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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.88 忘却とは前進⑥

「結界が、割れた……」


 ジューデス、魔王城前の広間。私は腰を抜かしたまま魔王ネームレスを見上げながら呟いた。ネームレスは右手をゆっくりと下ろし、私を優しく見下ろし言った。


「ルーグの子供を助けたいのね?」

「……どうして、それを?」

「ガステイルに聞いたのよ。まあ、ルーグの子供って部分は私の推測だけど。」


 ネームレスはそういうと、私の後ろにいるガステイルをじっと見つめる。彼は何も言わず俯いたままであった。私はネームレスの迫力に気圧されながらも、なんとか立ち上がって言った。


「お願いします。ルガル君救出のために貴女の力が必要なんです……」

「それだけじゃありません。」


 私の背後から、アルマストがそう言った。ネームレスはアルマストの顔を見て、興味深そうに彼女へと近付いた。


「アドネリア、いいえ、今は女王様ね……その娘かしら?名は?」

「……ええ。私はアドネリア女王陛下が三女、アルマスト・フォーゲルです。ルガル君救出作戦の前に、貴女には聞かなければならないことが複数あります。」


 アルマストはそう言いながらネームレスに近付き、対峙する。ネームレスが放つ異様な威圧感と緊張感の中、アルマストは必死に胸を張り対抗しようとしている……ように見えた。


「聞かなければならないこと?」

「ルガル君を拐った連中についてです。ネオワイズ盗賊団……そのメンバーの中に、結界術を扱う魔族の男がいます。」

「……」


 ネームレスはアルマストの言葉を聞き、何かを思い出すように少し上の方へと目をやった。しかしすぐにアルマストの目を見つめなおし、余裕の笑みを浮かべる。


「それがどうかしたのです?」

「魔王ネームレス……英雄の魔王討伐の話によれば、得意とする魔法は結界術。希少な技術である結界術を扱う魔族が二人いるんです……繋がりがない方が不自然だと思いませんか?」


 アルマストはネームレスを糾するべく詰め寄った。しかしネームレスは余裕の表情を崩すことなく言う。


「リィワン・ワンズリースと私の繋がりを暴きたい……そういうことでいいのかしら?」

「え、なぜ名前を……」

「ちょうどさっき、ここに来たのよねぇ。少し稽古をつけて追い返したわ。」

「なんですって!?」


 私たちはリィワンが先程までここに居たと知らされ、驚きの声をあげる。アルマストは目を大きく見開き、ネームレスを見つめたまま固まっていた。ネームレスはそれを見て手を口元にあてながらいたずらっぽく笑い、再び口を開いた。


「そうねぇ。そのことも含めてお話するわ……お城でね。」

「その必要はございません。今この場で……」

「いやいや、お客様を外に立たせたままだなんて……仮にも魔王を名乗る以上、それは名折れでね。特に、人間の女王の娘なんて大物が来てらっしゃるんだから、おもてなしさせてちょうだいよ。」


 ネームレスはそういうと私に背を向け、服のポケットから小さな鈴を取り出しチリチリと鳴らした。それから10秒も経つことなく、メイド服を来た黒髪長髪の魔族が魔王の隣へと現れた。


「大変お待たせいたしました。」

「シイナ、お客様よ。25年ぶりの人間のお客様ですから、丁重にね。」

「かしこまりました、魔王様。」


 ネームレスはシイナと呼ばれたメイド服の女性にそうことづけ、姿を消した。アルマストはシイナの方へと向き直り、改めて口を開いた。


「シイナさん……でいいのかしら。」

「正しくは人型結界刻印装置C-17型ですが……どうも皆さん、そのように呼んでらっしゃいます。」

「人型結界……刻印装置?」

「そちらも城内をご案内しながらお話します。ですので、魔王城へと進んでください。」


 シイナはそう言うと一礼し、踵を返しゆっくりと魔王城の門へと歩いていく。私は周囲の様子を窺うべく、アルマストやラズベリィ達へと目を向ける。彼女らはシイナを見つめて動けないでいた。シイナを警戒し続けるアルマストは、シイナを睨み私の横まで歩きながら呟いた。


「敵意がない。魔族と人間は敵対している以上、敵意がないことが一番恐ろしいのだけど。」

「ええ……実際に魔王城に乗り込んで、魔族たちに取り囲まれでもしたら……」

「いや、俺はそうは思わねぇな。」


 背後から男の声が聞こえる。私が振り向くと、抜き身の刀を担いだランがすぐ目の前に立っていた。


「うわぁ!」

「驚きすぎだろ」


 私は思わず尻もちをつく。その光景を見たアルマストは呆れたようにランを窘めた。


「貴方のような大きな方が自分の真後ろにいたらそりゃ驚くに決まっています……それで、そうは思わないとはどういうことでしょう?」

「簡単なこった……そんなことをする理由がないぜ。一目見りゃ分かるが、あの魔王ネームレスとかいう女は正真正銘のバケモンだ。わざわざ自分が下がって自分の城で部下に対処を任せる必要がなさすぎる……皆殺しにするのなら、奴自身が手を下せばすぐだっただろう。」


 ランの意見はもっともだ。おそらくアルマストもそう感じているであろうことが、彼女の表情に現れている。だが……どうしても罠の懸念がある以上、私たちは二の足を踏むことを余儀なくされていた。やがてアルマストが熟考の末、ランを見つめ言った。


「分かりました。城内へ入りましょう。ランには先頭を、ガステイル様には殿の安全管理をお願いします。ルリさんも魔力の微細な変化に気をつけるようにお願いします。」

「え!俺が先頭!?」


 こうして、一行は魔王城へと進入した。

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