Ep.110 火急の報⑥
ファプレのDランク昇格試験の日。ザイリェン郊外の街道の上を走る馬車にて、ミラとファプレは並んで揺れていた。ファプレは持参した袋の中から自作の魔道具をいくつか取り出し、念入りに整備をしていた。
「……」
そんなファプレとは対照的に、ミラは神妙な顔で依頼書を睨み続けていた。ファプレはミラの様子が気になる様子で、何度も目線が魔道具とミラを往復していた。
「そ、そういえばここ、昨日魔物退治した道だよねぇ。」
「ええ、ちょうど良かったでしょう?だからアイツにさせようと思ってたの。」
「へぇー、流石ミラちゃん。いつも頼りになるわぁ。」
「……」
ミラは再び黙り込み、依頼書を見つめていた。ファプレは自分の魔道具を仕舞い、ミラに話しかける。
「ステッキ、見てあげよっか?」
「先週見てもらったばっかじゃない。魔道具士ファプレの整備なら数年はもつでしょ?」
「えへへ、まあねぇ〜」
ファプレは照れくさそうに鼻の下を伸ばし、ニヤニヤと微笑みながらミラの肩に頭を擦り付ける。ミラは一瞬ビクリと驚いてミラの方を見るが、すぐに満更でもなさそうな顔をして手元の紙をそばに避けた。
「ツミグロに着いたら、私の知り合いの家を訪ねます。それから……恐らく、村長さんに挨拶をすることになるでしょう。そこで件の動物の死骸を見せていただくことになると思います。」
「……うん。例の病気の動物ね。」
「ええ。村に着くのも恐らくお昼をすぎるでしょうから、今日はそこまでで日が暮れるでしょう。実際に近くの山で動植物のサンプルを取ったりするのは明日以降です。」
「宿屋を使うの?」
「いいえ、ツミグロに宿屋はありません。とはいえ病気の依頼ともなると村民の方の家にあがるわけにいきませんから、テントと簡単な検査器具を用意しています。ですから、暫く野宿ですよ。」
「えぇ〜!」
ファプレは心底嫌そうに言った。ミラは呆れてため息をつきながら窘めるように言う。
「あんた、冒険者が野宿を嫌がるってどういう了見よ。」
「だって、ベッドで寝たいじゃない。テントはちょっとテンション上がるけどね。」
「全く、いつまで経っても子供ですね。」
「あっ、それ、ミラちゃんには言われたくなーい。」
「どういう意味よ!」
「だって貴女、いーっつもランと喧嘩してるじゃない。」
「そ、それは……」
ミラは突如、言葉に詰まりもじもじと俯いた。ファプレは口角を上げながらミラの顔を覗き込む。
「だ、だって……ランはもったいないわよ!あんなに強くて、それで魔道具作りも扱いも一流なんだから、もっと多くの他人のために輝ける場に出てくるべきよ。でないと……より多くの人を助けたいのに力不足で悩んでいる奴ってそんなの、ただのバカみたいじゃん。」
「そうなの?」
「そうなの!だからアイツが、私の手の届かないところから笑ってるみたいで、ムカつくってだけで……」
「ミラちゃん」
ファプレの表情はそれまでのニヤニヤとしたものから一変し、ミラの顔を真面目にまっすぐ見つめていた。ミラはそれに気付き、思わず言葉が出なくなってしまう。
「そういう考え方は良くないわ。ランはそんなこと絶対しないもの。」
「絶対?」
「そう、絶対。あいつならそんなこと言われても"は?なんで?なんか面白えのか、それ?"って言うに決まってるから。」
「……」
「それにさ、ミラちゃんはずっと誰かを助けるために頑張って、みんなを助けてきたんでしょ?そんなの、誰かと比べるものじゃないわ。何よりミラちゃん自身が苦しいだけだもん。」
ファプレはそう言うと、ミラの不安を包み込むように柔らかく微笑んだ。鋭く凝り固まったミラの顔はゆっくりとほぐれ、やがてふぅと息を吐き出して言った。
「ごめんね、ファプレ。もう大丈夫。」
「よかった。あ、ほら、ちょうど着いたところみたいだし。」
ファプレは窓の外を指さした。その先の山の麓には、木でできた柵に囲まれた小さな村が見えていた。




