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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
79/212

◇35 脱出 母達(マザーズ・レフューサル)


 【ノイシェーハウ上屋敷 ヴァシュリンガー邸】

 【戦勝記念式典翌日 夜】


 夜。

 城壁外街は人々の生活の明かりで、町全体の夜空から星が消えて地上に星が輝く。

 それに比べて城壁内の貴族街は完全な闇に包まれていた。

 その代わりにランプを手に警備兵シティワッチの巡回が目に付く。


 俺は自分の邸宅に戻ると、既に母達は集まっており居間パーラーにいた。

 広間ホールには従僕メイドが出発の準備を済ませていた。

 俺の言いつけ通り、手荷物だけのようだった。


 更には解雇されて俺が新しく雇った荷物運び(ポーター)の男もいた。

 良かった。無事に見つけられたようだ。

 俺は挨拶を後回しにする為に努めて無視する。


 モニオムとコルネスティは既に大お婆様への挨拶に上屋敷へ向かった。

 忙しい身なんだろうが、今日の夜は俺達の為に予定を開けていてくれた。


 従僕メイド護衛騎士ガーズとソチェニを広間ホールに残して居間パーラーへ向かう。


 「失礼いたします」


 扉を開けて入室すると母達も俺を待っていた。

 【お母様】は俺の椅子に座り、【母上】まるで【お母様】と夫婦の様に傍で立っており、【母さん】と【マム】は並んでソファに座っていた。


 「突然のお呼びたて申し訳ありません」

 「お母様、母上、母さん、マム」

 「これから私たちと共に郊外の派遣軍宿営地まで行ってください」

 「時間がありませんので、直ぐに出立をお願いいたします」


 「ティム。宿営地に行ってそれで終わりではないだろう?」


 王室近衛軍ロイヤルガーズの軍服に身を包んだ【母上】が穏やかに俺を制する。


 「はい。ノイシェーハウ本国に向かって頂きます」


 「アクティム。どうして私たちが本国に戻らないとならないのだろうか」


 ソファに座る【ダークエルフ】の【マム】が俺に優しい顔を向ける。


 「私と部下に危険が迫っております。そして今、部下の家族に危険が迫っております」

 「当然ながらお母様達にも危険が迫る事が予想されます」


 「小僧。私はお前の脱出を手配している筈だが、ここで私がいなくなったらどうするんだい?」


 やはりソファに座る会社カンパニーの【母さん】が俺を諭す。


 「アクティム(マイボーイ)。私たち以外残された人はどうするの?」


 ドレス姿で俺のソファに座っている【お母様】が、俺の申し出を拒絶する。


 俺は断言する。


 「関係ありません」

 「俺には全てを救うチカラはない」

 「なら、今、俺の大切な人を守るだけです」


 息を大きく吸う。

 脆弱な主張だとはわかっている。

 それでも一気に伝えきらないと。


 「行程はどうにかします」

 「短絡的と思って下さっても構いません」

 「計画より貴方たちの命が大切です」

 「俺の気持ちを言えば、会社カンパニーの従業員は捨て石です」


 そうだ。

 俺は大切な人しか救えない。


 「俺の我儘でも、横暴でも構いません。恨んでも構いません」

 「それでも俺は貴方達を守るだけです」

 「俺の母を」


 僅かな沈黙が室内を流れる。


 「アクティム……」


 「はい【マム】」


 ゆっくりと俺に向かって歩いてきた黒装束の【マム】がそっと俺を抱きしめる。

 頭が何度も何度も撫でられる。

 【マム】は俺の肩に顎を乗せて俺を抱きしめていた。


 「お前は優しい子だね」

 「そうやって、大切な者を守ろうと走ってきたんだね」


 「これからも守ります」

 「俺の近しい人には誰も死んで欲しくない」


 「でも大丈夫だ。母達は大丈夫だ」


 「その根拠を教えてください」


 【マム】に抱きしめられたまま【母さん】が答える。


 「会社カンパニーは少なくない領家の懐を握っている」

 「マリーエンロッゲンだってそうさ」


 「俺の為に嘘を言っているのではないですか?」


 「嘘なものか。息子に嘘を言う母がどこにいる」


 【マム】に抱きしめられたままの俺の頬を静かに歩いてきた【母上】が撫でる。


 「王室近衛軍ロイヤルガーズの大佐は伊達じゃないのよ」


 「私はほら、ノイシェーハウの姫だから」

 「貴方以外は手を出せないの」


 【お母様】は相変わらずの調子で俺をからかう。


 「では【マム】。貴方だけでも一緒に来てください」


 【マム】は更に俺の体を抱きしめる。


 「私はお前の母で良かったと本当に思う……」

 「でも大丈夫だ。【ダークエルフ】は、【人間】には捕まらない」


 「嘘です」


 俺はリンヴェッカーから聞いている。

 その長命の秘密を探る為に、解体され研究され食べられる。


 「本当だ。少なくとも私は捕まらない」

 「アクティム。お前に約束するよ」

 「必ずノイシェーハウ本国で会おう」


 俺はチカラを抜く。

 【マム】の体の柔らかさが顎に伝わる。


 「頑固な母達です」


 「アクティム(マイボーイ)が私たちに似たのよ」


 【お母様】が笑う。


 「必ず生きていて下さい」

 「ノイシェーハウ本国でお待ちしています」


 「その時は私たちで貴方の童貞をどうにかしましょうね」


 【お母様】が俺をからかう。


 「考えておきましょう」


 母達が生きているなら、背徳など安いものだ。

 【マム】が俺を離すと、母達がいる居間パーラーを後にした。





 俺は居間パーラーから広間ホールへ出てくると出し抜けに命令する。

 シュール小隊に守られながら宿営地にいく事。

 緊迫した雰囲気に従僕メイドも荷物運び(ポーター)も無言で広間ホールを出ていった。


 これ以上は時間を取れない。

 有無を言わさず行動を促す。


 「ソチェニ。直ぐにお前が呼ばれるぞ」

 「リンヴェッカー、シュール。ノイシェーハウの使用人に呼びに行かせるからもう少し待っていてくれ」

 「ヌワ。お前もリンヴェッカーと共に来い」


 「わかりました。ご主人様マイロード


 「さぁ行こうか。ソチェニ」


 「俺は戦場に行くわけじゃないぞ」


 「お前は行かない」


 俺は剣を掴むと自分で上屋敷につながる渡り廊下への扉を開けた。



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 次回 脱出 迫る危険


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