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転移したらAランク冒険者でした※ただし最低ランク  作者: 盈月
第四章 忘却とは前進、記憶とは停滞
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Ep.101 こころ なき④

「あれ、ルリも来てたのか」


 魔王城の食堂。私は魔王ネームレスからニーナの過去を聞き終わったとほぼ同時に扉が開き、廊下からランが顔を出す。ランは煩わしそうに背の低い天井を潜りながら食堂に入り、私の隣の椅子を引いた。


「やっと起きたのね。」

「いや、やりすぎだろ。あと、起きたのはもう少し前だ。」


 ランは椅子に座りながら答える。そして食器を手に取り食事を始める。


「起きてたなら何してたのよ?」

「……内緒だ。」

「なんだ、じゃあやっぱり寝てたんじゃない……いだっ!」


 私が煽るよりも早く、ランは私の太ももをつねる。図星にしては人を攻撃しすぎだとそう思いながら私が太ももを見やると、ランはそのまま人差し指を伸ばして素早く二、三回振った。


「は、え?」

「……俺も魔王(アイツ)に用があんだよ。」

「あぁ、そういう事ね。」


 私はランの出ていけというメッセージをようやく受け取り、椅子から立ち上がる。そのまま食堂の出入り口に向かって進み、


「ご馳走様でした。美味しかったわ。」


 そう言って軽く一礼し、食堂を後にした。



 食堂を出て自室に戻ってから1時間程が経った頃だった。ネームレスに渡された本を読みながら水鏡術の実践を試していると、自室のドアをノックする音が響いた。


「誰?」


 私はそう言いながらドアに近付き、少し開けて外を覗き見る。そこにはランが立っていた。


「よう、ルリ。」

「……こんな時間に何の用かしら?」

「すっとぼけてんじゃねえ、とっとと中に入れてくれよ。」

「えー……」


 私は至極めんどくさそうに悪態をつく。食堂でのやりとりからランがこうしてここに来ることは分かっていたが、それはそれとしてランを部屋にあげるかどうかは別問題だ。そのまま扉を閉めようとするが、それよりも早くランが扉を掴んだ。


「俺の持っている本の内容の共有だ。お互いにゴール地点の確認をしておくに越したことはないだろう。」

「アンタねぇ。真夜中に女子の部屋に入ろうとして、下心を疑うなっていう方が無理があるわ。」

「アホか!!誰がお前なんかに……ああ違う!そういう意味じゃない!悪かったからドアを閉めようとすんな!入れてくれぇ!!」


 私がドアに込める力を少しずつ強める中、ランは必死に私に謝罪をする。先におちょくったのは私だとはいえ流石に無礼た発言だっただろうと抗議の意味も込めた行動だったが、流石にここまで必死だと憐れに思えてくる。


「アンタ、必死すぎるでしょ。なんかもう、怖いわよ。」

「お、おまっ……急に力を抜くなぁ!」


 ドアを掴んでいた手の力を緩めると、ランは勢いよく開いたドアに振り回されるようによろめいた。私はそれを見て吹き出すように笑いながら、ランを部屋に進むように促した。そしてランをテーブルの前のソファに座らせ、私はもう1つのサイドソファに座った。


「そういえばアンタさ、よほどいい本を貰ったみたいじゃん。何貰ったの?」

「……」

「無視?」

「……あ、ああいや。魔道具士向けの傀儡魔法の応用法をまとめた本だよ。傀儡魔法はレベルの高い人間の使い手がなかなかいないんだ。だからその方策を書いた本は結構貴重でさ。」

「傀儡魔法ねぇ……」


 私は頬杖をつきながらランを横目で見つめていた。ランが何かを隠しているようにそわそわしているのが気にはなるが、コチョウの扱いを考えるランにとっては確かに一番必要となりそうな本だなと、私は一人納得していた。


「ルリはどうだったんだ?」

「私?私のは"水鏡術"ってやつのやり方の本だよ。組手で魔王が言ってた、魔力の発散を伴わない魔法、ってやつ?」

「あー……。一応俺も前衛で戦うことになるだろうし、読んでおいた方がいいんだろうな、それ。」

「ふーん……じゃあ、読みに来る条件つけちゃおっかな。」

「は?」


 私はそう言い、いたずらっぽく笑った。別に条件なんかつける理由はないが……私はランの秘密を暴くためにあえてそう言ったのである。ランは表情を歪め、警戒する様子を見せた。


「別に、条件っていうほど大したもんじゃないけど。今どうしてもアンタのことで気になることがあってさ。」

「……なんだよ。」

「アンタ、もう一冊持ってない?」

「……!!」


 私の追及に、ランは大きく目を見開いて黙り込んだ。怯んだランに私は追撃をかけるべく強い眼光で彼を睨みつける。やがてランは観念したかのように目を瞑り、大きく息を吐いた。


「見てたのか?」

「いいや。あなたの言葉を思い返して推理しただけ。」

「どういうことだよ。」

「まず、あなたは本の数をここまで一度も言及しなかった。これは自分が二冊持っていることを、自分のタイミングで開示して話を進めたいがため。次に、あなたは本の共有って言ってたけど、私が傀儡魔法を共有したって意味がない……つまり、本当にあなたが共有したい本が別にある。そして、私の質問への反応にテンポが遅れたこと。あなたはそこで一瞬、どちらの本の話か迷いが生まれていた。」

「……」

「だからあなたはもう一冊の話をしにここに来た。なんであなただけ二冊あるのかは知らないけど。」


 まあ、おおかたあの図書室でこっそり盗んだってとこだろう……とは言わなかったが、ランの表情がそうであることを語るように目まぐるしく変化する。そして苦虫を噛み潰したような顔をしながら、ランは一冊の本を取り出した。


「何から何まで正解だよ。だからお前にしか声をかけてないんだ。」

「これ……『解禁法呪』って書いてあるけど、そんな名前の本を勝手に持ち出して読んで大丈夫なの?」

「大丈夫だ……」


 ランは虚ろな目で俯きながらそう呟く。とはいえその仰々しい名前から想像される本の特徴が、どうしても抵抗感を生む。私が恐る恐る本を見つめていると、ランは再び口を開いた。そして、その内容で、私は彼がこの場に現れた目的を知ることになった。


「『解禁法呪』は、古今東西の呪い、マジックアイテムの解除方法……そして、魔法生物を用いた呪法の解呪方法まで載っている。」

「……まさか!」

「魔法少女ホワイトステラ……彼女の中から、"敗黒"を殺してやりたい。アイツが魔王城に来るかどうかは分からんが、来たときはルリにも協力して欲しい。それを伝えに来た。」


 ランはそういうと、俯いて唇を噛み拳をぎりぎりと握りしめる。小刻みに震えるその巨体を見ながら、私はゴクリと固唾を飲み込んだ。

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