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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
89/212

◇45 命 突破(ブレイク・スルー)


 【共和国 東方軍集団管区・タラソナ地方 ミク大佐】


 私の予想は外れた。

 相手の連隊を各個撃破するのに1日はかかると思ったが、実際は半日もかからなかった。


 最初に横隊の中央を2段突破して反対側に出た後、左翼を背後から襲う頃には、バラバラに追撃して追撃してきた左翼は、右翼の行動の邪魔になり、右翼は完全に戦闘に参加する事は出来なかった。


 左翼を先からしたたかに打ち倒した後、向きを変えてポー憲兵中尉をバラバラに迫ってきた左翼の残りを突破させる。

 恐怖から中隊から離れそうになるモワッソン憲兵大尉に声をかけて、中隊を小さくまとめる。


 混乱状態に陥った左翼は、そのまま戦意を失って崩れた。

 1個中隊がほぼ1個大隊を完全に突き崩した。


 中隊の向きを変えて再び、ネイ中尉を先頭に左翼の中央から右翼に突き込む。

 左翼の混乱の中から突如出現した中隊に、残りの大隊は連携も出来ずに、それぞれ大隊長が殴り倒された。


 それぞれの大隊は連携が取れないどころか、部隊を小さくまとめる事も出来ずに、演習場は無意味に広がっていた。


 私は演習中止を命令して、連隊を集合させて駐屯地に帰還する。

 バラバラになった連隊は、帰路もバラバラと隊列を長く伸ばして、駐屯地に帰りつく。


 脱走兵も出たかもしれない。

 しかし今はそれを確認しなかった。

 連隊が天幕を張った駐屯地に帰りつくのにまた半日かかった。


 そして整列させる。


 「連隊長に対し、かしらぁーなか!!」


 ネイ中尉の号令が飛ぶが、連隊は固まったまま動かない。

 大隊長や中隊長、そして兵達もプライドを引き裂かれて私の顔を直視出来る者はいなかった。


 私はまた屎尿桶の上に立ち上がって声をかける。


 「諸君、今日はお疲れだった」

 「傷を負った者は、良く手当てをしてくれ」


 「今日はささやかながら、モワッソン憲兵大尉が演習を終えた諸君に酒も用意してくれた」

 「楽しく食べて呑んでくれ」

 「以上だ」


 連隊の将兵は私の叱責が飛ぶと思ったのだろう。

 みな、信じられない顔で私を見ていた。

 そして私はその将兵に微笑みを返す。


 「わかれ!」


 ネイ中尉の号令で私は、自分の天幕を探して連隊に背を向けた。

 自分の髪はこわばり、肌も垢にまみれて、体臭を発するのは女のみとし許せない。


 ポー憲兵中尉が駈けてきて先導してくれる。

 背後ではモワッソン憲兵大尉が憲兵隊に酒と料理を運ばせているのだろう。

 歓声が聞こえてきた。

 将兵に表情が戻ってくる姿が想像できる。


 駐屯地司令は迷惑している事だろう。

 しかし憲兵隊の要請は断れる訳がない。


 私は軽く笑った。

 そうだ。今日から髪を伸ばそう。

 女らしく。

 あの男に女だともっと良くわかる様に。





 【マリーエンロッゲン領西南部ツィングシュト地方 ヴァシュリンガー分隊】



 「ヴァシュリンガー様、前方に騎馬隊です」


 御者をしていた兵が、声を小さく報告する。

 俺は自分の見張り区域をざっと見回して異常が無い事を確認すると、前方に目を向けた。

 確かに地平線に馬の集団がかすかに見える。


 「御者を変わろう」

 「お前は、ホーエンヴァルト少尉とゾッキング曹長に道を外れて距離を取る様に伝えろ」


 「わかりました」


 兵は手綱を俺に渡すと身軽に御者台から飛び降りた。


 「スラティナ。こっちに座ってくれ」

 「お前にしてもらいたいのは……」


 「わかってるわ。妻のフリでしょ」

 「いざとなったらこの子の具合が悪いから助けてくれとお願いするわ」


 赤子を抱きながら、真剣な表情を前方の騎馬隊に向ける。

 本当に少女と思えぬ胆力だ。


 俺は馬車の速度を下げ、ゆっくりと進み始めた。

 騎馬隊は恐らく領域を封鎖している治安部隊だろう。

 という事はマリーエンロッゲン領も終わりが近いという事だろうか。


 騎馬隊が俺との距離を詰めているからだろう。

 馬影は次第にはっきりとしてきて、全員騎乗しているのがわかる位にまでなる。


 俺は速度を落として騎馬隊が見逃さないか、別な方向に向かわないかを期待したが、残念な事に騎馬隊から2騎がわかれて駆けてくる。

 そして街道を塞ぐ形で馬体を横にした。


 俺はその騎馬の遥か手前で馬車を止めて様子を見る。

 昼夜を分かず歩かされ続けた馬が安堵のいななきをあげる。

 やっと休めるという訳だ。


 スラティナの荒い呼吸が聞こえてくる。

 注意深く見ていると、騎馬はゆっくり歩きながら近づいてきた。

 弓は持っていない。剣を腰に帯びているだけだ。

 戦争できる金属甲冑と違って、皮鎧を見にまとってる。

 身軽そうだ。


 騎馬は二手に分かれると左右から御者台を囲む。


 「お前は誰だ。どこへ行く」


 俺の側に回った騎士が距離を取りながら、固い声をかけてくる。


 「ロッケンフェルトにありますザルゲンの村からやってきました、スラティナ・ザルゲンです」


 この少女は本当に頭がいい。

 ビストラの族名ファミリーネームを出さない機転が利く。

 俺はその事を注意するのを忘れていた位なのに。


 「戦争で暮らせなくなりましたので、親戚の家に行く途中です」


 ここは無理に俺が口を出さずにスラティナに任せた方が安全かもしれない。

 スラティナへの信頼は高かった。


 「夫がいるのにか?」


 俺の側の騎士が俺を指さす。

 俺は口を大きく開いて喉を指さした。


 「懲罰戦争で負傷したのか?」


 左右に振れる馬を制しながら俺に聞いて来る。

 俺は頷いた。


 騎士は首を荷台の方に振ると、スラティナ側を固めていた騎士が後部に回る。


 「全員子供です」


 騎士は俺から目を離さず、報告を聞く。


 「丘の影に隠れている馬車は?」


 騎士は俺の顔から目を離さない。

 ここで変に俯けば感づかれる。


 「同じ村の子供達です。今度の戦争で親を失って旅を共にしています」

 「申し訳ありません。怖くて離しました」

 「大人は私達だけだったものですから」


 「お前が大人?」


 騎士がちらりと俺から目を離して、スラティナを見る。

 その疑問はわからなくもない。


 「私たちの子供です」


 スラティナは抱いている赤子を見せる。

 荷台を確かめていた騎士が馬から荷台へと乗り込んでいた。

 布をどかして荷物を確かめている。

 何もある筈がない。


 俺の隣で警戒する騎士が手招きする。

 騎士に近づけという命令だ。

 俺はスラティナに頷くと、御者台の上に立ち上がって素直に近づく。


 腰の後ろに隠したナイフを感触で確認する。

 何かあればすぐに抜けるように、体を僅かに緊張させる。

 俺の意思を悟られないように、決して視線は合わせない。


 騎士は無遠慮に顔を寄せてくる。


 「お前……」

 「ノイシェーハウのアクティム・ヴァシュリンガーだろ」


 俺の全身が緊張する。

 バレている。


 頭の中が忙しく動き出す。

 どうする? 今すぐこいつを殺すか?

 右腕を気付かれないように、少しづつ腰へ持っていく。


 しかし荷台にはもう一人騎士がいる。


 例えこいつを殺して荷台の騎士を殺して切り抜けても、残りの治安部隊が一人でも生きて帰れば、報告される。

 そうなれば王国内でノイシェーハウ家とマリーエンロッゲン家での内乱になって、ノイシェーハウは逆賊になり、王国全体と戦わなければならない。


 確実に争いは大きくなる。

 ではどう切り抜ける?


 激しく自問する。

 時間をかけて疑念を抱かれてはならない。

 どう切り抜ける?


 「このまままっすぐ南へ行け」

 「ここはマリーエンロッゲンの端も端だ」

 「最初に当たった王の街道は既にパジン家の領地だ」


 俺に更なる衝撃が襲う。

 こいつは何を言ってるんだ?

 俺に助言をしているのか?


 俺が何故という顔を向ける。

 騎士は荷台の騎士を気にしながら早口で言う。


 「誰もあれが懲罰戦争などと思っちゃいない」

 「お前はあの戦争の後始末をした英雄だよ」


 ちらりと俺の目を見る。

 しかし直ぐに神経質そうに荷台の騎士を見る。


 「少なくとも俺にとってはな」

 「王城の宿営地で入場するお前を見ていたんだよ」

 「感謝しながらな」


 俺の胸を小突く。

 騎士は顔を離すと、荷台の騎士を呼んだ。


 「行かせる」


 荷台の騎士が降りて、騎乗すると俺を見逃した騎士も離れた騎馬隊へ戻って行った。

 俺はため息をつきそうになるが、スラティナが代わりにため息をついてくれる。


 「乗り切れたみたいね」


 スラティナが離れ行く2騎の騎士から目を離さずに呟く。


 「ああ」


 俺も騎士から目を離さずに応えた。

 手綱を振ると、馬が反抗のいななきを一つして、ゆっくりと馬車を曳き出す。


 ホーエンヴァルト少尉とゾッキング曹長が隠れた丘を見ると、兵が腹這いになってこちらを見ているのがわかった。

 顔を出したのだろう。

 騎馬隊が消えるのを待って、姿を現す筈だ。


 今頃体が震えてくる。

 綱を通して馬に誤った命令が伝わらないか心配になる。

 とにかく助かった。

 とにかく本当に助かった。


 とにかく王の街道に抜ければ、マリーエンロッゲン家の領地を抜けてパジン家の領地に出る。

 これでマリーエンロッゲンの封鎖は突破出来た。


 俺はスラティナに笑顔を向ける。

 しかし俺を見返したスラティナの顔は強張っていた。


 「どうしよう……」


 スラティナが戸惑いの声を上げた。

 我慢していた冷や汗が溢れるのがわかる。


 「どうした?」


 一度も瞬きをせずに、スラティナがまっすぐ俺に訴えかける。


 「赤ちゃんが今日、ずっと泣いてくれない」


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 次回 命 合流


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