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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.90 忘却とは前進⑧

「最初の人型結界刻印装置……」


 ネームレスの言葉を、私は復唱する。確かに、結界術を扱う魔族のルーツが一致することは一見自然なように思える。だが私は、拭いきれない妙な違和感に頭を悩ませていた。するとアルマストが後ろからネームレスに問いかける。


「証拠は?」

「結界の種類だよ。人型結界刻印装置のとある器官には私の髪の毛を入れている……魔法回路を細胞単位にまで圧縮し刻み込んだ結界魔法の触媒としてね。」

「魔法回路を、圧縮……?」


 どういうことか分からない私は、辺りを見回す。前にいたランと後ろのガステイルの青ざめた表情筋を見て、私は彼女の発言の恐ろしさを思い知った。ランはネームレスを睨みつけながら呟いた。


「言っていることは分かる。魔道具に刻み込む魔法効果の数には限りがあるため、そして敵から魔法回路を確認されることを防ぐため、魔法回路の簡略化と圧縮は魔道具士としては基本の技能だ。俺も爪くらいのサイズなら圧縮して詰め込むことは可能だが……細胞単位の圧縮にそれを髪の毛に刻み込むなど、見たことも聞いたことも……」

「その歳で爪サイズまで圧縮できるなら大したものだ。余程師匠と才能に恵まれたのだね。」

「……別に、才能は大したことねえよ。」


 ランは照れながら顔を背ける。ネームレスはその様子を見て微笑み、言葉を続けた。


「それで、彼は変化結界を使った……これはかなり高度な結界でね。今生きている魔族の中なら、私以外で実用に耐えるレベルで使えるのは……25年前、グレニアドールではぐれた原初の人型結界刻印装置――アレフだけだ。」

「アレフ……?」

「まあ、なにせ私も初めて作ったものだからね。思わず色んな結界を詰め込みすぎたんだ。主従として接するには戦闘力に差がなくなりすぎた……故に、それ以降の人型結界刻印装置には1人につき1種類の結界にしているのさ。」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」


 我々を意に介さず好き勝手に話を進めるネームレスを、私は一旦制止する。結界を何個入れたかなんぞよりも私たちが確認しなければならないことがある……私は大きく息を吐き、意を決してネームレスに尋ねた。


「今は、リィワン・ワンズリースの話じゃなかったかしら?」

「……ああ、そうか。確かにそんな名乗りをしていたね。全く、コロコロ名前を変えるだなんて誰に似たんだか。」


 後方でガステイルが咳払いをする。ネームレスはその様子を見てニコリと笑い、ガステイルは呆れたようにため息をついた。私はそのよく分からないやり取りを見届けてから、眉をひそめて言った。


「つまり、そのアレフという人型結界刻印装置が、リィワン・ワンズリースその人ということですね?」

「ええ。間違いないわ。」

「ならば、彼が使う結界術を全て教えてちょうだい。アレフに結界術を仕込んだ貴女なら、彼の手の内はわかっているのでしょう?」

「ははっ、全て列挙するなんて、日が暮れてしまうわよ。」


 ネームレスは口元を手で隠し、笑いながらそう言った。


「むしろできない術式を挙げる方が速いわ。そうねぇ、例えば、ジューデスにかけていた『記憶操作の結界』なんかは持たせてないわね。」

「記憶操作……」

「当時の研究段階じゃ、被造物である彼らに心を移植する技術が不足していたのさ。記憶に干渉する結界なんてものは、心を持たないものが持とうが何の意味もないからねぇ。」


 私はふと、何か思い至り後ろのガステイルの方を向いた。彼はそれに気付くとみるみる不機嫌になり、私に言い放つ。


「あんた、何故俺の方を見た?」

「え、いや……」

「だったら、とっとと先に行け。ほら。」


 ガステイルは口をへの字に曲げながら、前方を指さした。その指の先にはネームレスに促されて魔王城の一室へと入っていくアルマスト達の姿があった。私はそれを見て、彼女らに続くように走って部屋へと入った。

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