア土鋼要塞跡地を指定した。そこで竜脈を溢れさせ……何が起こるかは、私にも分からん。」


 ネームレスはそういうと、険しい顔をして俯いた。暫く沈黙が続いたが、その沈黙を破るべくレイズが手を挙げた。


「あの……さっき、残りの楔は2つって言ってましたよね?」

「ああ。」

「それって、どこにあるんですか?それを管理しておけば、ネオワイズ盗賊団の思い通りにはならないような気がして……」

「ここだ。この魔王城にひとつある。」

「ええ!?」


 私たちは一斉にネームレスの方へと向く。そこへガステイルが咳払いをしながら言った。


「城の外でリィワンと戦っていたのもそれが理由だ。奴らが楔を破壊するべく来てやがったんだ。」

「だったら、それをアイツらに渡さなければ……ハッ!」


 レイズはそう言いかけて、何かに気付いたように口を手で押さえる。ネームレスはそれを見ながら、神妙な表情で言い放った。


「その通り……ダガイア土鋼要塞跡地に私を含めた全戦力を総動員すると、楔を破壊するために魔王城へ奴らの別働隊がやってくるでしょう。そうなるとダガイア土鋼要塞跡地の楔の破壊を阻止する必要があるけど、楔が既に奴らの手の内にある以上おそらく不可能だと思うわ。」

「とはいえ、魔王城で籠城したところでルガル君を助けることはできない。そうか、アイツらの狙いはこの戦力分散の強制……。」

「それもあるけど、どっちに誰がいるか分からなくさせる目的もあるわね。とはいえ、ラルカンバラの部隊とリィワンとドーナの部隊で大きく分けるでしょうが……ラルカンバラに私を当てたい我々としては、少し博打をうたなければならない。」


 ネームレスの言葉で、一同は一気に押し黙ってしまう。ラルカンバラが現れるのはダガイア土鋼要塞跡地か、はたまたこのジューデスか……二分の一とはいえ、ルガルの命がかかっているには不安すぎる程の確率だ。暫く続いた沈黙を破ったのは、ガステイルだった。


「魔王だったら、結界の自壊効果の瞬間移動が使えるはずだ。まずはそれで解決したとして考えてみないか?」

「ああ……だが瞬間移動は複数個重ねることはできないから、片道でしか使えない。用意はしておくが、最後の切り札だな。」

「それでもいい。ラルカンバラの不在を確認してから使うのなら、一度でも十分だろう。」

「でしたらここに残る者と、一度ザイリェンに戻りそれからダガイア土鋼要塞跡地に向かう者で別れましょう。」

「そうだな……だが今日はもう遅い。振り分けは明日にして今日は全員ここで休むといい。」


 ネームレスはそう言うと、鈴を鳴らしシイナを呼び出した。


「客間の掃除は完了しております。クニシロも叩き起こしておきました。」

「ほどほどになさいね……それじゃ、みなを案内してちょうだい。」


 ネームレスは苦笑いを浮かべながらそうシイナに命じ、席を立ち一礼し部屋を出た。

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