Ep.106 火急の報②
魔王城の一室、魔道具でザイリェンと交信しながら作戦会議をするアルマストと魔王ネームレスを見ながら、私はふとネームレスが警戒する裏切りのことが気になり、辺りを見回した。目を輝かせるレイズ、少し眉を顰め魔道具を見上げるリッサ、腕を組みながら怪訝な表情をしているランが目に入る。私はその中から、隣で何かを疑っているような大男――魔道具士ラン・オチェルドに問いかけた。
「何か気になることがあったのかしら?」
「確信ではないが、妙な胸騒ぎがする。多分、俺たちが考えているほど上手くはいかないと思う。」
「アンタがそんなこと言うの、当たりそうで恐ろしいからやめて欲しいわね。」
「……」
私はあえておどけたように言ったつもりだったのだが、ランは険しい表情を崩そうともしなかった。その後も何度か彼の気を引こうと試みたが、成果はなかった。そして、
「どこ行くのよ!」
「すまない。忘れ物をした。」
ランはそれだけ言い残し、部屋を出て行ってしまう。ネームレスは目だけ彼の後を追うも、すぐに正面の映像のアルマストに意識を戻した。
「ラン・オチェルドの退出……そちらの準備は大丈夫そうかね?」
「えっと……」
「無論、問題はない。ランもルリもネオワイズ盗賊団の幹部と戦えるだけの力を手にしている。楔の死守という点で言うならば、これでも十二分なくらいだな。」
困惑する私を歯牙にもかけず、ネームレスははっきりとそう言い切った。私は思わず裏切り者の言及をしようとするも、ザイリェンに余計な懸念を抱かせないために何とか踏みとどまる。私はそわそわと落ち着かないまま、ネームレスと部屋のドアを交互に見つめてしまう。
「ならば良い。我々も時間が無いのでな……そろそろお暇させてもらう。」
「ええ、健闘を祈っているわ。」
「お互い様でしょう……では。」
アルマストはそういうと一礼し、通信を切断した。ネームレスは踵を返し、部屋の出口へと向かう。その途中で、私は彼女を呼び止めた。
「ネームレス……」
「その話をするには人が多すぎる……そう思わないかしら?」
「あっ……」
私はふと辺りを見回す。通信用のこの部屋には私とネームレスの他に、レイズとリッサが立っていた。私は二人を見たあと、ネームレスをじっと見つめる。
「そうね……では、こうしましょう。ルリ、貴女はそっちの二人からどっちを追い出すか決めなさい。これからの話を聞く権利を、貴女が与えるのよ。」
「は、はぁぁぁ!?」
私は思わず声をあげる。レイズとリッサは心配そうに私を見つめている。
これからの話というのはつまり、この魔王城に潜んでいるかもしれない裏切り者の話である。その話をリッサとレイズのどちらかだけにする、どっちにするかは私が選べと……つまり、どっちが裏切り者か選べと言っているようなものじゃないか!まだ1ヶ月の付き合いとはいえ、同じパーティの冒険者として共に頑張ってきた二人のどちらかが裏切り者かなど、私には選べるはずがなかった。
「む……無理よ。二人とも大事な、私の仲間だもの。」
「じゃあ、貴女が出ていくかしら?」
「……いっそ、その方が楽でいいわ。」
「バカね。そんなこと許すわけないでしょう?」
ネームレスは冷たく言い放つ。私は頭をフル回転させ、なんとかして二人を選ばずにこの場を切り抜ける術を探す。ネームレスは1歩ずつ、私を追い詰めるように歩み寄る。私は息を呑みながらそれを見つめている。二人の距離が縮まり、息も当たろうかというほどネームレスが近付いたその瞬間、
「なんだ!?」
ズドオオンと大きな地鳴りが響く。地面は暫く揺れ続け、レイズはよろめきその場にしゃがみこんでしまう。さながら地中で何かが爆発したかのようなその揺れに、私とネームレスは悪い予感がしたようで出口まで急ぎ走った。しかし、
「行かせませんよ。」
見知らぬ女が、出口を塞ぐように立っていた。私は間合いを取るべく一歩後退しながら、女に向かって大きな声で言い放つ。
「ネオワイズ盗賊団ね!」
「だとすれば、どうするつもりです?」
「下らない問答は無用……くらえっ!」
ネームレスはそう言い、地面を蹴って女に接近し拳を繰り出す。拳は女にヒットする……しかし女にダメージはなかった。
「なに!?」
「あら、魔王様は肉弾戦が苦手なのかしら?」
「……」
ネームレスは女から距離を取り、黙って拳をじっと見つめる。そして何かに気付いたように私の方へ振り返り、大きな声で叫んだ。
「罠だ!設置型の結界による罠だ!ルリ、周りで妙な魔力を発する物質を探せ!!」
「妙な魔力……って、あっ!!」
私はネームレスの声にこたえ、辺りで魔力を発するものを探す。すると、部屋の四隅に魔力の込められたコインが一つずつ、落ちているのを発見した。
「そんな……君が……」
そして私はもうひとつ見つけてしまっていた――そのコインと同質の魔力を放つ少女を。私の後方に立っていたその少女は、結界やコインと同じ魔力を発する石を持ち、冷徹な瞳で私たちを睨んでいた。
「ごめんね、ルリ。でも、お姉ちゃんの命令だから仕方ないの。」
「お手柄よリッサ。そのまま結界を維持してちょうだい。」
「はい……ジベットお姉ちゃん。」
リッサはそう言うと、石をひしと抱きしめ嬉しそうに微笑む。私は驚きのあまり、一言も発することができなかった。




