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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第三章 会社(アクティム・アンド・ヘールデ・トレーディング・カンパニー)
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◇07 鉄竜 鉄竜(アイアン・ドラゴンズ)

 【ツァジン家領北東部・ズゥアレシュ・騎士館】



 護衛騎士ガーズとメルジヴァク・ツァジンの使用人メイドカーナック・ネブルジェシを引き連れて騎士館に戻ると、従僕メイド達の顔は強張っていた。


 「また新しい女を連れてきた」


 イルチが俺を睨みつける。


 「紹介しよう。メルジヴァク・ツァジン様の使用人メイドのカーナック・ネブルジェシだ」

 「俺達と共にノイシェーハウまで旅をして貰う」


 「アクティム様。私たちはどのように彼女に接すればいいでしょうか」


 当然の様にヴァルクミューレが聞いてくる。


 「彼女は貿易の為に、共に旅をする」

 「使用人メイドの仕事をやらせるつもりはない。ただし彼女が言い出した場合はその限りではない」

 「俺の近いところに置いておくが、護衛騎士ガーズの様な存在だ」

 「カーナックには色々と君たちに対してやって貰う事がある」


 まだよくわからなさそうな顔をしているヴァルクミューレから、カーナックに向き直る。


 「彼女たちに盛大に馬油を使ってやってくれ」


 「かしこまりました」


 優雅に膝を折る。

 なんだか従僕メイド使用人メイド同士、何か火花が散っているようだった。


 「フロリアン。朝食は済ませたか?」


 「まだです。アクティム様」


 困ったような顔をするフロリアンが一歩前に出る。


 「そうか。待たせたな。一緒に朝食を採ろう」

 「カーナックは旅支度を整えてここに集合だ」

 「さぁ、フロリアン案内してくれ」


 「かしこまりました。アクティム様」


 玄関広間エントランス・ホールを見ると出発の準備は整っているようだった。





 フロリアンを伴って食堂ダイニングルームへ行くと、厨房では料理人シェフのブルンス・ペルレスハイマーが厨房キッチンが俺達の食事を用意していた。

 洗濯従僕ランドリー・メイドのマイェナー・クルフタ―がテーブルの前で椅子を引いて待っている。


 騎士たちが食事を採るこの広い食堂ダイニングルームは俺達の貸しきりになっていた。

 武骨な作りのこの食堂ダイニングルームも、従僕メイドとテーブルに敷かれたクロスで華やかになる。


 「ありがとう。マイェナーはもう朝食は採ったのか?」


 「はい。お先に頂戴いたしました。アクティム様」


 俺が腰を下げるのに合わせて、椅子が用意された。

 フロリアンは戸惑った様に俺の向かいに立っている。

 俺は手を差し出すと、ゆっくりと座った。


 そしてテューレルツが食事を運んでくる。

 きちんと二人分。

 そして俺達は朝食を採る。

 

 やはり、フロリアンの手と髪を見ると、手入れをしていても痛んでいるのがわかる。


 「アクティム様。やはり気になるのでしょうか?」


 フロリアンは両手をテーブルの下に隠す。


 「あぁ。すまない。無遠慮な視線をぶつけてしまった」

 「主人の我儘だと思ってくれ、後でフロリアンに渡すものがある」

 「それで、フロリアンの悩みが一つ減ればなと思って」


 フロリアンはまだ悲しそうな顔をしていた。


 「俺が見るから余計に気になるんだよな」

 「すまなかった、このおいしい食事を楽しもう」


 「はい」


 俺はこの脱出行の苦労はなかったか? とかこんな中清潔さを保っている事を素直に称賛したりして、朝食を終えた。


 食後のお茶を頂いているところで、応接従僕パーラー・メイドのテューレルツ・マネが顔を出す。


 「お食事中申し訳ございません、アクティム様」

 「会社カンパニーの方がお見えです」

 「お待たせいたしましょうか」


 「いや、構わないよ。食堂ダイニングルームである事を詫びて、連れて来てくれ」

 「トリル。また人数分のお茶を用意してくれないか?」

 「フロリアン。また話を聞かせてくれ」


 「アクティム様。お食事に招いてくださってありがとうございました」


 「また一緒に食べよう」


 フロリアンは急いで席を立つと、厨房キッチンへと向かった。

 本来の仕事、皿洗い従僕(スカラリー・メイド)に戻るのだろう。

 静かに手早くマイェナーが食器を下げていく。


 俺はお茶を飲みながら待っていると、食堂ダイニングルームから出ていったテューレルツが戻ってきた。

 後ろには二人の男がいる。


 「おはようございます若旦那」


 絹の上着を着た太った中年男が頭を下げてくる。

 そして後ろの男も同じように俺に挨拶してきた。

 あの男は確か【母さん】のところで打ち合わせに参加した王都ゴールドキャッスル副支店長の……。


 「座らせて貰いますよ」


 支社長が自分で腰かけると、後ろの顔に傷があるプシャノボも座る。


 「まずはお礼を言わせてもらうよ」

 「支店長、プシャノボ。ありがとう」


 俺は半分腰を上げると、2人と握手した。

 2人は差し出された手に戸惑ったが、意外と違和感なく握り返してきた。


 「いやー、若旦那の発注にとても時間が足りないと思いましたが、これだけの大きな金を一度に使う機会なんてそうそうありませんからね」

 「やりがいはありましたよ」


 ツァジン支店長がその太った頬を揺らして笑う。

 俺は副支店長プシャノボの顔を見た。


 「私は若旦那部門は初めてですからね、いい勉強になりましたよ」

 「これから先、若旦那の水先案内人を勤めさせていただきます」

 「宜しくお願いいたします」


 「ノイシェーハウまでの旅、宜しく頼むよ」


 ツァジン支店長が立ち上がる。


 「では若旦那。そろそろ出発としましょう」


 俺達は玄関広間エントランス・ホールに出た。

 フロリアンもカーナックもこの短時間で用事をすませ、集合していた。


 「さぁみんな。行こうか」


 俺達は馬車に乗り込んだ。

 旅は新しい段階に入る。



 ※



 【ツァジン家領北東部・ズゥアレシュ】



 ズゥアレシュフォートを出て、ズゥアレシュの街へ向かう。

 そのまま街を横切って砂礫砂漠へ出ると、その砂漠の中にぽつんと大きな倉庫群とやたら長い建物が見えた。


 そして沸き上がり続ける黒煙。

 街が燃えるように見えた黒煙を吐き出す正体は、この建物の向こうにあるようだった。

 倉庫の手前には石炭が山と積まれ、その手前には【うたうもの(シンガー)】と俺の中隊を運んできた馬車が置かれていた。

 馬車から吐き出される人は次々と倉庫群の向こうへ吸い込まれて行く。

 それ以外にも会社カンパニーに雇われた人間たちも忙しそうに動いている。


 俺達も馬車のたまり場で下車すると、ツァジン支社長の案内で建物へ向かって歩き始めた。

 建物が多くあるとはいえ、砂礫砂漠の真ん中を歩くのは一抹の心細さを覚える。

 自然とイルチとレディ=マホが俺の傍に寄ってきた。


 それとは対照的に従僕メイド護衛騎士ガーズはコルネスティとヌワを除いて楽しそうだった。

 良く見ると中隊の兵も無駄話に花が咲いて浮かれている。

 ツァジン支社長とプシャノボも意地の悪そうな笑みを浮かべている。


 この差は一体なんだろうか。

 鉄道を知っている者と、知らない者の差なのだろうか。


 倉庫群の間に入った時、重低音が無数に響いた。

 イルチが飛び上がって俺に抱き着いてくる。

 レディ=マホも強く俺に身を寄せてきた。

 俺も何だか正体がわからない。


 しかし護衛騎士ガーズの余裕を見れば、危険はないのだろう。

 そっとテューレルツも俺の背中に身を押し付けてくる。

 別に驚いていないだろ? テューレルツ。

 テューレルツの喉が鳴っていた。


 「ご主人様マイマスター……」

 「ブォォォォォって言いました。ブォォォォォって言いました」


 見るとイルチとレディ=マホは羽毛を逆立たせている。


 「お嬢様方、大丈夫ですよ」


 ツァジン支社長が邪悪な笑みを浮かべる。

 こいつも元盗賊か何かなのだろう。


 そして導かれるままに倉庫群を抜けると視界が開けた。


 「「おお」」


 みんなの声が重なる。

 そしてイルチと俺は声を同時に漏らした。


 「ドラゴン……」

 「エスエル……」


 白い蒸気と黒煙を吐き出す、地を這う車両。

 それは鉄の塊で出来ていた。



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 次回 鉄竜 蒸気機関


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