旅する者達
…この世界には旅する者達が居る。死神のエメルダが現世を旅したのをきっかけに、他の死神達も現世を旅するようになった。
その中の一人、ショールは故郷を離れて旅していた。誰も居ない荒地を進んでいる。ショールは、両親と同じように立派な死神になろうと頑張っていた。
ショールは首に巻きついた蛇に話し掛けた。
「エル、調子はどう?」
「まずまずだね。」
蛇はショールと同じ言葉でそう言った。どうやら、このエルという蛇は喋るらしい。
「ルイザもボルトも昴様の命令で戦いに出てしまった。」
「そうなんだね」
ルイザとボルトというのは、ショールの両親だ。二人は、ショールが旅している間に戦いに出てしまった。それが終わるまで、ショールは帰れない。
「この荒地、どこまで続いているんだろ…。」
ずっと歩いてたショールは疲れ切っていた。ショールはその場にしゃがみ、目を閉じた。すると、ショールの身体から半透明のものが抜け出し、ショールの身体とエルを乗せて進んだ。
ショールは死神の中でも『奇形』と呼ばれる存在だった。『奇形』というのは、死神が本来持つもの以外の特徴を持った存在で、ショールの場合は『幽離』、幽体離脱する力がある。ショールが眠りにつくと身体から魂の一部が抜け出す。幽体は質量変化が可能で、壁をすり抜ける事も、何かを乗せて運ぶのもできる。動けない身体を乗せれば眠りながら移動も可能だ。
「ショール、どこまでこれで進むんだ?」
幽体のショールは何も言わない。この姿では話せないのだ。だが、エルの声は聞こえているようで、幽体にある目が頷いている。
「誰も居なかったらいいけどなぁ、この移動だと目立つぞ。」
ショールを知らない人が見れば、眠っている少女が宙に浮いてるように見えるのだ。これは目立たない訳がない。エルは誰か来ないかハラハラしながらショールを見ていた。
その時、前から何者かが近づいて来た。エルが叫ぶと、幽体は身体に戻り、ショールは目を覚ました。すると、少年は一瞬驚く。
「僕はアゲート、ひょっとして君も旅してるの?」
アゲートと名乗る少年はショールと同じような気配を発していた。どうやら、彼も死神らしい。
「私はショール、私達一緒だね。」
ショールはアゲートと同じ道を歩く事にした。
…同じ頃、別の地では幼い少女と、青年が二人で歩いていた。二人とも疲れ切っている。
「ペタライト…。」
「シリカさん、どうされましたか?」
「つかれた…。」
シリカは水晶体の羽根を畳んでその場に倒れた。それをペタライトは抱え上げる。
「幾ら戦場に呼ばれたからといって、どうして見知らぬ僕に大切な娘を託したのでしょうか…。」
ペタライトは現世を旅する直前に会ったシリカの両親を思い出していた。戦いから娘を逃がす為とはいえ、何故見知らぬ自分に託したのか、ペタライトはその心がしれなかった。
「ペタライト…。」
「大丈夫ですよ、シリカさんは僕が守りますからね。」
ペタライトを心配そうに見つめるシリカを、ペタライトは優しくなだめた。そして、既に力尽きた足でシリカを少しでも安全な場所に運ぼうと、必死に歩いた。