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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.91 忘却とは前進⑨

 私たちが通された部屋は、中央に長いテーブルが置かれそれを囲うように椅子が配置されている応接間のような部屋であった。壁際には本棚がいくつか並び、長いテーブルの上には細やかな装飾がなされた燭台が等間隔で並んでいる。先に入っていたアルマストやラン達は既に椅子に座っていた。


「……失礼するわ。」


 私は奥に座っていたアルマストとリッサの間に座り、魔王ネームレスの方へと目を向ける。彼女は本棚の前で何かを探しているようであった。


「おお、あったあった。」


 ネームレスはそう言って、一冊の本を取り出しそれを私たちの目の前に差し出した。私は目を凝らし、その表紙に書かれた文字を読み解く。


「『竜脈と竜族』……これって!」

「君はラルカンバラに会ったのだろう?君たちは改めて、ネオワイズ盗賊団の目的を知っておくべきだと思ってね。」


 私はその本を手に取り、表紙を捲り1ページ目を確認する。アルマストは私の方に体を乗り出し、私の肩越しに本を覗きながら呟いた。


「竜脈……大地に流れる、竜族の力の源泉たる特殊な魔力。かつて竜族と戦った神々と人間の英雄達は各地にそれを封じ込める楔の遺跡を作ったと、そう伝えられていますね。」

「ええ。ラルカンバラ達は5年ほど前から、その遺跡を破壊し始めているわ。」

「5年だと!?」


 5年という数字に反応を示したのは、ガステイルであった。ガステイルは青ざめた顔でネームレスに迫る。


「俺が知っているのは、ここ2年で遺跡の破壊活動が目立っていることだけだ。()()()()()()()既に3年も奴らの計画が野放しにされていたと……?」

「竜脈の封印自体は魔族領にもあるのよ、ガステイル。5年という数字はこちらの封印が壊される時間も含めての話……そして、その3年間のうちに失った最大戦力が、人間たちにはあったでしょう。」

「まさか……アイツが、アムリスが拐われたのは!!」


 ガステイルは机を叩きながら勢いよく立ち上がる。ネームレスは目を閉じ俯きながら首を横に振る。ガステイルは拳に力を込め、ゆっくり握りしめる。


「え……アムリスって、聖女様?」

「拐われた……?」


 そう言って取り乱していたのは、レイズとラズベリィであった。私はチラリとアルマストの顔を覗き見ると、彼女は眉を顰めたまま無言で俯いていた。そしてネームレスは意を決し口を開いた。


「ああ……2年前、聖女アムリスはネオワイズ盗賊団に生け捕りにされ、今なお人質とされている。奴らはその計画の初めの3年間を、魔族領にある楔の遺跡の破壊活動をする班と……『敗黒』を開発し、聖女アムリスを誘拐し人質にするための班に分けていたのだ。」

「敗黒……!?」


 ランが敗黒という言葉に反応し、目を大きく開きながらネームレスを見つめる。


「今、アンタ、敗黒って言ったか?」

「ああ……12年前、お前の姉弟子の命を奪った、敗黒そのものだ。」

「そこまで知ってて、なんでテメエは……」

「まさか、無責任だとなじる気かな?」


 ネームレスは水を打ったような静かな相好でランに言い放つ。その根源にある冷ややかな恐怖を感じ取ったランは思わず言葉を詰まらせ、ネームレスから顔を背ける。


「別に、そんなダサい真似……だいたい、アレで人質にするってどういうことだよ。」

「毒性を抑えて繁殖を調整したのだ。『敗黒』のもととなるのは水の形をしたバケモノ……侵入経路と支配する器官に指向性を持たせることで宿主を殺さず感染をコントロールすることに成功したんだよ、リィワン(あのバカ)は。」


 水の形をしたバケモノ……察するに、アメーバのようなものなのだろう。病原体となるアメーバが体内の器官に侵入し水に取って代わることで機能不全を起こす、とんでもない代物だ。だからこそ、私の脳内にひとつの疑問が浮かんだ。


「何故、聖女を人質に選んだのかしら?」

「それは、敗黒に罹った聖女アムリスじゃ人質として機能しないって言いたいのかしら?」

「そうじゃなくて……敗黒なんてものを持っているのなら、例えば『飲み水に混ぜるぞ』なんて言ってしまえば、それだけで国民全員が人質のようなものになると思うの。」

「それはどう状況が違うのかしら?」

「余計なリスクだなって。みんなの反応を見る限り敗黒と水を見分ける方法は無さそうだし、分泌される体液全てにリスクがある敗黒感染者を生かし続けて長い期間人質にし続けるのって、無駄が多くないかしら?」

「……」


 私の発言に、ネームレスは下を向き考える素振りを見せる。するとガステイルが私の方を見て言った。


「アムリスの武力を警戒してのことなら、殺した方が手っ取り早い……つまり、殺さない方が向こうに都合がいい何かがあると?」

「ラルカンバラの目的の話にもなるんだけど、奴は竜脈の邪の魔力で人間の力を超えようとしているって言っていた。もしそれが叶ったとして、対の聖の魔力を使う聖女様の存在ってやっぱり邪魔だと思うわ。だから尚更、2年も殺さない理由が分からない……」


 聖女を人質にして、ガステイル達を誘き寄せる罠だとして……誘き寄せて何がしたいのとかも見えてこない。それに、罠だとわかっていても今から2週間後までにはルガルを助けに行かなきゃいけない以上、立ち止まったままではいられない。私は目の前の本を勢いよく閉じた。

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