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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
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◇47 命 命(ライフ)


 【ツァジン家領北東部 ヴァシュリンガー分隊】


 

 御者台の長椅子に着地した俺は、馬車の動きで態勢を崩して右脚が床に落ちる。

 赤子を守る為に体を回転させたが、態勢を崩してそのまま馬車の前方に背中から落ちそうになる。


 「ご主人様マイロード!」


 コルネスティが右手を伸ばして俺の麻の服を掴む。


 「ぐぉぉぉぉぉぉ」


 コルネスティが左手で手綱を操り、右手で俺の服を掴み、歯を食いしばって唸り声を上げる。

 俺の体重に支えられて、コルネスティも引きづられて腰を浮かす。

 背中の直ぐ後ろは疾走する馬の尻がある。

 このまま落ちれば馬に蹴られた上に、疾走する馬車に巻き込まれる。


 赤子を巻き添えにする訳にはいかない。

 俺はコルネスティに赤子を預ける決心をする。


 「この子を魔法医のところへ!」


 「まだまだぁ!」


 こめかみに血管を浮き上がらせて、コルネスティが俺を引き上げる。

 麻の服の縫製が悲鳴をあげて破れ始める。

 俺も御者台のへりに足が掛けられるようになり、片足で床を支えて片足でへりを押し出す。


 「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 コルネスティの悲鳴にも似た声を聴きながら、俺は御者台に戻る事が出来た。

 俺は御者台の長椅子に座って、荒い息をする。

 コルネスティも荒い息をしていた。


 「ありがとうコルネスティ」

 「助かった」


 見るとコルネスティの右手の爪は割れて血を流していた。


 「支社についたら、お前の手も見て貰おう」

 「俺が御者を変わる」


 赤子を片腕に抱きなおし手綱を受け取ろうとするが、コルネスティは正面を向いたままだった。


 「ご主人様マイロード

 「私は貴方にお詫びしなければなりません」


 「気にするな」

 「俺も今の命拾いを気にしない」

 「それでいいんじゃないか?」


 「ですが……」


 「話は後だコルネスティ。馬車を急いで支社へ向かわせろ」

 「全力でだ!」


 「わかりました。ご主人様マイロード!」


 コルネスティも思考を切り替える。

 馬車は俺の気持ちと共に駆けた。


 腕の中にいるとても軽い赤子の顔を見つめて願う。

 泣きそうになりながら願う。

 もう少しだ。魔法医がいる。もう少しだ。


 「だから……頑張ってくれ」



 ※



 【ツァジン家領北東部 ヴァシュリンガー分隊】



 荒れ狂う風のように走る馬車の乗って走る。

 やがて遠めに平坦な地形の中に、高さのある建造物の塊が見えだした。


 「街か!」


 「はい。あれが合流地点のツァジン家領のズゥアレシュの街になります」

 「あそこに会社カンパニーのツァジン支社があります」

 「みんな無事です。ご主人様マイロードをお待ちしております」


 街はまるで燃えているかのように、上空が黒く煙っている。

 そして王の街道が曲がったのに合わせて視線がずれ、ズゥアレシュの街と丘を利用した城が分離する。


 コルネスティが導く馬車はそのまま、街へ入って行った。


 土壁を利用した建物は、色を礫砂漠と同一にしている。

 王の街道の側面には、途切れ途切れに騎士が率いる部隊が整列している。

 そして建物の数以上にいると思われる平民の観衆。

 俺一人に随分な歓迎の仕方だった。


 目指す場所はどこだ。

 街の中でひときわの大きさがある建物の周囲に、きらびやかな騎士が並んでいた。

 それを俺は指さす。


 「あそこにツァジン家の当主がいるのか?」


 コルネスティが街道上をせわしなく視線を動かしながら答える。

 ここで人を轢いたら、更に時間がかかる。


 「はい」

 「一番大きな建物が支社です。その前で皆が待っています」


 「では、そこまで速度を緩めるな」


 整列している騎士が、ツァジン家の部隊からホリオン率いるノイシェーハウの中隊と【うたうもの(シンガー)】に変わる。

 俺が率いるべき者たちの歓声が聞こえるが、それに答える事もなく駆け抜ける。


 そして道を塞ぐ一段の前で、コルネスティが馬車を止める。

 目の前には見慣れぬ騎士が壁を作っていた。

 俺が乗る馬車の速度が落ちない事に警戒したのだろう。


 俺は馬車を飛び降りると声を上げる。


 「魔法医は! 魔法医はどこにいる」

 「魔法医はどこだ!!」


 ツァジン家の騎士の壁が割れて、俺の護衛騎士ガーズとホリオン、そして見慣れぬ騎士に守られた身なりのいい青年が歩み出てくる。


 「ご主人様マイロード

 「ヴァシュリンガー殿。その姿は……」


 様々な声をかけられるが無視する。


 「魔法医はどこにいる!!」

 「頼む。この子が! この子を助けてくれ!」

 「お願いだ。お願いだぁ!」


 俺はひざまづいて、頭を巡らす。

 魔法医のローブを着た人間はどこにいる。

 どこにいる!


 ツァジン家の護衛騎士ガーズに守られた青年が後ろを見て、手を振る。

 俺はその動きに期待した。


 ツァジン家の護衛騎士ガーズの脇をすり抜けて、魔法医のローブを着た2人組が出てくる。

 魔法医がここへ来るのも待たずに、跳ね立ち上がると駆け寄った。


 「頼む。この赤子を診てくれ」

 「今日朝から反応がない!」

 「頼む。頼むからこの子を治してくれ!!」


 俺の勢いに押されて、魔法医の一人が赤子を受け取る。

 俺は膝をついて石畳に額を付けた。


 「頼む!」

 「この子を救ってくれ!」


 俺と魔法医を囲む人垣が距離を開ける。

 そして赤子が王の街道の上に寝かされる。


 いつか見た光景と同じ儀式。

 後ろの魔法医が長い杖を地面に立てて光を生み出す。

 そして前にいる魔法医が短い杖を赤子に当てる。

 あの不思議な光が辺りと赤子を包む。


 俺は地面に額を付けたまま横を向いてその様子を見る。

 光の波が赤子の上へ這うように集まる。


 「ご主人様マイロード。こちらへ」


 何者かに脇を抱え上げられる。

 足元を見ると、赤子に集まるべき光が俺の足元にも僅かに集まっている。

 急いで光が波打つ範囲から外に出る。


 「もう大丈夫だ。もう大丈夫だぞ!」

 「助かるからな。元気よく泣けるからな!」

 「もう家畜の乳は飲まなくていいからな!」


 俺は誰かに両脇を支えられて、必死に赤子に呼びかける。

 そして光が全て赤子に吸い込まれていく。


 どうだ。

 どうなんだ。

 さぁ。さぁ。


 これで。これで魔法のチカラが全て赤子に注ぎ込まれた筈だ。

 さぁ。さぁ。さぁ!


 赤子は……。


 赤子が……。


 どういう事だ?


 泣かないじゃないか……。


 「赤子は?」


 俺は恐る恐る魔法医を見る。

 前に立つ魔法医は地面の赤子を抱き上げる。


 そして首を振った。


 「死んでいる者を助ける事は、魔法でも出来ません」


 「待て、待て! 生きている、この子はまだ生きている!」

 「そんな筈はない! そんな筈はないんだ!」


 俺は赤子お抱く魔法医の胸元に掴みかかる。


 「見ろ。良く見ろ。まだ生きている、まだ生きている」


 赤子の顔にかかるおくるみをどけてやる。

 寝ているようじゃないか。

 これは勘違いする筈だ。

 なぁ。そうだろ?


 「もう一度やってくれ。もう一度やってくれ!」


 「残念ですが……」


 赤子が俺の腕の中に返される。


 「そんな……」

 「そんな事って……」

 「ここまで頑張ったんだぞ、ここまで来たんだぞ」

 「おい……おい! おい! 泣いてくれ! 泣いてくれ!」


 ダメだ。ダメだ。

 ここであきらめたらだめだ。


 あきらめなかったから、あの撤退支援戦闘もやれたんじゃないか。

 みんなのチカラを借りれたから、あの任務を達成できたんじゃないか。

 そうだ。魔法医がダメなら乳だ。

 人間の乳だ。

 家畜の乳じゃなく、人間の乳だ。


 「誰か。誰か乳を分けてくれないか?」

 「乳があれば起きるかもしれない」

 「お腹が空いているんだ」

 「誰かいないか……」


 人垣を見回す。

 世界が回る。ぐるぐる世界が回る。


 「あぁ……。あぁ……」


 膝を付く。

 足にチカラが入らない。


 「大丈夫。大丈夫だよ」


 俺は……。

 俺は赤子を……。


 「こんなにしっかり俺の腕の中にいるじゃないか」


 俺は赤子を殺してしまった……。


 「なぁ。また泣くだろ?」

 「そうだろ?」


 声も出ない。

 涙も出ない。

 でも俺の魂は引き裂かれて体中から抜けていった。




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 第二章 戦勝記念式典 完

 次回 第三章 会社 呪詛


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第二章完結となりました。ここまで読んで下さり誠にありがとうございました。

新しい物語の展開となった第二章。主人公にとってはとてつもない試練となりました。

皆さんが読んで下さるお陰で、ひるむことなく書こうと思った事をかけました。

まだまだ書いていきたいので宜しくお願いいたします。

                       雨露口 小梅

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