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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
88/212

◇44 命 南下(サウス・ロー)


 【マリーエンロッゲン領西中部ヴストロ地方 ヴァシュリンガー分隊】



 低木の麓に老婆を埋めた。

 この広がる草原に埋めてしまえば、完全に風景の中に消える。


 もう、老婆がこの大地に立っていた形跡はない。

 馬車に戻る最中にスラティナに声をかけた。


 「生まれた村ではないが、マリーエンロッゲンの土地で生まれ育ったのなら、その土地に帰してやるので良かったと思う」

 「しかし、子供達に感傷的な様子がない」

 「スラティナとあの老婆は親戚か何かか?」


 スラティナは赤子を揺り動かしながら、俺に向き直る。


 「私もよくわからない」

 「懲罰戦争が終わって、あのお婆ちゃんがフラリと村にやってきたの」

 「だから私の家でお世話していたの」


 「お人好しな事だな」

 「こんなに子供を抱えて、良く生活が出来る」


 俺はこのスラティナの底なしのお人好しに舌を巻く。

 この世の厳しさはスラティナが俺に教えてくれる。

 良く今まで生きてこられたものだ。


 「兄の仕送りのお陰よ」

 「あの村で現金収入だけで生活できるのは私だけ」

 「だから、子供達も集まる」


 「なるほどな」


 スラティナが赤子を俺に押し付ける。

 俺も自然にその赤子を受け取って抱く。


 「どこへ行くんだ?」


 背を見せるスラティナに声をかける。

 2つの三つ編みは俺に向けたまま肩を怒らせる。


 「お花を摘みに行くのよ! 変態!」


 俺はそのまま馬車へ向かった。

 抱かれ心地が違うのか、少し体をもぞつかせて、小さな口を精いっぱい開けて欠伸をする。


 作りが小さいだけで本当に人間なんだな、と改めて思う。

 頭を少し撫でてやると、俺の胸の方へ顔を向けて再び寝た。


 俺達は再び南下を続ける。

 本格的な酪農地帯に入ると、人家は街に集中して郊外の農家は姿を消した。

 そして乳を分けて貰える女性はほぼ皆無になった。


 この世界に数多の女性がいるが、その女性の人生においては、乳が出る時間は酷く短い。

 酪農地帯では、人間の乳の代わりに家畜の乳は多分に手に入れる事が出来た。


 俺はこの腕の中で揺られて眠る赤子を見て心配になる。

 昨日から赤子が泣く時間は短く、間隔は長くなり、眠っている時間が長い。


 おむつ交換をする手間も減ってはいく。

 俺の鎧下を引き裂いておむつを作っているから、残り少ない中では少しありがたい。

 ただそれ以上に心配になっていく。


 後ろを振り返ると老婆が減った分、子供たちの空間にゆとりが出て、思い思いの格好をして揺られている。

 だが疲労が激しい。


 どこかで休ませるか。

 しかしそれでは時間がかかって、封鎖を突破する可能性が低くなってしまう。

 更に合流が遅れれば、俺達だけでノイシェーハウ領に戻らなければならない。


 そして俺がノイシェーハウ領まで、率いなければならないのはこの馬車列だけではない。

 1000人以上が待っている。


 また同じ苦渋の決断をする。

 このまま進むと、自分の心に刻む。


 あの時の中隊の重傷者達は、自らの希望で戦勝記念式典への旅に出た。

 しかし今回のこの子供たちは違う。

 俺が拉致した。





 【首都ゴールドキャッスル ノイシェーハウ上屋敷 謁見の間】


 「待たせたね。私もアイヒェンも忙しい身でね」

 「で、なんだい?」


 ノイシェーハウ上屋敷の謁見の間の中には、通常部屋の外に立つ警備兵ワッチが立っている。

 言うまでもなくこの部屋の主を守る為。

 今日の客はそれだけ警戒を見せつける必要がある。


 部屋の中央にはこの屋敷の主の|ドロッセル・ノイシェーハウ《お婆様》が椅子に座り、そのドロッセルの肩に手を乗せて|アイヒェン・ノイシェーハウ《わたし》が立っていた。

 そして壁沿いに家宰スチュワートのガンメリンを始め、使用人が立っている。


 「わざわざマリーエンロッゲン家の司法官が当家にやってくるんだ」

 「公式のものだろう?」


 |ドロッセル・ノイシェーハウ《お婆様》が手を振ると、床にかしづいている黒いローブを着た若い男が立ち上がる。

 それは魔法使いが着るローブと違って、前合わせに天秤が金糸で縫い込まれている。

 まだ経験が浅く、一人で出向かされた司法官は汗を拭くのも忘れてドロッセル(お婆様)を見る。


 「単刀直入に申し上げます」

 「我が当主であるマリーエンロッゲン様は、容疑者の引き渡しを望んでおります」


 「ほう、容疑者ね」

 「それはコルネスティとモニオムとかいう暗殺者の事かね」

 「それとも私のひ孫の事を言っているのかね」


 ドロッセル(お婆様)は肘掛けをリズムよく指で叩きながら返す。

 鋭い視線が若い司法官を射すくめる。


 「3人とも……です。法に照らせばマリーエンロッゲン家の領民は、マリーエンロッゲン様が裁きます」

 「そして、マリーエンロッゲン領で他家の騎士が警察権を行使する事を、マリーエンロッゲン家は認めていません」


 「若いの。ならノイシェーハウの返事をあの小僧に伝えなさい」

 「私を殺そうとしたものは、お前さんが捨てた人間だ」

 「お前さんにとやかく言わせないよ」


 ドロッセル(お婆様)は、背もたれに体を預ける。


 「それにだ。ひ孫は私を殺そうとした者を捕らえに行ったんだ」

 「お前さん方は、ひ孫以上に熱心に暗殺者を追ってくれるのかい?」

 「こっそり逃がすつもりなんてないだろうね」

 「ノイシェーハウと戦争がしたいなら、この私を逮捕していきな」


 ノイシェーハウ家の家人に睨まれて、若い司法官が竦みあがる。

 今頃、この上屋敷から生きて出られるのか心配になり始めているのではないか。


 ドロッセル(お婆様)が戦争という言葉を持ちだしたのは尋常じゃない。

 それ位の言葉だった。


 ノイシェーハウ家はこれから冬の戦いに備えるのに、マリーエンロッゲン家と戦争をする事も出来る。

 少し考えればそんな体力はないのだが、最高実力者の決意をもってすれば可能かもしれない。


 「今の御言葉、そのままご主人様マイロードにお伝えします」


 「構わないよ」

 「さぁ、もう帰っておくれ、あんたの顔をこれ以上見たくない」


 ドロッセル(お婆様)が交渉の余地が無い事を告げる。

 若い司法官は頭を下げると、急いで謁見の間から出ていった。


 屋敷から完全に出るまで、生きた心地はしないだろう。

 警備兵ワッチドロッセル(お婆様)の気持ちを斟酌して、屋敷から出るまで威圧を続けるだろうから。


 「困ったひ孫(アクティム)だねぇ」


 お婆様が肩に乗せた私の手に、手を重ねる。


 「お前は本国に帰らないで、ここに残るんだよ」


 「えー」


 私は不満を口に出す。

 アクティム(マイボーイ)に会うのが遅くなってしまう。

 でも、思わず声が弾んでしまう。


 「子供の不始末の始末は、母親の仕事だろ」


 「はい」


 お母様(わたし)は役に立てて嬉しいわよ。

 アクティム(マイボーイ)





 【共和国 東方軍集団管区・タラソナ地方 ミク大佐】


 草原の真ん中に陣を組む。

 中尉が率いる小隊を頂点に、憲兵隊を左右に配置。

 出来た三角形の中心に私が立つ。


 「さて中尉。お前の名前を聞いていなかったな」


 「ボスダロ・ネイです。連隊長殿」


 改めて中尉が敬礼を返してくる。

 金色の髪を短く刈上げ、無精ひげも全て剃り落とされて、脱走した時の姿とは見違うほど兵らしくなっていた。

 幾分垂れた目が軽薄そうで気に入らないが、顔の好みと実力は別物だ。

 答礼を返す。


 「そうかではネイ中尉。ひたすら突っ込んで相手を殴り倒せ。それだけだ」

 「突っ込む場所は私が指示する」


 「簡単ですね」


 「簡単だ。しかし殴り倒す相手は連隊規模だぞ」

 「疲れないように効率よく倒していけ」

 「疲れたらその時点で負けるぞ」


 「わかりました」


 私は集まった残り二人の顔を見る。

 一人は神経質そうな顔を青ざめさせて震えている憲兵大尉。

 そしてもう一人は酷薄な笑みを浮かべて、憲兵中尉の肩章を付けていた。


 「さて、右翼のモワッソン憲兵大尉と左翼の君の名前を教えてくれ」


 「ソヴラード・ポー憲兵中尉です。この引率中隊の中隊長をしています」


 「なるほど。ではモワッソン憲兵大尉とポー憲兵中尉」

 「両翼を守って貰うぞ、ただし私が方向転換を命じた時は先鋒に変わるから注意しろ」

 「憲兵隊というのは、何かと嫌われるからな」

 「兵達の中にはこの機会を貴貨として、お前達を積極的に狙ってくるかもしれないぞ」

 「演習だからな、逮捕なんて出来ないぞ。気を抜くな」


 2人の憲兵隊将校が身を引き締める。


 草原の彼方を見れば、連隊が横列2段で整列しているのが見える。

 こちらを完全に舐め切っている。

 わからなくもない。


 こっちは1個中隊規模。それに対して向こうは3個大隊編成の1個連隊だ。

 警戒して方陣を組む訳でもなく、一呵殲滅の縦列陣や雁行陣を組む訳でもなく、がっぷり四つに組む横列陣。


 少数の敵に対して行う布陣ではない。

 機動力等、無きに等しい。

 何も作戦が無い事が見て取れる。


 大隊長毎の意見がすり合わなかったのだろう。

 これなら簡単だ。

 時間はかかるが引きずりまわして各個撃破だ。


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 次回 命 突破


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 本日、無事に1周年を迎えました。

 途中少し休載がありましたが、1年間書き続ける事が出来たのは、ひとえに読んで下さる方、ブックマークしてくださる方、ご感想・コメントを下さった方のお陰です。

 まだまだ書きたい事があります。

 これからも是非宜しくお願いいたします。

                         雨露口 小梅

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