表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第三章 会社(アクティム・アンド・ヘールデ・トレーディング・カンパニー)
93/212

◇02 ツァジン家 ツァジン家当主(ロード・オブ・パジン)


 【ツァジン家領北東部・ズゥアレシュ】



 葬儀が終わるまで俺とイルチは、砂漠と星空に包まれて過ごした。

 涙が枯れ果てるには短い時間だったが、何かが流れ出て代わりに何かがイルチから流れ込んできた。


 葬儀が終わったのだろう。

 ツァジン家の領主を先頭に、街から外れた砂礫砂漠に立つ俺の元にみんな集まる。


 「ヴァシュリンガー殿」


 満天の星空に照らされて青年が進み出てくる。

 幅広の布でゆったりと体を覆っている。

 青みがかった世界では、白の布も青に見える。とすると黒に見える布は真紅なのかもしれない。


 銀色の髪は長く、涼やかな顔をしていた。

 こんな夜空では女と間違うかもしれない。

 しかし体つきは良く鍛えられた男の影だ。


 「ツァジン様。感謝いたします」


 俺は素直に頭を下げた。

 当たり障りのない呼び方で感謝を告げる。

 ツァジン家の青年は大げさに両手を広げた。


 「本当はヴァシュリンガー殿の出迎えには父が来るべきなのでしょうが、動けない体では致し方ない」

 「どうか許してほしい」


 俺はなんと返していいかわからず、無言で頭を下げる。

 何といっても俺は基本的な情報や記憶さえない。

 どうやら会った事はあるようだ。

 だとすると警戒しなければならない。


 「ヴァシュリンガー殿を歓迎して、遅い晩餐に誘いたいところだが……」


 俺の両肩に手が置かれた。


 「あの嘆きを見ては誘う事が出来ない」


 領主がこんなにも気さくなのは、俺がそれほどの重要人物か親密なのか。

 それとも思いのほか優しい青年なのか。


 いや、それはない。

 俺が貴族の末席にいるからこその優しさなのかもしれない。

 俺はそれを当然と思うまでこの世界の人間になっている。


 「出発は明日にされるといいでしょう」

 「今日このツァジンに到着されたばかりです」

 「貴方の会社カンパニーもそのつもりでしょう」

 「旅はまだ続きます」


 この青年は何を焦っているのだろうか。

 俺の胸の中に警戒も文字が浮かぶ。

 その俺の臭いを察したのか、青年が肩をすくめる。


 「私もツァジンの当主代理を務めております」

 「どうしても言わなければならない事は、ヴァシュリンガー殿がどのような状態でも言わなければならない」

 「素通りされては困るのです」


 そういう事か。

 俺から何かしら利益を引き出さなければならない。


 敵ではないが、心を許せる相手でもない。

 一つわかる事がある。

 俺達が長く留まれば留まる程、ノイシェーハウ家が不利になる。


 俺達はノイシェーハウ家にとって人質と同じになる。

 出来るだけ早くノイシェーハウ領に戻らなければならない。

 それがはっきりした。


 「わかりました。宜しくお願いいたします」

 「私も支社の人間と話もしなければなりませんし」


 青年の顔に喜色が広がる。


 「では我がズゥアレシュフォートを使って下さい」

 「何分小さな領家ですので、全員に部屋を宛がう事は出来ませんが、夜露を凌ぐ事くらいは出来ます」

 「すでに何日も派遣軍とヴァシュリンガー殿の領民は滞在しています」


 青年は振り返ると、供の者に指を鳴らして指示を出す。


 「後で案内させますが、派遣軍は中庭ベイリーに、領民は納屋と門衛館それぞれを使ってます」

 「ヴァシュリンガー殿とお付きの人間は騎士館をお使いください」


 「お言葉に甘えます」


 話せば話すほどこの青年がわかる。

 軽薄だ。それか何か裏があるのか。薄い。

 深入りしない方がいいと感じた。


 「明朝会談といたしましょう」

 「出発があると思いますので早朝となりますが、人を遣ります」


 「感謝いたします」


 青年は機嫌良さそうに、俺から去って行った。





 「ご主人様マイロード

 「アクティム様」

 「ご主人様マイマスター

 「ヴァシュリンガー様」


 ツァジンの青年が俺の元から去ると一斉に声をかけられた。

 見ると俺に声をかけたのは護衛騎士ガーズのリンヴェッカー、中隊長のホリオン、レディ=マホ、そして従僕メイド家令ハウスキーパーのヴァルクミューレだった。


 「ただ今帰り、痛てっ!」


 不意にイルチに手を噛まれて、挨拶が途切れる。

 イルチは俺を離れるとレディ=マホの影に隠れた。

 そういえばツァジンの青年と話している時も、イルチの頭を抱き寄せたままだった事を思い出す。


 レディ=マホの影からイルチが睨んでいる。


 「ご無事で何よりでした」


 ヴァルクミューレが俺の両手を掴んで、安堵してくれた。

 そしてイルチに噛まれた手を見ている。


 「大丈夫だ」

 「皆も、よくこの脱出行に耐えてくれた」

 「無事で本当によかった」


 全員の顔を見回す。

 そしてリンヴェッカーを見た。


 「本当にありがとう」


 リンヴェッカーが神妙な顔をしている。


 「ご主人様マイロード。お悔やみを申し上げます」

 「我々で出来る事がありましたら、何でも仰って下さい」


 俺と赤子の事を言っているのだろう。

 ついさっきの事だ。

 どうしても顔が歪んでしまう。

 しかし振る舞いは、俺の感情を出さないようにする。


 「これでお前達の気持ちの一端でも知る事が出来ただろうか」

 「近しい者を失う気持ちを……」


 ダメだ。

 声が震えてしまった。


 俺にはやらなければならない事が無数にある。

 直ぐに指示を出す。


 「シュール。支社長はどうしている?」


 リンヴェッカーの後ろからシュールが姿を現す。


 「ご主人様マイロードを気遣って、私と打ち合わせをしています」

 「明日、挨拶出来ると思います」


 シュールらしい直接的な言い方だ。

 俺の人目をはばからぬあの振る舞いは、周りの人間全員に影響を与えた。

 改めて自分の立場を再認識する。


 「シュール。助かる、ありがとう」

 「引き続き宜しく頼む」


 シュールの素直な笑顔が返って来る。


 「任せてください」


 俺は皆に向き直った。

 日が暮れて大分時間が経つ。

 これから食事もしなければならない。

 これ以上俺の感傷と言動に付き合わせてはならない。


 「リンヴェッカー、ホリオン、ヴァルクミューレ。俺の馬車で報告してくれ」

 「ズゥアレシュフォートへ向かおう」


 その場を解散して、俺達は馬車へ向かった。



----------------------------------------------------------------


 次回 報告


----------------------------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ