↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/75

白銀の村


 …現世(げんせ)と鏡写(かがみうつ)しの冥界(めいかい)には、現世(げんせ)と同(おな)じように様々(さまざま)な世界(せかい)が広(ひろ)がっている。豊(ゆた)かな森林(しんりん)、雨(あめ)が降(ふ)らない砂漠(さばく)、それから極寒(ごっかん)の大地(だいち)が広(ひろ)がる所(ところ)もある。


 …隕石(いんせき)が落(お)ちた荒地(あれち)から幾(いく)つもの山(やま)を超(こ)えた先(さき)に、『白銀(はくぎん)の村(むら)』と呼(よ)ばれる村(むら)があった。そこには、ソルベという死神(しにがみ)が暮(く)らしていた。彼女(かのじょ)は、学校(がっこう)に通(かよ)いながらアイスクリーム屋(や)をしている。今(いま)まで食文化(しょくぶんか)が乏(とぼ)しかった冥界(めいかい)だが、現世(げんせ)の影響(えいきょう)を受(う)け、食(た)べ物(もの)の力(ちから)を持(も)った死神(しにがみ)も産(う)まれるようになった。



 その中(なか)の一人(ひとり)でアイスクリームの死神(しにがみ)のソルベは、アイスクリームを『白銀(はくぎん)の村(むら)』で売(う)っていた。アイスクリームは子供達(こどもたち)に好評(こうひょう)で、ソルベは人気者(にんきもの)だった。



 ソルベの両親(りょうしん)と祖父母(そふぼ)は、昴(すばる)の命(めい)で戦場(せんじょう)に駆(か)り出(だ)されていた。子供(こども)のソルベは村(むら)に帰(かえ)って来(く)るのを待(ま)っている。アイスクリームの原料(げんりょう)となる砂糖(さとう)や果物(くだもの)も、船(ふね)の便(びん)が少(すく)なくなった為(ため)に減(へ)っていた。その為(ため)、ソルベはアイスクリーム屋(や)をしばらく閉(し)めていた。


 そんな時(とき)だった。アイスクリーム屋(や)の扉(とびら)を誰(だれ)かがノックした。一体(いったい)誰(だれ)が訪(たず)ねたのだろうとソルベが開(あ)けると、そこには雪女(ゆきおんな)と雪男(ゆきおとこ)、それからソルベと同(おな)い年(どし)くらいの小(ちい)さな男(おとこ)の子(こ)が立(た)っていた。

「すみません、しばらくここに居(い)させてもらえませんか?」

そう言(い)ったのは雪女(ゆきおんな)だった。彼女(かのじょ)は頭(あたま)に雪(ゆき)うさぎを乗(の)せている。

「一体(いったい)どうしたのですか?」

ソルベは三人(さんにん)を店(みせ)に招(まね)き入(い)れた。客(きゃく)も商品(しょうひん)も無(な)い店(みせ)はしんとしていた。



 雪女(ゆきおんな)は雪乃(ゆきの)、雪男(ゆきおとこ)は雪男(ゆきお)、子供(こども)は雪太(ゆきた)と名乗(なの)った。雪太(ゆきた)は二人(ふたり)の息子(むすこ)で、妖(あやかし)と怪(かい)の間(あい)の子(こ)になる。

 雪乃(ゆきの)は、無口(むくち)な雪男(ゆきお)に代(か)わって話(はな)し出(だ)した。

「私達(わたしたち)が暮(く)らしていた雪山(ゆきやま)が戦場(せんじょう)になってね。そこから逃(に)げてきたの。」

「ここに居(い)れば戦(たたか)いに巻(ま)き込(こ)まれないと思(おも)います。」

ソルベは食料庫(しょくりょうこ)にあるシカの怪(かい)の肉(にく)を持(も)って来(き)た。それを焼(や)いて持(も)って来(く)る。普段(ふだん)から一人(ひとり)で居(い)るソルベは、料理(りょうり)も手馴(てな)れていた。

「ソルベちゃん、お父(とう)さんとお母(かあ)さんは?」

「昴様(すばるさま)のご命令(めいれい)で戦(たたか)いに出(で)てます。しばらく帰(かえ)って来(き)ません。」

ソルベは三人(さんにん)にスープを出(だ)そうとしていたが、温(あたた)かくするか冷(つめ)たくするか悩(なや)んでいた。そんな時(とき)、雪太(ゆきた)が小声(こごえ)でこう言(い)った。

「寒(さむ)い…」

「ごめんごめん、部屋(へや)暖(あたた)めるね。」

ソルベがストーブに火(ひ)を点(つ)けると、店全体(みせぜんたい)が暖(あたた)まった。後(あと)は温(あたた)かいスープを持(も)って来(こ)ようとソルベが立(た)ち上(あ)がったその時(とき)、雪太(ゆきた)がまたしても小声(こごえ)で言(い)った。

「暑(あつ)いよ…。」

ソルベの横(よこ)に居(い)た雪太(ゆきた)の身体(からだ)が熱(ねつ)で解(と)けていた。

「大変(たいへん)!解(と)けてる!」

ソルベは水(みず)になった雪太(ゆきた)を器(うつわ)に集(あつ)めた。そして外(そと)に出(で)て人型(ひとがた)に穴(あな)を掘(ほ)り、雪太(ゆきた)を流(なが)し込(こ)む。すると、雪太(ゆきた)は元(もと)に戻(もど)った。

「ありがとう…。」

外(そと)に出(で)た雪太(ゆきた)はまたしても寒(さむ)がっていた。

「僕(ぼく)は寒(さむ)がりだけど、暑(あつ)いのもだめなんだ。この身体(からだ)だと解(と)けちゃうから…、だから、解(と)けない身体(からだ)が欲(ほ)しい。」

雪太(ゆきた)の願(ねが)いは切実(せつじつ)なものだった。だが、ソルベはそれを叶(かな)える手段(しゅだん)が分(わ)からない。

 ソルベは、雪太(ゆきた)の頭(あたま)にあった笠(かさ)を深(ふか)く被(かぶ)らせ、背中(せなか)を支(ささ)えながら店(みせ)に戻(もど)った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。