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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.89 忘却とは前進⑦

 私たちはシイナに引き連れられるように、魔王城の内部を歩いていた。おどろおどろしい雰囲気が漂っていた外観とは異なり、城内は白、赤、金の3色を基調とした装飾がされており、手入れや掃除が隅々まで行き届いている長い廊下が奥まで続いていた。私は前を歩くシイナに問いかける。


「掃除は、貴女が?」

「はい。私が担当する場合が多いですね。私は人型結界刻印装置の中でも特に、精密であるように作られていますので。」

「へぇ……」


 私は辺りをキョロキョロと見回しながら、シイナの答えに対して生返事をする。かつて私がプレイしたゲーム知識では、魔王城といえば最終決戦目前のマップで、雰囲気も構造もお城というよりダンジョンのそれに近いものだった。それゆえにこんなに華美な装飾を施した内観の魔王城を見るのは初めてと言ってよかった。


「ここの飾りを決めているのは?」

「魔王様です。ですが先代までの魔王様はこのようなこだわりはなく……そうですね。まるで人間のような感性をお持ちでいらっしゃいます。」

「魔王が、人間のよう?」


 私は思わずそう疑問を口にする。魔王とは魔族の王であり、魔族と人間はかつて戦争状態であった――当代の魔王が人間のような考え方をする、というのはどうも不自然に感じる。そして私は今、胸の中で何かがつっかえているような感覚に襲われた。


「……」


 シイナは黙って振り返り、私たちを見つめていた。一人一人を見定めるようにじっくりと見つめ、一通り目を通し再び背を向けて歩き始めた。私は怪訝な顔で首を傾げながら、前を行くシイナとランを追いかけるように小走りで進む。そこへ背後から、アルマストの声が響いた。


「それより、城外の話の続きです。人型結界刻印装置とは一体なんなのですか?」


 シイナはアルマストの声に一瞬反応を見せるも、再び前を向いて歩き始める。アルマストがムッとした表情でシイナを見つめると、彼女は口を開き話し始めた。


「あなたがたがどこまで結界術に精通してらっしゃるのか分かりませんが……人を選ばない言い方をするのであれば、我々は生きている結界のようなものです。」

「生きている結界……?」


 私は疑問を口にすると、シイナは私を一瞥し質問に答えた。


「人や魔族、魔物に至るまであらゆる生物は皮膚で外界と体内の境界を分かちます。人型結界刻印装置は人や魔族を模した器官を詰め込み、それを特殊な結界で包み込むことで生命を形作っているのです。」

「人造生命、ってことかしら。」

「半分は正解です。私たちを造ったお父様は、半分は人間の血を引いてらしたので。」

「むぅ……」


 いや、流石に私も"人造"の部分の違和感に気付いていないわけではない。なんといえばいいのか分からない以上、自分の感覚にもっとも近い言葉を選んだにすぎないところを突っ込まれ、私は言葉を詰まらせた。

 しかしそんな中、シイナの回答に気になる部分があったアルマストが彼女に再び質問した。


「そのお父様とやらは……魔族と人間のハーフだった、ということでよろしいか?」

「はい。」

「つまり貴女達が父と呼ぶその人物は、結界術に秀でた魔族と人間のハーフの男……間違いないか?」

「ええ。」

「……」


 アルマストは静かに、眉を顰めながら下を向き、思案している様子を見せる。私はアルマストに耳打ちをする。


「何か、心当たりがあるのかしら?」

「……今の条件に合致する人物を、私は一名知っています。いえ、私の知る限りでは一名しかおりません。」


 アルマストはそう呟き、今度はシイナに向けて声を出す。


「……デステール・グリードは死んだはずではないのですか?死んだならばどうして、貴女を維持する結界は解かれず、その生命が維持されているのでしょうか?」

「まさしく……我々がお父様と呼ぶその方はデステール・グリードで間違いありません。」

「デステール・グリード……」


 私はアルマストとシイナが挙げた名前を反復するように呟いた。25年前の魔王討伐のお話に出てくる、魔族四天王の一人で結界術の達人……そして、王都へ侵攻し一度は攻め落とした実績もある強敵だと私は認識していた。

 確かにその話が事実ならデステールは25年前に死んでいるはずだ。アルマストの言う通り術士が死んだ結界術は維持できず消えるのであれば、シイナがまだ生きていることは確かに不自然だ……そう考えた私は、ふと思いついた仮説をボソリと呟いた。


「デステール・グリードは生きている……とか?」

「なんだと!?」


 アルマストは驚き、私の顔を見つめる。唖然とした彼女を気にする素振りもなく、シイナは私を見て微笑みながら言った。


「……お父様は生命体として存在はしておりません。しかし、魔王様が今の姿を取った際にお父様の魔力を取り込みました。故に、お父様は今魔王様として命を共有している形になってらっしゃるのです。ですから25年前、魔王様が戦争で死んだ魔族たちの墓を作る際にお父様の墓だけは作らなかったのです。」

「もう、喋りすぎよ。シイナ。」


 背後からシイナを戒める声が響く。私たちが慌てて振り返ると、列の最後尾に魔王ネームレスが並んで立っていた。


「申し訳ございません。」

「怒ってないわよ。ここからは私が話すから、貴女は普段通りの業務に戻ってちょうだい。」

「承知しました。」


 シイナは魔王の側へ歩み傅きながらそういうと、姿を消した。ネームレスはそのまま私たちの中を横切り、一行の先頭へと立っていた。


「魔王……いつの間に……?」

「デステール・グリードは生きている、のところね。こちらの準備が終わったから呼びに来たのだけれど、面白そうなお話をしてたから。」

「……」

「けど、人型結界刻印装置の説明までしてくれて助かったわ。リィワンのことを話すなら避けては通れないものだから。」

「それは、何故でしょうか?」


 全てを飲み込むような魔王ネームレスの威圧感が漂う中、アルマストが神妙な顔をしながら質問する。ネームレスはあからさまなくらい口角を上げながら微笑み言った。


「あの子は……リィワン・ワンズリースの正体が、最初の人型結界刻印装置だからよ。」

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